よく考えてみると不可思議なのは、(米)7月の雇用統計が強い内容であったのに、その反応が「ドル買い」であったこと。最近のパターンを踏襲すれば、米経済指標に強い結果が出たときは「リスク選好のドル売り」ではなかったのか?
これは少し複雑で、最大の要因は今回、雇用統計の発表がいつにもまして注目度が高かった米FOMCの開催日と近かったことにある。つまり、雇用統計の結果が強ければ、その後に開かれる米FOMCでは米国債買い切りの終了が決定され、その結果、米長期金利は上昇することが見込まれるため、金利上昇を見越したドル買いが入ったという解釈になろう。
ところが、実際には米FOMC後に米長期金利はさして上昇しなかった。
振り返ってみれば、今年3月以降、FRBが米国債の買い切りを進めたきたことが米長期金利の上昇を押さえてきたという確たる証拠はない。考え様によっては、米国債買い切り実施と米長期金利の間には、それほどの相関関係は認められないということにもなる。だからこそ、あえてFRBは今回のFOMCにおいて「終了」の方針を打ち出したとも言える。
気がついてみれば、ひと頃は市場の最大の関心事とされた米国の財政悪化に伴う米国債の価格下落、それに伴う米長期金利の上昇懸念は、このところ成りを潜めてしまった模様である。もちろん、それも米景気の底打ち観測が強まっているが故のことであり、それなりに納得はできるのだが、投資家からしてみれば目の前で市場の関心事や相場のテーマがあまりにも目まぐるしく変わることで投資判断の下しようがないというのが、何より悩ましいところと言えよう。
残念ながら、頼みのテクニカル分析も現下の状況においては必ずしも有効とは言えなくなっている。
7月の米雇用統計発表後にドル/円が急騰したことで、これまで注目してきた今年4月以降の「下降チャネル」上限をブレイクしたにも拘らず、執筆時の相場は「それが買いシグナルとはならなかった」という結果を得ている。
「どうにもこうにも売買のきっかけがつかめない」というのが多くの投資家のホンネであり、その実、このところミセス・ワタナベの動きは非常に鈍い。むしろ、いま暫くはヤケに好調な株価の動きに乗っかって、そちらの方でひと勝負!といったところか…。
俗に「100年に1度」などと言われる景気悪化と金融不安(=一時的な異常事態)を経験したいま、まずはFX取引に向かう姿勢やポジションをリセットすると同時に、あらためて「これから起こり得ること」をきちんと整理することが重要であろう。
まだ執筆時には明らかとなっていないが、8月17日に発表される日本の4−6月期GDP成長率は5四半期ぶりのプラスに浮上するものと見られている。ただ、このことはとうに織り込み済みであり、むしろ問題となるのは7−9月期の見通しであろう。
プラス成長の原動力は、言わずと知れた政策効果と輸出の伸びの回復である。
そして、そのいずれもが期間限定であることは再確認しておかねばなるまい。ことに輸出の伸びについては、危機後の生産調整と現地での在庫圧縮に伴うものであり、その反動はプラスに転じた時点(4月)から3〜5ヶ月間程度の伸びにはつながるものの、結局は7−9月期の途中で息切れしてしまう可能性が高い。
一方、米国のGDP成長率については7−9月期において5四半期ぶりにプラスに転じる可能性が大である。
それは何より、景気対策の効果が最も強く現れるタイミングだからだ。もちろん、7−9月期における米主要企業の決算も相当に好調な結果が得られよう。ただ、10月半ばから順次発表される好決算は、それまでに織り込み済みとなる可能性が高い。
まして、米国の自動車買い替え支援策は11月まで、住宅減税も年内一杯と期間限定である。また、実のところ米金融界には不良資産の処理問題がいまだにくすぶっている。それは時価会計が緩和されていることも一因。加えて、金融規制の強化で不良資産処理の加速を迫られていることも背景にある。
足下では日米の株価も回復期待が先行し過ぎている感があり、やはり一時的にも調整場面を迎える可能性が高い。よって、市場関係者の間では、秋から年末にかけて日米株価が調整し、結果、リスク回避姿勢の高まりに伴う円の先高観が広がると指摘する向きが多い。もちろん、いわゆる日本版の本国送還(投資)法と呼ばれる新税制の影響で、そうでなくとも円が買われやすい状況下にある。
ある程度、円高が進めば国内企業の収益や株価にも影響が及び、日米ともに景況感や株価が「2番底」を覗う可能性は否定できない。ただ、これは長期低迷に突入するシグナルではなく、一本調子では行かないという意味合いを持つものであろう。
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