是非、参議院選挙の前に読んで下さい!!

外国人アナリストの見た日本の課題とは?
ジャパンインベスト アナリスト スティーヴン・チャーチ氏に聞く

今週末に参議院選挙を控えているが、外国人は日本という国をどのように見ているのだろうか?今回は参議院選挙の公示日となった7月12日にジャパンインベストのアナリストであるスティーヴン・チャーチ氏にお話をお伺いした。

チャーチ氏と日本との係わりは?  

1967年英国オックスフォード大学の学生時代にファイナンシャルタイムスを読んでいると世界に面白い国が3つあると言う記事があった。それはイスラエル、南アフリカ、日本だった。夏休みを利用して3ヶ国を順に訪問し、広島で英語の先生をやったことが日本との最初の係わり合いだった。 

大学では金属学を学んだが、卒業後は監査法人のプライスウォーターハウスに就職した。ところが監査法人では興味が湧かない仕事ばかりだった。心機一転、英国のシェフィールド大学で日本語を学ぶことにした。

在学中に日本の文部省の奨学金で早稲田大学に留学し金融経済を専攻し、後に山一證券に入社して医薬品のアナリストとM&Aの業務に従事した。その後外資系証券界会社を経て1997年に独立、日本の金融行政の政策に関する研究を始めた。欧米の企業が日本に進出してくるときに日本の事情がほとんどわからず、経営トップが判断できないでいるのをみて外資の日本進出をアドバイスする仕事をした。 

その後2003年にジャパンインベストのCOOマーク・バージズ ワトソン氏に会って、今の仕事に従事するようになった。 

現在の調査の大きなテーマは平成改革。財投、公共部門の金融、地方改革・分権、財政などについて調査しレポートを作成している。

日本という国を分析するときの視点は?

日本という国を調査・分析する際に、ドイツや中国を念頭におくとより理解ができる。中国は官僚の国、ドイツは法律の国で日本も良く似ている。日本人がよく引き合いに出す英国や米国とは枠組みがまったく違うことを認識しておくべきである。 

国の運営という意味においては、日本は、政治家、官僚、経済界で成り立っている。

これは経済界の要望を政治家が汲み取り官僚が長期的な政策を練り上げるという仕組みである。そこで政治家が経済界と官僚の潤滑油的な役割を演じることにより族議員が生まれるのである。ところが、官僚が立案した政策が失敗に終わると族議員として責任を取るのが政治家という構図が出来上がっている。

世界を見ると、この様な日本の構造に近い国はフランス、ドイツそして北欧が上げられる。フランスにおいては官僚の天下り制度があるが、日本のように一方通行ではなく双方向となっているところが面白い。

最近の調査の中でもっともホットな話題は?

上場企業の経営者にとっては1年で一番憂鬱な株主総会がやっと終わったところだが、今年はモノ言う株主の登場やM&A関連で株主総会が大変だった企業も多かった。その意味では、行政が金融の近代化を進める中で議論がされているひとつがM&A法制度の整備である。

海外の投資家には日本のM&Aに関してその制度がどうなっているのかまったくわからないという意見が多い。そこで私は昨年施行された会社法について50人くらいの専門家を取材してきた。

日本は、経済産業省、法務省、経済界が1990年から議論を重ね15年間を費やして2005年にようやくM&Aのルールを整備することになっていた。そのルールとは米国のデラウェア州のM&A制度をベースにしたもので、会社を守るためにポイズンピルを使って敵対的買収者を排除するという仕組みを持ったものであった。

 

ところがライブドアがニッポン放送株を買占めた時に、ニッポン放送が導入を決めたポイズンピルに対して、東京高裁は商法の株主平等ルールの精神に相反しているとの判決を下してしまったのである。

そこで日本はM&A法制度の方向転換せざるをえなくなってしまい、英国のM&A法制度との折衷案を導入することになった。

英国のM&A行政とは?

