ジャパンインベスト 銀行セクターアナリスト
ブライアン・ウォータハウス氏に聞く

今回は、ジャパンインベストメントの銀行セクターアナリストのブライアン・ウォータハウス氏に、6月上旬の銀行の決算説明会が連日続く忙しい中に時間を作ってもらって、日本の銀行セクターについてお話をお伺いした。

ウォータハウス氏と日本との係わりは?  

1970年初来日。 当時はスコットランドの紡績会社に勤めており、来日して藤沢の日本人宅に下宿したことから始まる。 

その後、1974年に銀行に入り、レバノン、スリランカ、ロンドンに勤務した後、1976年、グリンドレイズ銀行東京支店の渉外課長で赴任した。80年にはマリン・ミッドランド銀行東京支店のクレジットマネジャーに転籍。86年に同行が海外支店を閉めることになり、ジェームスケイペル証券東京支店に転じるが、2週間後にHSBCがジェームスケーペル証券を買収することになった。奇遇にもジェームスケイペル証券が居抜きでマリンミッドランド銀行のオフィスに入ったので以前のデスクと新しいデスクは10メートルと離れていなかった。 その後、HSBCジェームスケイペルl証券になり、2003年3月末まで金融セクターをカバーするアナリストとして活躍。 その後、オランダの銀行の顧問を経て、2005年4月にジャパン・インベストに入社。

2003年4月に日経平均株価が底打ちし、メガバンクの株価が急速に回復したがその大きな要因はなにだったのか?特に海外の投資家が銀行株を大幅買い越しした理由は何だったのか?

2003年の春先まで日本の銀行は生き残ることができるかどうかは疑問だった。海外では日本銀行以外の銀行は倒産の噂が絶えなかった。そのような中にあって、りそな銀行が救済されることを契機に日本の大手銀行は潰れないと海外の投資家は判断し、日本の経済が回復すると考えた。 

そういう局面では金利敏感株の出番であり、ストレートに銀行株がターゲットになった。当時株式の持ち合いが崩れてきていたので銀行株式の流動性が高まり市場に出回っていた。だから外国人投資家が銀行株式を大量に取得することができた。

少し遡って話をすると、私は銀行セクターのアナリストとして2003年までスーパーベアリッシュだった。90年代後半からは銀行アナリストというよりも政治家アナリストと言ったほうが正確であったかもしれない。その理由は、銀行を救済するかどうかは政治家の判断だったからである。

当時、銀行アナリストとして政治家とや銀行の経営者と会ってJapan is different(日本は欧米とは違う)と思っていたが、北海道拓殖銀行、長銀、日債銀と倒産が続きJapan is differentじゃなくて、Japan is same(日本も欧米と同じ)と考えた。 でもりそな銀行に政府が救済の手を差し伸べたことでJapan is defferrent と判断して、2003年の夏以降外国人投資家が日本の株に安心して投資できるようになったわけである。

日本の大手企業の手元流動性は高く、銀行から借入を行う必要がないと考えるが、銀行のどこに成長性を求めて外国人投資家は銀行株を持ちつづけるのか?

外国人投資家は2003年に日本の銀行が潰れないと考えただけではなく、日本の銀行は生き残りできたことで次なる新しい時代に移ると考えた。

米国では80年代に金融機関が数千行から数十行まで統合・合併が進んだ。欧米では統合すると効率化が進んで収益が増えるが、日本ではそのように効率化が進まなかった。例えば、DKBは合併後20年間人事部が二つあったことは皆さんよくご存知の話である。

我々は、それは本当に統合?合併?と疑問を持っていた。そして現実問題として、日本の銀行は生き残ったことに満足して新しい時代に動けないでいる。だから2003年に銀行株を買い進んだ外国人投資家が少し株を売りつつある。

なぜ外国人投資家は売り切らないのか?

(にこやかな笑顔で)夢はいつも現実よりもいいものだ・・・(現実は何も変わらないが、夢を見つづけていることのほうが幸せという意味)

外国人投資家は、日本の銀行は98行から統合・整理が進みいずれは15〜20の銀行グループになると期待している。 

過去を振り返れば、26年を要したが、大手銀行は23行から3メガバンク+大手9行まで統合が進んだ実績がある。 

地銀も統合すると考えていいか?

