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カフェは『シティ・スクエア』のスイス・インダストリアル・バンクの入居するオフィスビルと反対側にある老舗デパートの入ったショッピングモールの間の広場の一角にあった。草野球場2つ分ぐらいの広場はオープン・エアの空間になっている。 地上20メートルくらいの高さに竹筒を半分に割ったような形のガラスの天井が硬質ワイヤーで吊るされており、天候を気にする事なく人々が集える憩いの場として設計されていた。『シティ・スクエア』は完成してから既にもう5年になるが、東京で多くの若いカップルが集まるスポットとして依然その不動の地位を誇っていた。平日にも拘わらず広場に点在するベンチには若い男女のカップルの姿があった。慎介は足早に広場を横切り、カフェに向かった。広場に面した外側のテーブルに腰を下ろし手招きをしている学の姿が目に入った。
清水学はスイス・インダストリアル・バンク東京のプライベートバンキング部門の営業部員である。慎介がスイス・インダストリアル・バンクに転職した入社初日に最初に遭遇したスタッフが清水学だった。その日慎介は志も新たにスイス・インダストリアル・バンク東京の受付に朝8時に出向いたのだ。24階の総合受付の前のガラス扉は貝の殻のように固く閉ざされていた。誰もやってくる様子がない。どうしたものかと思案しているところへ現われたのが学だった。
「何かご用でしょうか?受付は8時50分まで開きませんが」学が訝しげに慎介の顔を覗く。
「おはようございます。私は朝岡慎介と申します。本日からこちらの投資銀行部に籍を置く事になってます。人事部の方から8時半に出社するように言われたのですが……」
「そうでしたら26階の投資銀行部へ直接行かれたほうが宜しいかと思いますが。正面の入り口はこの時間まだ開いていませんので、エレベーターホールから右手に向う廊下の突き当りまで行って下さい。ドアの横にインターフォンが有りますから、そこから連絡をして下さい」
「どうも有り難うございます。失礼ですが?」慎介は尋ねた。
「あっ、申し遅れました。私は清水学です。プライベート・バンキング部門に所属しています」
慎介は学の態度にそこはかとなく育ちの良さを感じ取りその隙の無い流暢な対応に圧倒された。
その後慎介が投資銀行部で担当するオーナー企業の社長をプライベート・バンクの顧客として紹介し、学と組んで仕事をすることになった。それを契機に2人は交友を深めた。2人は同じ年で互いに信頼しあえる気心の知れた仕事仲間となるのであった。

真夏にも拘わらず学はアルマーニと思しきスーツを涼しげに着こなし、その姿はまるで1枚のポスターのようだった。学の実家は3代続いた灘の蔵元で、父は県会議員を務める地元の名士である。学の振舞いにはひけらかすところが無くごく自然で笑うと印象的な白い歯並びが会う人に安心感を与えるのであった。スチール製のテラス用のテーブルを挟んで学の反対側の椅子に慎介が腰を下ろすとウエイターが水の入ったグラスを運んできた。2人はランチメニューの中からクラブ・ハウス・サンドイッチとアイス・ティーを注文してから話を始めた。
「覚悟はしていたけど、驚いたよな」学が口火を切った。
「今後東京でも2つある部門は統廃合されるだろうな。俺の投資銀行部を含め証券関連の部署のマネジメントは皆戦々恐々としているらしい」慎介は眉間に皺を寄せた。
「うちのボスのグートが言うにはプライベートバンクはスイス・インダストリアル・バンクのお膝元、スイスのお家芸みたいなもんだし、ヤンキーのリバティー・ワンなんかが出る幕はないから何の問題もないって息巻いていたよ」
「俺のところはリバティー・ワンの投資銀行部とまともにぶつかってしまうからな」
「来週位にうちとリバティー・ワンの東京の全社員を集めて、両社のお偉いさんから有り難い御言葉が有るらしい。今朝シュナイダーの秘書が隣のオリエンタル・パシフィック・ホテルの大広間を手配しているのを聞いたんだ。今日明日にも社内メールで案内が出るだろう」学は事も無げに言い放った。
「相変わらず、早耳だな」慎介は感心して言った。
「まあな」学は照れ笑いで応えた。
「話は変わるけど慎介、おまえが担当している例のオーナー企業の件だけど、ちょっと相談したい事が有るんだけど時間を作ってくれないか?」仕事の話とあって学は周りに聞こえないかと気を配り無意識に声のトーンを落していた。
「ああ、わかった。都合の良い時間をメールで知らせておくよ。」
「サンキュー」
後はたあいの無い世間話で短いランチは終わった。

リバティー・ワンとの合併がアナウンスされてからの10日間、スイス・インダストリアル・バンク東京の社内は合併に関連する話で持ちきりだった。様々な憶測が飛躍した噂を呼び、誰しもが自分の将来の進退に少なからずの不安を覚えたのであった。学の情報通り2日後に東京の責任者パトリック・シュナイダーの名前でスイス・インダストリアル・バンクとリバティー・ワンの東京の社員全員を合同で招集する会合の案内が電子メールで届いた。

【スイス・インダストリアル・バンク東京社員各位、
先日発表されたスイス・インダストリアル・バンクとリバティー・ワンの対等合併に関して両者のマネージメントから東京の社員の皆様にこの度の合併の経緯と今後の展望をお話する為の会合を下記の日程で開催致します。

日時―1996年8月13日午後6時より
場所―オリエンタル・パシフィック・ホテル『飛翔の間』にて
皆様のご出席を心より歓迎いたします。

              スイス・インダストリアル・バンク アジア地区最高責任者
                                 パトリック・シュナイダー】
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