1960年代に英国の証券会社ウォーバーグが大型の敵対的買収を仕掛けたことが発端となって作られたM&Aルールがある。もともと英国は法律にもとづく行政ではなくて紳士協定国。そのときに作られた紳士協定が英国のM&Aのルールとなり、現在はシティコード(英国金融界のM&A指針)となった。

問題は濫用的買収者をどう除外するか? シティコードでは、紳士協定で30%の支配権をもったら全株買収することになっている。つまりゆさぶりとか変なことが出来ないように資本力も兼ね備えないとM&Aができない仕組みとなっている。 

具体的にはスティール対サッポロHDの事前警告型の防衛策にみられるように敵対的買収者の持分が20%を越えたら発動される仕組みである。 

実務を考えると、M&Aの流れは急展開しているので、法律のみでルールを作ることは難しくシティコードのような指針がポイントとなる。またTOB合戦になると、当該のM&Aが指針に沿っているかどうかを裁判所が判断する仕組みとなる。その意味では、ライブドア対ニッポン放送とスティール対ブルドックはそれぞれ新しい指針を生んだと言える。

このような指針が理解できないと、本当にM&Aをめぐる新しい展開が理解できない。物事を分析するのに正しい理論が必要なわけで、正しい理論がないと分析がおかしくなり、正しい予想が立てられなくなるのである。

今後のM&A法制度のポイントは?

ブルドックの判決を読んだら濫用的買収者は除外するが、戦略的買収者は容認すると読める。

サッポロHDの例で説明すると、同じ20%超の株式を取得しても、それが戦略的な買収者であれば、産業政策上は問題ないわけで、それを容認するケースが必要になってくる。しかし枠組が出来ても法律の判例がないとどうしようもないので、戦略的買収者が認められるいくつかの判例が必要となってきている。

スティール対ブルドックはとりあえず決着したので、次はサッポロHDのケースがどうなるかが最大の関心事である。企業価値を上げる戦略的買収者が出てきたら裁判所が容認することが重要と考える。

世界第2位のビールメーカーであるSABMillerという評判の良い会社がサッポロ買収計画を持っているという噂がある。スティールは売却先としてSABMillerを想定しているとも言われている。もしSABMillerが戦略的買収者としてサッポロの規範に従ってTOBを実施して、裁判になりSABMillerに軍配があがると新しい指針が出来る。このようなケースを経済産業省の担当者は待っているのではないだろうか。

余談になるが、ちょうど海外にいる時に、スティールVSブルドックが起こったが、海外にはそのケースを正しく分析しているメディアはまったくなかった。

日本に戻ってきて、事の本質を知るには夕刊フジの金融の記事が大変役に立った。私は、本質は夕刊フジ、詳細は日経新聞と使い分けている(笑)。

参議院選挙も近づいて来て、最近、年金問題がクローズアップされているが、 議論の本質はどこにあると見るか?

財政問題が最重要課題と考えている。

最近、中央政府、地方政府、財政投融資をまとめた連結ベースの公的バランスシートが出来た。

それを見ると、日本の連結公的バランスシートは1975年の英国に似ている。 

英国と日本と比較するのに尺度を合わせるためにバランスシート残高の対GDP比を使うと良くわかる。日本の対GDP比のバランスシート残高は明らかに過剰となっている。正常な状態にするにはGDPの150%程度をバランスシート残高から圧縮しなければならないと考える。

1975年当時の英国はバランスシートを縮小するためにサッチャーとメジャー内閣は公的資産を売却し、民間の企業の会計・経営の概念を取り入れることによって解決を図った。

ところが、日本においてはバランスシートの縮小は霞ヶ関の官僚の権限が縮小することにもつながり中央官庁にとっては受け入れ難いプランである。

小泉内閣時代に竹中大臣(当時)が中心になって官庁の現金主義の単式簿記を発生主義の複式簿記に変更するように指導をした。某国立大学の教授(元大蔵官僚)が自民党と組んで官庁会計を複式簿記にするソフトを作ったことが4月20日の新聞で報道され霞ヶ関は騒然となった。

その結果、地方自治体と財政投融資においては今後5−6年で複式簿記を導入することになったが、中央官庁は猛烈に反対しておりいつ導入できるかまだはっきりしない状況である。

そのような状況の中において、政府は財政問題を解決するためのタイムスケジュールを作成している。

2011年にプライマリーバランス均衡
2015年に財政バランス均衡
2020年までにバランスシートの縮小を実行

このスケジュールを見ると、2020−25年に日本の高齢化がピークを迎えるので、それまでに解決しておく必要に迫られているともいえる。

この財政問題は解決できるのか?

