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第34章
 
2001年6月東京
 
その後、朝岡慎介と飯野由右子の手で大亜精鋼のファイナンスの準備は着々と進められた。ニュー・ライフ証券はその後も大亜精鋼の株を買い続け、5月の終わり頃には株価は600円台前半まで回復していた。株価の水準としては新たに100億円相当の新株を発行する事に何の問題もなかった。これをうけて東名銀行の融資部長、勝俣栄太郎は大亜精鋼に対する新規融資枠100億円の設定する為の稟議書の作成を開始したのであった。東名銀行にとってここで援助の手を引いてしまえば、大亜精鋼は間違いなく倒産してしまう。そうなれば現在大亜精鋼への貸金がすべて焦げ付いてしまい、不良債権として顕在化してしまう事を意味していた。それは何としても避けなければならない事であった。
 
その日、朝岡慎介と飯野由右子の2人はお昼から大亜精鋼の会議室で、財務部長の本田千秋と弁護士、ニュー・ライフ証券の担当者と今回の転換社債の発行の為の合同関係者契約書検討会に出席していた。投資家への企業業績の開示の点で、いくつかの問題点が弁護士側から指摘されて、会議は延々午後7時頃まで続いた。会議を終えた頃には、慎介は頭が朦朧として、脳が酸素を欲しているのが肌に伝わってきた。2人が大亜精鋼の本社ビルから出た頃には、朝から降り続いていた雨はすっかりあがっていた。前の通りで流しのタクシーを拾うと、雪崩れ込むように後部座席に疲れた体を投げ出した。慎介は運転手に行く先を告げるとネクタイを緩めた。由右子はしばらくの間、会議を振り返って、議論されたポイントを整理して、慎介の意見を求めた。一通り話を終えると2人は暫くの間、黙ったまま、日没前の東京の街を眺めていた。西の空は薄らと紫色のアイ・シャドーを引いたような妖艶な雰囲気を漂わせ始めていた。
「慎介さん、例の返済日まであと2ヶ月ですよね。これから、どうなっていくんですか」由右子が神妙な声で訊いた。
「由右子ちゃん、その話はここではちょっと…」慎介が由右子の話を制した。
「すみません。ちょっと気になっていたものですから」
「それについては近々、皆に集まってもらおうと思っていたところなんだ」そう言うと慎介は再び黙り込んだ。事実、慎介は市田昭雄に対する罠の準備が遅々として進まない事に焦りを感じ始めていた。大亜精鋼が投資家に返済すべき200億円の資金を市田昭雄が個人的に横領するというシナリオを実行する為には清水学の協力が不可欠であった。
 
