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「当機は間もなく成田新東京国際空港に向けて着陸態勢に入ります。何方様も御使いになりましたテーブル・背もたれを元の位置にお戻し下さい」ニューヨークのジョン・エフ・ケネディー国際空港を離陸して14時間休む事無く働いたボーイング747型機は背伸びをするかのようにその白い腹から巨大な車輪を出した。長く続く九十九里浜の海岸線を右目に機体は大きく右に旋回して成田空港を目指した。菜緒子はシートベルトを締めると長年愛用しているカルティエの腕時計を日本時間に戻した。菜緒子は2週間の日程でアメリカ出張に出ていた。新興の通信関連の本邦企業が米国NASDAQ市場への新規登録するマンデートをリバティー・ワン東京のエクイティ部が仕留めたのだった。今回は新規登録という事もあって、米国の大手機関投資家へのロードショー(企業が行う株式投資家への広報活動)もリバティー・ワンが担当した。この新進企業の社長は精力的に全米各地の大手の投資家を訪問した。菜緒子は2週間びっちりのスケジュールで各地の投資家とのミーティングに同行したのであった。シカゴのドレイク・ホテルでの投資家とのミーティングの10分前に菜緒子はニューヨークのオフィスに電話を入れて、その時初めてスイス・インダストリアル・バンクとの合併のニュースを知らされたのであった。ハード・スケジュールと時差ぼけで菜緒子は憔悴しきっていた。リバティー・ワンのニューヨーク本社に立ち寄った時に自分の電子メールにアクセスして、留守中に届いたメールをすべてプリントアウトした。プリンターのトレイに吐き出された紙の束をバッグに突っ込んでウォール街からタクシーに飛び乗ったのはわずか半日前なのになんだか遥か遠い昔の事のように思えた。6時からのスイス・インダストリアル・バンクとの合同会合に間に合うかしら。飛行機は定刻の午後3時から15分遅れで到着した。お決まりの検疫ゲート、入国審査、税関のルートを通過して到着ホールに出た。午後4時20分発の品川・恵比寿行のリムジンバスがあった。会合のあるオリエンタル・パシフィック・ホテルにも停車する。菜緒子はチケットを買うと携帯電話のスイッチをオンにして、バス待ちの時間、会社のボイスメイルと自宅の留守番電話をチェックした。うんざりする程の仕事が溜まっていた。中に慎介からのメッセージがあった。慎介は今夜出席するのかしら。菜緒子はふっと慎介とのニュ ヨークのコロンビア大学時代のことに思いをよせた。
発車までまだ20分程あった。菜緒子はスーツケースとガーメント・ケースを宅配便サービスのカウンターで預け、身軽になった。バスは成田空港を定刻に出ると高速道路を都心に向けて疾走した。西の空を染める夏の太陽が衰える事無く眩しい光の矢をバスの車窓に投げかけていた。都内のホテルを数箇所回って、バスは最終目的地のオリエンタル・パシフィック・ホテルに到着した。菜緒子は時計を見た。午後6時15分だった。バスを降りるとホテルの玄関の自動ドアを通り抜けて中に入った。ロビーは天井が3階の高さまで吹き抜けになっている。床は黒を基調にした大理石で、毛足の長いベージュ色の絨毯を敷き詰めた螺旋階段が2階・3階まで伸びている。大広間の『飛翔の間』は地下2階にあった。菜緒子は下りのエスカレーターを下りると、広間へ急いだ。入り口の白地の表示板に筆書きで『ご宴会、スイス・インダストリアル・バンク東京様・リバティー・ワン東京様』とあった。オーク材の高さが3メートルはあると思われる重厚な扉は閉ざされていた。菜緒子は扉を引いて体を中に滑り込ませた。黒服のウエイターたちが飲み物各種をのせたトレイを持って人々の間を忙しく動き回っていた。菜緒子はトレイからカンパリ・オレンジを受け取ると広間の脇の壁を背にして正面奥に設けられた舞台を眺めた。
「菜緒子」自分の名前を呼ぶ声がした。菜緒子は声の主に目を向けた。
「お帰りなさい。今日戻ってきたの?」エクイティ部の同僚の湯川亜実だった。今日もいつものようにそのままパーティーに行ってもおかしくないようなエレガントなスーツ姿であった。
「着きたてのホヤホヤよ、成田から直行したの」菜緒子が言った。
「留守中、この合併話でもう東京は上から下まで大騒ぎだったのよ」亜実は興奮した口調で話す。
「そうみたいね」菜緒子は時差ぼけもあってあまり気の乗らない返事をした。
「あら、ひとごとみたいね。」亜実はおどけた調子でパールのネックレスのクラスプをいじった。