私見ではあるが、竹中前大臣が目指した小さな政府に対して財務省は複式簿記導入と公的バランスシートの縮小に猛反対していることから、上述の計画の進捗が遅すぎて、何か事件があったら計画が延期されるのではないかと危惧している。

バランスシートの圧縮の対象となる公的資産とは、地方自治体が運営している公営企業(上下水道)や土地建物を指しているが、その65%は地方に存在している。土地建物は無論のことであるが、公営企業も民営化して株式を放出して現金化を行うことができる。すでにEU諸国で公的部門の民営化は実績として存在している。

財政改革が進めば、2016年以降公的バランスシートの圧縮は(現在の英国水準)まで低下して健全になるはずだ。

実現可能性については、歳入の部分も考えなければならなくて、2010年に消費税に替わってEU型の付加価値税の導入が検討されている。そして付加価値税導入後は最高付加価値税率が2010年に10%、2020年に20%となることが前提となっているが、実務的に導入には相当の抵抗がありハードルは高いと言える。
(※欧州ではすでに付加価値税の最高税率は20%程度)

とは言え、思い切って公的バランスシートを圧縮すれば消費税を20%まで上げる必要はないと考えられる。

小泉・竹中両氏は、財務省が描いた財政改革プランを進化させ優先順位を付けて加速させた。いまは官僚が平成改革プランを巡航速度で粛々とやっているが、それをもっと加速させないといけない。


かつて欧州で単一通貨ユーロを導入する際に、各国に求められた財政の健全基準がある。年間財政赤字はGDPの3%以内、一般政府の公的債務をGDPの60%未満であった。欧州の基準が財政の健全性を表すグローバルスタンダードだとすれば、日本は現状の財政状態ではEU基準を満たしていないのでユーロに加わることもできないほど不健全な状態である。

今週末には参議院選挙があるが、次の総選挙で民主党が総理を出して欧米の成功例(スウェーデンの年金、英国の財政、イタリアの公営企業)を日本でも実現するくらいのことが起こらないといけないと考える。消費税アップはハードルが高いとすれば、公的バランスシートの圧縮以外に国民の税負担をこれ以上高めない方法はないといえる。

保守逆転の政権交代が必要となる理由は、方向転換には政治的な変化が必要で、しがらみのない人でないとできないからだ。それは小泉・竹中両氏のコンビが完全なるアウトサイダーだったからこそここまで改革が進んだことが実証しているとおりである。

■編集後記

スティーヴン・チャーチ氏の物事をとことんまで掘り下げて本音を探る姿勢には感服した。

日本人は以心伝心で言わずもがな・・・と考えるが、チャーチ氏は理路整然した解釈が出来ないと海外投資家に状況説明ができないと考える。だから霞ヶ関の官僚や多くの識者、実務家に取材を重ねて正しいことは何かを追求していくのである。

今週末の参議院選挙では年金の記録問題が大きな争点となっているが、その原資となる財政そのものが破綻しかけているという事実を我々はしっかりと認識しておく必要がある。

年金掛け金の記録が正しくても、年金の支給年齢が10年後には65歳から70歳になっているかもしれない。私の年代だと年金支給年齢が70歳どころか75歳という声も聞こえてくる。

そのような中において、政治家が物事の本質を見極めて選挙のマニフェストを発表しているのかどうかを我々国民はよく吟味したうえで7月29日に投票する必要があるだろう。

東京IPO編集長 西堀敬  column@tokyoipo.com
 
 企業DATA    ジャパン・インベストメント・グループplc
□証券コード 3827・マザ株価情報へ
□ホームページ http://www.japaninvest.co.jp/


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