先週は今年の春から夏にかけてのIRセミナーの最終回となる京都での開催が土曜日にあったので、それに先駆けて木曜日から関西に出かけた。
いつものことであるが、せっかくの関西出張ということで短時間に複数の企業を訪問することになった。
木曜日の夕刻は京都の上場準備企業、金曜日は大阪の今年IPOした企業、姫路のIPO準備企業、そして最後に訪問したのは神戸の老舗アパレル企業であった。
今日の話題は、最後に訪問したアパレル企業のキムラタン(8107大証1部)である。
当社の大阪のスタッフからIR活動をお手伝いすることになったので是非一度一緒に訪問して欲しい、と依頼されたのは1週間程前のことである。
まずはYahoo!Financeで株価や時価総額などをチェックしてみた。するとなんと株価は20円台と額面割れの状態の会社。でも時価総額は75億円もあるという不思議な会社と遭遇してしまった。
続いてホームページで「飛翔」という冊子を見つけた。副題は「企業再建から新たなる成長への取り組み」と書かれている。
冊子のページを繰ってまず驚いたことは、過去10年以上にわたり毎年二桁億円の赤字を続けている企業であるということだ。
過去10年に2度の大きな金融環境の悪化があった。最初は1997年、1998年で長銀、日債銀、山一證券などが倒れ、世に言うところの貸し渋りが横行したときだ。次は2002年、2003年で日本の銀行は不良債権の処理に追われ、2期連続で赤字を出した企業への与信は打ち切られ、返済されない銀行の債権は整理回収機構に譲渡されたときだ。
このような経営状態で2度の金融危機を乗り切ってきたのはどんな企業なのか?はたまた経営者とはどんな人物なのか?という疑問と好奇心を持って、神戸は三ノ宮の本社を訪問した。
JR新神戸駅を降り立つと梅雨明けの真夏の熱気がホームに漂っていた。
約束の時刻が17時なのに既にその時刻は過ぎている。足早にタクシーに乗り込むと10分程度でJR三宮駅近くの本社が入っているビルの前についた。
10階までエレベータで上がり外の暑さとは打って変わったひんやりとした応接室に通されると、夕日に映える六甲山の山並みが目に入ってきて少し涼しさが増したように感じた。
そこに現れたのが、満面の笑みでクールビズ姿が良く似合う夕日色にも近いピンクのシャツを着たキムラタンの社長、川床博(かわとこ ひろし)氏であった。
キムラタンはベビー服、子供服のSAP型小売チェーンを展開する企業。
2004年6月に社長に就任してからちょうど3年が過ぎたところでお話をお伺いすることになった。
就任直後は過去の債権者からの借入金の返済要求、担保不動産の競売処理、取引停止、取引条件の変更、株価の暴落と矢継早に苦難が会社を襲ったそうだ。
まさに就任直後の2年間は10年以上続いた赤字体質企業の資金繰りの危機を乗り越えるのが精一杯であった。
その苦難の道も2年間で有利子負債をゼロにまで圧縮しながら、店舗展開の大胆な転換により新業態「ベビープラザ」を立上げ、短期間で全国100店舗まで伸ばした。
また従前のショッピングストアーやデパートからまったく手付かずであった販路NEW・GMSでのインショップ「ベビープラザ」に加勢したのが、2004年秋に市場に投入した新ブランド「ビケット」である。2年余りで直営だけではなくGMS1,000店舗での取扱を実現し、売上を初年度1億円、2年目4.7億円、3年目9億円と順調に伸ばしていったのである。
そして10年以上続いた赤字体質も2006年の秋には月次ベースで黒字の月を迎え、2007年3月期の決算ではやっと赤字の額を十数年ぶりに一桁億円まで縮小してきた。
今期、2008年3月期は売上高92億円(前期比30%増)、営業利益9000万円と年間を通しての16期ぶりの黒字転換を計画している。
川床社長は、キムラタンを阪神タイガース、自らを星野仙一に例え、何年間も地べたを這いずり回ってきた企業をベビー、子供服の雄に復活すると言い切る。
また就任前の経験を生かして、黒字化に弾みをつけるべく新規事業であるエレクトロニクス事業を子会社にて展開し始めた。
会社四季報を見ると、2009年3月期は売上120億円、経常利益7.5億円となっている。
阪神タイガースの前監督である星野仙一氏のようなミラクルを起こすことができるのか?
とにかく長年の守りは終わったが、攻めるのは会社として久しぶりのことである。
勝ち方を知っている川床社長の腕の見せ所はこれからだろう。
今後、時々、川床社長を訪問することになると思うので、続編をお伝えしていきたい。
「キムラタンの2008年春の新作 YOUPI!(ユッピー!)」