日本には都道府県が47ある。法律的には地銀はメガバンクと同じだが地方の銀行業務と都市部の銀行業務は異なる。

道州制の導入で47都道府県が12−13州に変わるときがチャンスとみている。日本には本当の意味でのリテールバンクがないので、大きい地銀が小さい地銀を買うか、メガバンクが大きい地銀を買う可能性が出てくる。

欧米の例をみるとスペインのサンタナ銀行は22カ国で14,000店舗を保有してリテールバンクを展開している。一方、日本を見ると、すべての銀行の支店を合わせても約10,000店舗しかない。メガバンクを見ると、地方に行けば都道府県の県庁所在地に店舗をもっているくらいで全国規模のリテールバンク業務は出来ていない。

この後でも説明するが、個人を対象したビジネスに注力するにはM&Aによる店舗拡大は必須である。そこの部分に外国人投資家は注目しているといえる。

地銀とメガバンクのどちらの株を持っているのがいいのか?

強い銀行と強い銀行の合併は過去の1件だけで、それは東京銀行と三菱銀行の合併だった。その他の合併は強い銀行と弱い銀行の合併だけ。

強い銀行が弱い銀行を買えば弱くなって株価は下がる。投資としては救済色の強い地銀の合併は弱くなるので短期的は売りということになるが、道州制の導入まで見据えていくと中長期的には買い・・・とも考えられる。

外国人投資家の動向を見たときに、すでに外国人保有比率が30%超になっている銀行についてのアップサイドは限定的と考えられる。 2003年当時、外人持ち株比率はメガバンクが8%程度、地銀が0〜4%だったが、今は大手地銀ですら30%台程度まで上昇している。 

外国人投資家が30%程度を保有する銘柄に関して、外国人投資家の投資のタイムホライゾンは非常に短期的であり、グッドニュースには反応薄でバッドニュースには過剰反応して売りを出してくる。

その意味では、地銀でも外人持ち株比率が低いところを探すのが賢明である。

銀行を見分ける指標とは?

自分はアナリストだが心はまだ銀行員ままで、仕事としてだけでなく銀行の事業そのものに非常に興味を持っている。

私が評価する銀行とは、小さくても収益性を高めるための効率化に何が必要かわかっている経営者がいる銀行だが、そのことがわかっている経営者は少ない。

決算短信は人間に例えれば洋服で着飾っている状態を見ているようなもので、その本心が見えない。 私がアナリストとして、表面的な短信の数字はいいのだが、心はどうか?を確認する。 そのためにもJIのコンプライアンスとしてレポートを出す前に本店を訪問している。

海外の金融機関が日本の金融機関をM&Aをする可能性は?

客観的に見て、日本の銀行のROE、ROAは海外の銀行よりもよりも低い。つまり競争がものすごく激しいことを意味している。

また、日本は流動性が高すぎるので、リスクの割にはリターンが低くすぎる。外銀が日本の銀行を買うチャンスはあるかもしれないが、経営を考えればそれは疑問。

例えば、HSBCは日本で140年の歴史があるが、いままでリテールバンキングをやっていなかったことを見ればわかる。

私がロンドンに住んでいるときにイギリス人として、英国の銀行がいくつもあるのに外銀に口座を開けたいと思わなかった。同じ島国の日本で日本人が外資系の銀行に口座を開ける必要性が見つからない。

投資の視点で見ると、私が外国の銀行の株主で、その銀行が日本の銀行を買ったら、自分ならその外銀の株を売ることになると思う。

それくらい外銀の日本の銀行へのM&Aは難しいと考える。

■編集後記

英国のウェールズに生まれたので英語も外国語だというが、日本語は非常に流暢だ。

ウォータハウス氏は日本で銀行セクターをカバーしている外国人アナリストとしてその歴史は最長で年齢も最年長(54才)である。

ジャパンインベストのコンプライアンスとしてレポートを書く前に必ず銀行の本店を訪問するらしいが、本店まで出かけると経営陣とインフォーマルなミーティングの場があったりして本音の部分を聞くことができるのでアナリストとしては大変参考になるという。

たぶん、地銀の経営者も外国人投資家に自らの銀行がどのように評価されているのかを知りたいというお互い様のところも多分にありそうだ。

地銀訪問となると日本の北から南まで地方都市を回らなければならないが、ウォータハウス氏は日本食が好きで、なかでも寿司には目がないそうだ。 特に、東北が好きで、秋田や青森の寿司とお酒が気にいっているようである。

オックスフォード大学に在籍した頃は日本の古典を学んでいたそうだが、日本の地方都市を回ることはウォータハウス氏にとってはアドベンチャーであり本人の興味をそそる部分があるそうだ。

そんな日本通のウォータハウス氏は日本に金融業界に身を置いてすでに30年が過ぎる。2003年には一度リタイアしたが、再びこの世界に戻ってきたのである。ならば日本の銀行経営者が新しい時代に移れるように啓蒙を続けていただきたいものである。

東京IPO編集長 西堀敬  column@tokyoipo.com
 
 企業DATA    ジャパン・インベストメント・グループplc
□証券コード 3827・マザ株価情報へ
□ホームページ http://www.japaninvest.co.jp/


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