IPO最新情報や西堀編集長のIPOレポート、FXストラテジストによる連載コラム、コモディティウィークリーレポートなど、今話題の様々な金融商品をタイムリーにご紹介するほか、資産運用フェア、IRセミナーのご案内など情報満載でお届けしています。
|
|
|
|
3月も半ばになり米国マーケットは少し持ち直してくれそうな期待を抱かせる上げ相場(ラリー)が続いて、つかの間の「春の気分」を感じている今週です。
今、こちらでの話題は「ボーナス」です。「ボーナス」という言葉は米語でも通じますが、雇用契約上の語彙でいえば、「インセンティブ・サラリー」とも言い、予め決めた目標に応じた査定計算に基づく成果報酬支払い、のことです。
国から救済を受けている金融機関がボーナスの支払いを行なったことについて議論が沸騰しています。特に今週明らかになったAIG幹部400人へのボーナス支給(計1億6500万ドル=約165億円)が議論の的になっています。CNNはうち73人が100万ドル=約1億円以上もらっていたと報じています。
ランチの帰りにマンハッタンでタクシーに乗ったら、ラジオがこのニュースを伝えているところで、ドライバーは、「ヘイ、お客さん聞いたかい、なんということだよ、〇〇CK!」と後ろの私に両手を広げて叫んでいました。悲しいかな、ボーナスに無縁の私としては、「ああ、そりゃそうだ、〇〇CK!だね」と相槌を打ってやりましたが。
前々回、「メジャーリーグの報酬システム」と題して書いたとおりこちらの報酬は日本とは全く比較になりません。私の同業で飲み仲間の米人(だいたい平均的な例だと思います)のケースをみてみましょう。
まず、彼のプロフィールですが、42才男性、家族は夫婦とかわいい娘が一人、勤続数年、法人金融部門準幹部です。部門トップではなく次席である彼の基本年俸は15万ドル(1500万円)、昨年もらったボーナスは125万ドル(1億2500万円)、今年ボーナスはなく次席廃止による組織簡素化は必至で解雇されるのも時間の問題と、本人は恐れています。ストックオプションももらっていたようですが、もはや紙切れです。
彼は、子供の教育、家のローン、そして車のグレードまで、ある程度のボーナスが入る前提で生活基盤を作っています。つまり、基本年俸しか入らないと去年までの蓄えを取り崩して生きていくことになり、本人曰く「とても苦しい」ということになります。
日本人の生涯給与を思うと、米国の投資銀行稼業で数回ボーナスを貰ったらあとは普通に働けるようなレベルの生活にすればいいと思ってしまいますが、これは日本人ならではの私の悲しい発想らしく、彼には全く通じません。
いつ首切りされるかもしれないが稼いだ時はたんまりともらえる米国のバンカーの報酬体系は、職がなくなるリスクと稼げる時の時間価値との、いわゆるオプションバリューで決まっているといえるともいえます。
ちなみに、この知人の上司(つまり部門幹部)の場合、いくら稼いでいるのかは判りませんが、上司の趣味は空を翔ることらしく、小型ジェット機を2機持っていて、週末は自分でジェットを操縦して別荘に行きゴルフを楽しむ、というライフスタイルを楽しんでいると聞きました。
今回のAIGのボーナスは、まじめに地道にやっている保険部門ではなくクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)という金融派生商品取引を扱う金融商品部門でのボーナス支払いだったことから、大統領を始めコメントが百出しています。ある議員は、「日本人のように自殺して詫びるべき」とまで、とんでもない例えの意見まで出る始末です。
このような金満報酬システムだから今回のような金融問題を引き起こすのだと断じるのは単純すぎるかもしれませんが、こういった報酬システムと問題取引を積み上げる傾向との因果関係や、そのコントロール方法については、根本的に検討されるべきでしょう。
今のホットな議論を聞いていると、緊急金融救済資金の拠出を受けている金融機関社員の待遇を制限しようということになるのは間違いないと思われます。
それで、金融機関はどういう動きにでるのか?
おそらく、色々な報酬制限策を甘んじて受け入れ続けるのではなくて、各金融機関は報酬制限から早く自由になろうと救済資金を早期に政府に返済することを目標にし、より早い業績回復とバランスシートの改善をなしとげるのではないか。つまり報酬制限策の導入は金融業界回復を促すインセンティブ(動機付け)になるのではないかと、私は考えています。
初回にも書きましたが、アメリカの強みの一つは「回復力の強さ(Resilient)」だと言われます。オバマ大統領は予算教書の発表演説でも、この語を用いていました。
報酬制度などについて色々な議論を戦わせながら新しいあり方を練っていく。金融に限らず社会システムの再構築に向けたこのような活発な胎動こそ、アメリカの回復力の強さを支える原動力のひとつなのかも知れません。
米国の金融機関の報酬についての議論のなりゆきに注目していきたいと思います。
|
米国駐在インベストメントバンカー Mayflower
|
|
|