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翌日、大澤はリサーチ部長のサイモン・ゴールドウィンに連絡して、今までの経緯を説明したうえで飯野由右子を大亜精鋼のファイナンスの件の応援要員として貸して欲しい旨と伝えた。当初由右子の上司のマイケル大江は難色を示したがリサーチ部長のサイモン・ゴールドウィンに懇願されて渋々了解したのであった。本山はこの結果について市田から連絡を受けるとすぐに朝岡慎介と飯野由右子を呼び出した。
「大亜精鋼の転換社債の発行の準備に早急に着手してもらわなくてはならなくなった」市田の虎の威を借りた本山は大上段に切り出した。本山は東名銀行が提示してきた新規融資実行の交換条件の為に転換社債の払込を7月の上旬にしなくてはならない旨を説明した。そこから逆算すると早々に準備を開始しなけらばならならない事は慎介もよく分かっていた。
「たまたま、飯野さんは前の大亜精鋼の転換社債の発行の際に前に務めていた会社のスタッフとしてプロジェクトに関わっていたから、内容はよくわかっていると思って、助っ人を頼んだんだ。大亜精鋼の本田部長さんも君のことは大変頼りにされているから、宜しく頼むよ」
由右子は恥ずかしそうに俯いたまま、言葉を発せずに軽く目礼をした。
「朝岡君、君は大亜精鋼の担当だから、飯野君と一緒に本田部長と連絡を取り合って、早速準備を進めてくれ。それから今後、この面子で、市田さんも交えて週に1回位の頻度でミーティングを持つ事にしよう」
「わかりました」慎介が言った。
「それじゃ、僕はこのあとちょっとお客との宴席があるので・・・」
「ではこのあと飯野さんと今後のすすめ方についてもう暫く話合いますので・・・」慎介は由右子と2人会議室に残っても怪しまれないように適当な理由を述べた。
「ああ、わかった宜しく頼んだよ」本山はそう言うと部屋から早々に退出していった。本山が出ていってしまったのを確認してから慎介は由右子に向かって言った。
「まさかこの件で由右子ちゃんが直接関わってくる展開になるとはね」
「ええ、なんだかとても皮肉なもんですね。でも、これでこそこそせずに大亜精鋼の件に首を突っ込む事が出来るし、会社でも堂々と慎介さんとも話しが出来る訳ですから、願ったり適ったりですよね」
「取り敢えず、これでファイナンスの件は前に進むから、あとは8月の返済日に200億円からのお金が大亜精鋼からスイスの本店に送金されるのは間違いない。この資金を全額あの市田の匿名口座に振り込ませる為の細工を施すのがこれからの一番の仕事になるんだ」
「つまり清水さんの出番になるんですね」
「ああ、学にはいろいろと無理を言って済まないと思っているんだけど、奴の協力なしでこの計画は進められないんだ」
「清水さん、最後まで協力してくれるでしょうか?」由右子は心配そうに言った。
「ああ、奴はきっと協力してくれるよ。奴も市田たちがクロだと確信し始めているからね。もうそれは時間の問題と思うから、由右子ちゃんはあまり心配しなくていいよ」
 
その後、慎介達はファイナンスの準備を着々と進めていった。ニュー・ライフ証券は大亜精鋼の株を買い進め、4月の終わりには株価は530円まで回復していた。大澤源太郎は当面の事の進展に満足していた。
その日決算発表を2週間後に控え大澤源太郎は社長室で財務部長の本田千秋と顔をつき合わせて発表資料の最終確認に余念がなかった。
「今回は例の買収の件がありましたんで、売上は増えましたが、当期利益は大幅に減っています」本田が要点を掻い摘んで大澤に説明した。
「これでまた株が売られる心配は無いのか」
「ええ、もうこの件は用心して、前倒しで業績見通しの下方修正はしてましたんで、大丈夫です」
「それならいいんだが。株価が落ちると転換社債の発行が難しくなる。うちにとっては死活問題だからな」
暫くして、本田は大澤との打ち合わせを終え社長室を退出しようとした時に、入れ替わりに大澤の秘書が大澤のスケジュール帳を手に部屋に入って来た。
「社長いまお時間よろしいでしょうか」
「ああ、かまわんよ。ちょうど、今本田部長との話が終わったところだ」
「欧州への出張の件ですが・・・」
「ああ、その件なら、ユナイティッド・リバティーの市田さんと確認してくれないか」
「えっ?」秘書は大澤の返答に意外な顔をした。
「市田様もドイツでの役員会に出席されるんですか」
「いや、私が言っているのは6月に予定されているチューリッヒでの転換社債の調印式の事なんだが」
「いえ、その件ではなくてドイツの会社の年次定例役員会の件ですが」
昨年ドイツのベンゲル社から買収したステンレス鋼部門の会社の役員会が8月に予定されていた事を思いだした。大澤はこの役員会には必ず出席しなければならなかった。東名銀行が余計な条件をつけてこなければ社債の調印式も8月に同時に出来たのに。大澤は今更ながらにメイン・バンクの東名銀行の対応を恨めしく思った。
「ああ、その会議には必ず出席しなくてはならないから。取り敢えずその分の飛行機のチケットはとっておいてくれ」
「かしこまりました。それではチューリッヒへのご出張の件はいかが致しますか」
「うむ。その件は暫く待ってくれ。私が市田さんと話してから指示するから」
「わかりました」
秘書は用件を伝えると早々に社長室から退出して行った。
大澤は社長室に1人になると黒革張りの手帳を手にとり清水学の直通の電話番号を調べてダイヤルした。
「ユナイテッド・リバティー、清水学でございます」すぐに清水学が電話に出た。
「大亜精鋼の大澤です」大澤はいつもの重厚な低い声で名乗った。
「大澤さん。ご無沙汰しております。今日はいかがされましたか?」
「いや先日は君にはちょっと悪いことをしたと思ってね。いや実はまた8月にヨーロッパに行く予定があるんだが、ちょっと君にまたご足労願えないかと思いましてね」
あんな仕打ちをしておいてなんて図々しい男なんだ。学は心の中で大澤の事を罵った。
「はあ、でも私の一存では決められませんので、ちょっと上の者と相談してからご連絡します」大澤が更に意味深な口調で続けた。
「清水さん、私が例の貴方との約束を実行すると言ったら、上の方も何も言われないんじゃないでしょうかね」
また、そんな甘い言葉で釣ろうとしているのか。学の警戒心は水に垂らした絵の具のように渦を巻いてどんどん広がっていった。
「そう言われましても」
「清水さんは私の言う事が信用出来ないと思っているんですか」大澤はやや憤慨した口調になった。
「いえ、別にそんな事は・・・」
「わかりました。では来週までにこの件についてご解答ください。お待ちしております」
そう言うと大澤は一方的に電話を切った。
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