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清水学は大澤との電話の後、その足で上司のグートのところへ報告に行った。大澤源太郎はプライベート・バンクにとって依然上得意客の1人である事には間違い無かった。だからある程度の我侭な要求にも目を瞑ってきた。しかし、それを常に聞きいれていく訳にはいかなかった。グートも大澤と市田がグルになって不正なインサイダー取引に手を染めている事はうすうす気付いていた。グートは暫く考え込んでから学に取り敢えず大澤の出方を見てから次の手段を考える事を提案した。その3日後の事であった。大澤のスイスにある口座に約20億円の資金が振り込まれたのであった。グートにとっても営業実績を上げることが最大の任務で、競合他社との競争も日に日に激化していた。結局、背に腹は代えられぬという事になり、グートは急遽学の欧州出張を決定したのであった。学はこのことで営業実績が上がった事は嬉しかったが、大澤のやり方には納得がいかなかった。きっといつか大澤と市田の不正を暴いてやる。学はそう固く心に誓ったのであった。学は何となくすっきりしない気持ちで大澤源太郎に電話を入れた。暫く待たされて大澤本人が電話口にでた。
「清水さん、先日はどうも」
「大澤さん、この度は新たに20億からのご預金を頂き有り難うございました」
「どうですか、私は言った事はきちんと守る男である事がおわかり頂けましたかな。清水さん、あなたもお若いから仕方ありませんが、今後は人を信用するという事も覚えませんとね。ところで出張の件はご承諾頂けるという事で宜しいですね」
「はい、今日はその件をお伝えしようと思いまして、お電話している次第です」
「そう言って頂けると思っていましたよ。清水さんは語学がご堪能でいらっしゃるから心強いかぎりですよ」
「それで、今回はどちらまでご一緒すれば宜しいのでしょうか」学が訊いた。
「前回と同様にモンテカルロまでご足労願えますかね」
「わかりました。それでは正確な日程をお知らせ願えますか」
「ええ、その件は私の秘書から連絡させますので、そちらでうまく調整して下さい」
翌日の朝、清水学は大澤源太郎の秘書から電話を貰った。例の欧州の出張の件での日程を伝えてきたのであった。
「大澤からですが、清水様にはモンテカルロで8月6日、7日の終日ご一緒頂きたいそうです」
「了解しました。それでは私は遅くても8月5日までに現地入りすれば宜しい訳ですね」
「ええ、そうお願します。飛行機のチケットの手配はこちらでやりますので、お申し付け下さい」
「いえ、それには及びません。私もその前後、スイスの本店やパリのオフィスに行こうと思っていますので。それで大澤社長はどちらにお泊りですか、前回同様、『オテル・ド・パリ』でしょうか?」学が訊いた。
「はい、そうです。そちらの方は私の方で予約いたしますから。御社の市田本部長様の分も一緒にとりますので、ご遠慮なさらないで下さい」
またあの市田昭雄が大澤に同行するのか。やはり何かある。学は何かきな臭いものを感じないではいられなかった。
「よろしいですか・・・」大澤の秘書が心配そうに訊いてきた。
学はすぐに我に返ると電話に応えた。
「はい、それではホテルは宜しくお願いします」
「かしこまりました。では大澤の日程につきましてはまた日が近くなりましたらご案内申し上げます」
電話を終えると学は前回のモンテカルロでの事がつい昨日の出来事ように思い出された。また、大澤は市田に金を渡すのであろうか?
 
琥珀色の海の上に浮かぶ半透明の流氷が軽やかな音をグラスの中で奏でた。大澤はヘネシーの水割りを飲み干した。横に座っていたママの優香は首を軽く左に傾げて笑顔で大澤に訊いた。
「大澤さん、ボトル終わっちゃいましたけど、どうします」髪を後ろ結い上げた優香の白いうなじがライトに照らされて妖艶な光を放っていた。
「ママ、何ヤボなことを聞くんだね。他人行儀な。私とママの関係じゃないか。すぐに次のをいれとかないとここに来る理由が無くなってしまうじゃないか。それでもいいのかい?」大澤は意地悪そうな笑みを浮かべて言った。
「あら、大澤さん、意地悪ね」優香はそう言と、和服の袖を左手で押さえて、右手を高くあげてボーイに新しいボトルを持って来るように指示した。
「あら、今日は市田さんはあまりお飲みにならないのね」ママが市田のグラスを見て言った。
「いや、ちょっと昨日飲み過ぎましてね」市田はぎこちなくいい訳をした。
「ママ、またうちの会社は市田さんところでお世話になるんですよ」
「まあ、それじゃ市田さんにとっても景気のいいお話じゃないですか」
「ええ、まあ」市田はあまり気が乗らない返事をした。
「市田さん、ところで例の社債の調印式なんですが、たしか6月でしたよね」
「大澤さん、その話はまだここではちょっと」市田はまわりを気にして言った。
「まあそう固いこといわないで、別に私は構わんよ。ここは私の庭のようなもんだから。それにママは口が固いことで有名なんだ。身持ちもな」そう言うと大澤は下品に大声をたてて笑った。市田は苦笑しながら、その場の雰囲気にあわせる様に大澤の質問に応えた。
「6月の予定になっていますが、ご都合が悪いですか」
「いや、実は例の買収したドイツの会社の年次の役員会が8月にありましてね、それに出席しなければならんのですよ。ですから6月の出張は遠慮したいと思っておるんですよ。調印は別に私が参加しなくても委任状があれば出来ますよね。それともうちの本田に代理で出席してもらうことでも宜しいですよね」
「ええ、それは問題ありませんが」
「それじゃ決まりだ。市田さん、それでは8月に私と一緒にヨーロッパに出かけましょう」
「私がですか」市田は驚いた顔をした。
「ええ、そうです。あなたがです。例のドイツの会社を仲介したのもあなたですから、1度一緒に見に行ってもいいでしょう。視察という事であればあなたも1週間位は出張出来るでしょう。あとは、前回のようにモンテカルロでギャンブルでもしましょう。市田さんにはまたお礼をお支払いしないといけませんしね」 大澤はかなりお酒が回って饒舌になっていた。市田は他に聞かれていないかそわそわとまわりを気にしていた。
「まあ、ずいぶん景気のいい話だこと。私も連れて行って」横に座っていたママの優香は鼻にかかる甘えた口調で子供の様に大澤の左腕を揺さぶった。
「それじゃ、ママも一緒に行くか」大澤は上機嫌だった。
「ええ本当に、でも行きたいのはやまやまだけど、お店があるからね」
「お店なんて休んでしまえばいいじゃないいか」
「そうはいかないのよ。この不況で、店の売上も落ちる一方でね」
横で2人のやり取りを聞きながら市田は再び大澤から支払われるであろう成功報酬に思いをよせていた。同時に市田は自分が目の前に座り夜の女と戯れている男に金で買われてしまった哀れな存在である事を痛感したのであった。
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