先週、ライブドアが株式を保有する弥生株式会社のLBOがメディアを賑わせた。
弥生は中小企業向け会計ソフトの開発・販売を行う会社であるが、そのLBOの金額はなんと710億円には驚いた。今回の買い手は日本や韓国で活動する独立系投資ファンドのMBKパートナーズだそうだ。
ライブドアは2004年に投資ファンドのアドバンテッジパートナーズから200億円で買収し、今回その3.5倍で売却することになった。ライブドアにとっては3年そこそこでイグジットしたのだからなんとも効率の良い投資であった。
今回のLBOが資本市場で注目を浴びた理由であるが、LBOができる金融環境にはないと誰しもが感じていたからである。
LBOとは、買収先の資産及びキャッシュフローを担保に負債を調達し、買収後に買収した企業の資産、キャッシュフロー等で返済をしていくM&A手法である。少ない資本資金で、大きな資本の企業を買収できる。
例えば今回の弥生のLBOで説明すると、弥生を買収するファンドのほうは、通常受け皿会社を用意するのだが、資本金として710億円を払い込むわけではない。
まだ受け皿会社の詳細は公開されていないが、たぶん資本金は買収価格の10分の1以下に抑えられるであろう。残りの9割近い買収資金を銀行からの借り入れで賄うのがスキームである。
例えば710億円の1割71億円を資本金として残り639億円を借り入れ、3年後に弥生が株式市場に上場を果たし、時価総額が買収金額の2倍の1,420億円になると仮定しよう。
上場後に受け皿会社が株式市場で持株すべて売却すれば、639億円を返済した後に781億円がキャッシュで残ることになる。(※ここでは金利は考慮していない)
さすれば受け皿会社に出資された71億円は約10倍になるわけで3年間の利回りは複利で100%以上となる。
このような上手い儲け話がここ数年間のファンド主導のM&Aであった。
ところが、思惑を外れて、受け皿会社が上場できなくなったり、上場したとしても当初の投資金額以下の時価総額となれば借入金は返済できずに不良債権化してしまう。
今回の米国サブプライム問題に輪をかけて資本市場が気にしたのがM&Aに絡む金融機関のLBO向けのローンであった。
このLBO向けローンは、レバレッジド・ローン債務担保証券(CDO)として市場で売買されていたのだが、急に誰もが買わなくなり、結果として利回りが上昇してしまったのである。
つまり、LBOする際の銀行からの借入金に係る金利水準が大幅に上昇して、エクイティ出資部分(資本金)の利回りの低下によって、LBOやMBOに妙味がなくなってしまったのである。
先ほどの弥生の例で言えば、639億円の借入金に係る金利が3%から10%に跳ね上がったようなものである。3%であれば3年間で利息は58億円だが、10%になれば192億円となる。
先ほどは金利を無視したが、今回金利を考慮すると
3%:金利58億円 → 1420億円−借入金639億円−金利58億円=723億円
10%:金利192億円 → 1420億円−借入金639億円−金利192億円=589億円
金利差が134億円の株主への分配金減らすことになるのである。
このようなことは現実問題起こるとは考えにくいが、最悪のシナリオでIPOできずに借入金の返済原資がなくなることまで考慮すれば、10%の金利を払うと言っても貸してくれる金融機関はないはずだ。
米国ではこのような貸し金の不良債権化のリスクが顕在化するのではないかとの見方からLBOやMBOへの資金供給が止まってしまったのである。
その意味では、先週の弥生LBOのニュースはM&A業界にとって非常に明るい話題となった。
でも、肝心な弥生の業績は06年9月期通期で売上高87億5000万円、営業利益37億4000万円と過去最高。当期利益を営業利益の半分とすると18億7,000万円。
買収金額710億円は前期利益ベースでPER38倍である。
勘定奉行の名称で会計ソフトを販売するオービックビジネスコンサルタントのPERが22倍であることからすると弥生はかなり割高であるとも言える。
サブプライム問題で揺れているLBO向け融資であるが、今回の弥生の案件で完全復活と見るのはまだまだ早計であるとの見方が優勢ではないだろうか。