3日後、慎介は計画の関係者全員に集まってもらった。人の目を避ける為に槙原がナショナル・ドイツ・バンクの会議室を手配した。午後9時に慎介は飯野由右子と清水学とナショナル・ドイツ・バンクの入居する大手町のビルの1階のエントランスで落合うと、槙原の直通番号に電話をいれてオフィスのあるフロアまでエレベーターで上った。26階で降りると槙原がそこで待機していた。槙原は3人を廊下の奥の方に案内して、従業員用のドアから中に通した。中のライトは既に消灯され、薄暗い廊下を槙原を先頭に歩いて行った。突き当たりの応接室の1つのドアを開けると、入り口の壁のスイッチをいれて部屋のライトを点けた。ダウン・ライトから放たれる強烈な光が眩く、由右子は軽い目眩を覚えた。3人が部屋に入ると槙原はドアを閉めて、中から鍵をかけた。
「これで大丈夫だ。誰にも聞かれずに話しが出来る。この時間帯はこのフロアの応接室は誰も使わない事になっているんだ」槙原は得意そうに言うと慎介を急かした。
「さあ、慎介はじめてくれ。あまり遅くまでいると警備員が巡回にやって来るから」
「分かりました。それじゃ始めさせてもらいます」
慎介は大亜精鋼のファイナンスの準備が着々と進められている経緯を報告し、来る8月5日に東名銀行から200億円の資金がユナイテッド・リバティーのチューリッヒ本店の口座に振り込まれる事になる事を前提とした計画の全容を話した。そして、計画の中で清水学の協力が不可欠である点を再度強調した。
「この計画をすすめるにはまずどうしても市田昭雄の持っている匿名口座の番号が必要になるんだ」
横で神妙な面持ちで話を聞いていた清水学が口を挟んだ。
「慎介、その点は了解済みだ、ここにその番号を持ってきている」学はブリーフ・ケースからクリア・ホルダーを取り出すとその中に挟んであった紙を1枚を取り出して、慎介に手渡した。
3人の視線が一斉に学の方に集まった。
「学、本当に恩に着るよ。有り難う」慎介は気持ちを込めて学ぶに礼を述べた。
「清水さん、有り難うございます」続いて由右子も礼を言った。
慎介は学から受け取った紙片にかかれた数字の羅列を眺めながら言った。
「次にチューリッヒの本店から大亜精鋼に送られる今回の転換社債の早期償還に伴う支払の請求書をどうやってすりかえるかが問題なんだ…」慎介は勝算がある様な素振りで言葉を切った。
「慎介、その顔は何か算段があるんだな」槙原が訊いた。
「ええまあ。この市田昭雄の口座番号が記載された偽の請求書を作成して、それに市田のサインをさせるんです。それを封筒にいれて完全に封をして、封筒の表書きには大亜精鋼、財務部長の本田千秋宛にしておくんですよ」
「その請求書の原本はチューリッヒの本店から大亜精鋼宛てに直接郵送されるんじゃないかな。それをどうやってすりかえるつもりなんだい」槙原が訊いた。
「その点については、ちょっと考えがあるんです」慎介は前回の利息の支払いの時の財務部長本田とのやりとりを3人に説明した。
「大丈夫かなそれで、本田さんが不注意なのはわかるけど、今回に限って本店から郵送された請求書を受け取って、そのまま処理したらどうなると思う」学が問題と思われる点を指摘した。
「うん、その場合は・・・」慎介は言葉に詰まった。
「例えば市田のEメールで本店に請求書の原本を一旦東京に送ってもらう様に頼むのはどうかな?」槙原が言った。
「でも、本店の担当者が市田のEメールに返信したら、この本店への依頼のことが市田に知られて、不審に思われる危険性があるんじゃないでしょうか?」由右子が弱点となる部分を指摘した。
「それじゃネット・カフェなんかに行って、無料のEメールを市田の名前で登録して、本店に依頼のメールを送るっていうのはどうかな。渋谷あたりにあるインターネット・カフェでさ。出張中だって一言断りを入れておけば怪しまれることもないんじゃないかな」学が思いついたアイディアを口にした。
「それだ、慎介、ネット・カフェに行ってメールを出すんだ。大学生風の格好で行った方がいい。そこまで後から探りを入れられる事は無いと思うけど、メールを送信したログは残るからね、だからあまり目立った格好で店員に覚えられるという事は避けたほうがいいと思う。渋谷のカフェなんてスーツ姿でいったら目立ってしまうだろう」
「そうか、わかりました」
「ところで、偽の請求書にどうやって市田にサインをさせるつもりなんだ」槙原が訊いた。
「市田の奴、毎晩、接待と称して夕方から出かけていって、午後10時頃に酔っ払ってオフィスに戻ってくるんですよ。かなり酔っ払っている時は訳分っていない事もあるんで、その時を狙ってサインをさせるつもりですが」
「それはちょっとリスクがあるんじゃないかな。アルコールはまわっていても、頭は覚醒えていて、おまえがそんな書類にサインをさせた事を市田が覚えていたらどうなる?」槙原が思い付いた危険性を口にだした。
「たしかにそうだよ。そうなると慎介おまえにも疑いがかかる事になるじゃないか」学が言い添えた。その時、由右子が急に何かを思い出した様に言った。
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