先週金曜日の日経金融新聞トップページに「IPO全敗」−投資家離れが深刻―なる記事が載った。
ちょうどその日は大阪出張の日だったのだが、「IPO全敗はないだろう!」と心の中で叫んでしまった。
確かに9月にIPOした4銘柄は初値が公募価格を割れて始まったが、セカンダリーの株価の動きを見ていると公募を買った個人投資家の売り物が一巡した後は徐々に下値を切り上げている。
9月19日にIPOしたリアルコムなんかは初値こそ公募価格割れとなったが、3日目には公募価格を上回りその後も堅調な株価が形成されている。
そして10月に入って野村マイクロ・サイエンス、テクノアルファ、ソニーファイナンシャルホールディングスと初値は公募価格を上回り、8月30日のIPOから始まった初値が公募価格を下回る「負け」にストップがかかり、9月の全敗を払拭する動きとなってきている。
先週のコラムでも書いたように、今年の1月〜9月までにIPOした銘柄93社の9月28日の終値が初値を下回っている銘柄が72銘柄と8割近くを占めているが、公募価格を維持している銘柄が40銘柄あって、そのうちの19銘柄は5月以降に公開し
た37銘柄の中にある。このことは公募価格で買って初値で売る短期の投資家にとっては儲からないマーケットになっているが、公募価格で買った投資家の売りが一巡した頃合を見計らって買いを入れれば公募価格までは戻す銘柄が多くなっていることを意味している。
つまり公募価格の設定が間違っているのではなくて、短期的な利益を追い求める個人投資家の売りものが初値の公開価格割れという現象を作り出していると言える。
一方のセカンダリー市場は新興市場指数の東証マザーズ指数は9月21日、日経JASDAQ平均、大証ヘラクレス指数は9月25日に底入れをしている。
また、ちょうど9月25日に始まる9月最後の週はジャスダック、東証マザーズ、大証ヘラクレスともに外国人投資家は買い越しとなっている。9月末の株価ドレッシングの買い越しかとの疑念もあったが、10月第1週の各株価指数の動き
と売買金額を見ていると、どうやら株価ドレッシングだけではなかったことが誰にでもわかるはずだ。
急速に株価を戻している新興市場銘柄もあって、今週あたりは踊り場的な時期に差し掛かるかもしれないが、バリュエーションを見るとまだまだ割安な銘柄がほとんどである。
今週来社された某大手外資系証券会社の機関投資家セールス担当者の言葉を借りれば、「PER10倍以下の銘柄をショートすることはもはやリスクが高すぎる」ということになる。
市場のセンチメントに乗じて片端から新興市場株を売り崩してきた投資家もそろそろ売りでは儲からなくなってきたと感じているはずである。
新興市場の応援団である東京IPO編集長としては、日経新聞の記者の方を非難することはしたくないが、あまりにも「木を見て森を見ず」的な一面の見出しにはショックを受けてしまった。
たぶん実際に市場で売買している個人投資家はそんな見出しに感化されることなく、大きな季節の変化を身近に感じているはずである。
万年強気の証券会社の営業マンにも困るが、あまり悲観しすぎるメディアにも困ったものである。少しは日経新聞の記者の皆さんには応援サイドに立っていただきたいと切に願うばかりである。