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「私に良い考えがあります」由右子の話によれば前に務めていた広告代理店で、アート担当のスタッフが写真や絵の構図をトレーシング・ペーパーを使って写し取る作業をする事がよくあり、その時に使うトレーシング・ペーパーのなかでも絹の様にとても薄いものがあるという事であった。それをユナイテッド・リバティーの会社の便箋に巧く貼り付けて、市田がサインする部分だけ四角く切り取っておき、その上にお礼状か何かを印刷して、市田にサインをさせる。そして、その後で貼り付けたトレーシング・ペーパーを奇麗に剥がして、本来の便箋に偽の請求書を印刷すると言うのである。
「そんなんでばれないかな」慎介が不安そうに言った。
「大丈夫です。これがなかなかの優れもので、素人にはちょっとやそっとでは分りませんから」
「でも、一旦貼り付けたトレーシング・ペーパーをそんなに奇麗に剥がす事が出来るのか?」次に槙原が訊いた。
「ええ、それも問題ありません。特殊な糊があって、それを刷毛か何かで便箋の上に薄く延ばしてから、貼り付けるのですが、この糊は乾くとゴムのように固まって、その後は簡単に剥がす事が出来るんですよ。糊も固まっているので手で擦れば奇麗に剥げ落ちますから便箋を傷める事もありません」
3人は由右子の顔をまじまじと見つめていた。
「由右子ちゃん、すごいじゃないか、その線で行こう。なあ慎介」槙原が嘆声を発した。
「慎介、それでその金を市田の口座に振り込んだあとはどうするつもりなんだ」学が訊いた。
「あとって、それでジ・エンドなんだけど」
清水学は顎に手を当てて暫く考え込んだあとに真剣な目で3人の顔を見回した。
「慎介、それじゃ中途半端じゃないかな。どうせならその資金の一部を失敬させてもらうってのはどうかな。もちろん僕らが貰うんじゃなくて、200億円のうちの1割ぐらいを匿名でいくつかのボランティア団体に寄付したりしてさ。そうなれば市田は名実ともに公金横領って事になるだろう」
「学、ずいぶん大胆な案だな。でもそんな事が実際に可能なのか」槙原は興味津々であった。
「はい。実は・・・」清水学はプライベート・バンクの顧客がスイスやそれ以外の国に持つ所謂オフショア・アカウントと呼ばれる口座のからくりを説明した。口座を開設するにあたって1人から2人の代理人をたてること。本人が何らかの理由でサインが出来ない場合、代理人は本人に代わって口座の資金移動の指示書にサインが出来る事。その際に本人がその都度電話でその旨を直接チューリッヒの本店に連絡するか、インター・ネットでプライベート・バンクの顧客専用のウェブ・サイトから同様に代理人による資金移動の旨を連絡する事になっていること。そしてその連絡が銀行側で確認されれば実際に資金移動が実行されること。3人は興味津々に学の話に聞き入ったのであった。
「通常はその代理人には配偶者や家族を指定するんだけど、市田の場合は秘書の川辺真樹を選んでいるんだ。多分、海外の口座にあるお金のことを奥さんには知られたくないんでしょう。ですから、川辺真樹のサインも必要になります」
「それもさっき由右子ちゃんが言った方法で、何か川辺真樹がサインできるようなドキュメントを作ればいいんじゃないかな」槙原が言った。 
「でもその送金指示書は何か特別な用紙に印刷された既製のものじゃないんですか。だから、サインを貰って、後からそこに印刷をするような細工が出来るんですか?」由右子が学に不安そうな顔を向けた。
「その点なら大丈夫だよ。プライベート・バンクの送金指示書はパソコンの中にあるフォーマットに必要事項を打ち込んで、それにサインをするだけだから。僕らにとって大切なのは本人の自筆によるサインがあるかどうかって事だけなんだよ」学は由右子の疑問点に答えた。
「それでその先、そのお金をどこに送るつもりなんだ。どこかの慈善団体にでも直接送金するのか?」慎介が訊いた。
「それじゃ、横領が発覚した時に市田の口座からお金が流れた事が捜査当局にわかってしまう。そこはもうひとひねりしないと」学はいつしか率先して慎介の計画を実行しようとしている自分自身の姿を見て内心苦笑していた。清水学の提案はカリブ海のグランド・ケイマン島にあるペーパー・カンパニーの口座を使うというものであった。オフ・ショア金融市場として有名なグランド・ケイマン島には実体の無い無数のペーパー・カンパニーが設立されていて、そのような会社がまるでスーパーの店頭に並べられた果物の様な感覚で売買されているマーケットが存在しているのであった。学はそんな会社を1つ購入して、その会社名義の銀行口座を利用する事を提案した。
「そのペーパー・カンパニーから溯って僕らのところに捜査の手が伸びてくる危険はないのか?」槙原が訊いた。
「その点は問題ありませんから、心配しないで下さい。それにもうひとつ僕らにとって好都合な事が事があるんです」
「好都合って?」慎介が訊いた。
「この事はまだ話してなかったけど、大澤と市田は8月に一緒にヨーロッパに行く事になっているようです。転換社債が返済される日にはモンテカルロにいます」
「どういうことなんだ」
「僕にもよく理由はわかりませんが、大澤が市田を誘っているようです。多分また賄賂のようなものを渡すのでしょう。その後は2人してギャンブルでしょう。大金が突如として消えてしまう日に、銀行口座の持ち主が世界でも有数のギャンブルのメッカにいるというシナリオはなかなか出来た話になるんじゃないですか」学があっさりと言った。
3人は暫く言葉を失って驚きを隠せない様子で学の話を心の中で反芻した。
学は慎介の方を向いて言った。
「慎介、今度ネット・カフェに行く時には僕にも声をかけてくれ。ちょっと他にもやらなきゃいけない事があるんだ」
「ああ、わかった、連絡するよ」
槙原が皆の顔を見回して、すべての事項を議論し終えた事を確認すると言った。
「それじゃ、これからやる事はこれで決まったな。俺は万が一の事を考えてその後捜査の手が伸びた場合の法的なことをチェックしておくよ」
 
6月中旬には大亜精鋼の株価は低迷する東京株式市場を嘲笑うかの様に700円台まで回復していた。大澤源太郎はニュー・ライフ証券に更なる株の買い増しを迫り、大澤自身も個人の資金で大亜精鋼株を購入していた。慎介と由右子は順調に転換社債発行の準備を終え、6月21日にスイス現地で100億円の転換社債の募集が開始されたのであった。発行市場では新規に発行される転換社債の数が激減して、品薄感から大口の機関投資家からの買いも入り、額面を上回る価格で取引きされ、ファイナンスは大成功を収めた。大澤源太郎は8月の欧州における買収会社の年次役員会に出席する為、チューリッヒでの転換社債の契約書の調印式には財務部長の本田千秋を委任して出席させたのであった。調印式は6月25日の月曜日に予定され、それに間に合うように6月23日の土曜日に本田と本山憲造は成田空港からチューリッヒへの旅路についた。ファイナンスの準備も終わり、由右子も今回の特別任務から解かれ、通常のリサーチ部門の仕事に戻っていた。
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