正面の舞台上にスイス・インダストリアル・バンク東京のパトリック・シュナイダーとリバティー・ワン東京支店長、マイケル・スミスが姿を表わした。司会役と思われる男が舞台の左袖に置かれた演壇にたって、2人の紹介をする。続いて、シュナイダーが両社のマネージメントを代表して挨拶をした。
「こんばんは。ただ今ご紹介に預かりましたスイス・インダストリアル・バンク東京のパトリック・シュナイダーでございます。皆さんもご案内のように当社とリバティー・ワン社は21世紀に生き残るトップ金融コングロマリットの一角となるべく、来る1月1日をもって対等合併する運びとなりました。この場をお借りいたしまして、リバティー・ワン東京、スイス・インダストリアル・バンク東京の全スタッフの皆様にマネジメントに成り代わりまして今回の合併の経緯についてご説明申し上げます。」
シュナイダーのスピーチはその後15分ほど続いた。東京の組織は再編成されるが全員の雇用は確保されるので、安心して今まで通り仕事に励めという定番の嘘八百であった。痺れを切らしたリバティー・ワンのアメリカ人トレーダー達は広間の中央にロの字形に置かれたビュッフェのテーブルからオードブルを摘み始めていた。
「この合併は両社にとっても大きな挑戦なのです。私たちは手を取り合ってビッグ・バン時代乗り越えなければなりません。………」シュナイダーは人々の反応など気にも止めず、用意した原稿をすべて読破すべく読み続けた。

広間の後方の丸テーブルの横で慎介と学は話をしていた。
「こんな会合なんて茶番だよな、時間と経費の無駄使いだよ」学は誰しもが思っている事を言葉にした。
「まあ、まずは取り急ぎご報告までってところかな」
その時、慎介の目に同僚と話をしている菜緒子の姿が映った。その視線に気づいた菜緒子が亜実を連れ立って慎介たちのところまでやって来た。
「慎介、電話返せなくてごめんね。今日まで出張でアメリカに行ってたの。成田からここに直行よ」菜緒子は詫びた。
「相変わらず、忙しそうだな。あっ、こちらはうちのプライベートバンク部の清水学」慎介は唐突に学の事を紹介した。
「はじめまして、清水学です」学も後を追うように自己紹介をした。
「こちらは飯野菜緒子。俺のコロンビア時代のクラスメート兼ヘルパーさん。試験の時はとてもお世話になった才女様」慎介は続いて菜緒子の事を紹介した。
「ヘルパーってなによ、人のこと介護人みたいに」菜緒子は苦笑いした。
菜緒子も脇に立っていた亜実を2人に紹介した。「こちらは湯川亜実さん。私の同僚。リバティー・ワン内部の事なら何でも知っている諜報部員ってとこかしら。おたくと一緒になるんだから仲良くしておくと重宝するわよ」
「菜緒子ったらやめてよ。」亜実は背筋を伸ばすと改まるように「湯川亜実です。リバティー・ワンのエクイティ部で主にプライマリー・マーケット関連の仕事をしてます。宜しくお願いします。」
「こちらこそ」慎介と学は声を揃えて応えた。

何時の間にか舞台上の挨拶も終わり、広間の方々で小さな集まりが出来、話題は皆一様に今後の再編に終始した。一部のパーティ慣れした外資系のスタッフ達は会合の主旨から離れて、パーティはパーティとしてきっちりと楽しんだのだった。
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