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翌日の日曜日には再び東京の街には梅雨の空が戻ってきていた。低く垂れ込めた雲からは今にも大粒の涙が零れそうだった。午後4時、渋谷の街は多くの若者たちで賑わっていた。駅前のスクランブル交差点は途切れることなく信号が変わる度に次から次に人の波を呑み込んでいった。JR渋谷駅を出て、スクランブル交差点を斜めに横切ったところに今流行のアメリカのコーヒー・チェーン店があった。慎介は1階のカウンターでアイス・カフェ・ラテを買って窓側に面したカウンターの椅子の1つに腰をおろして、交差点を渡る人の群れを眺めていた。サングラスをかけて、赤い地のアロハシャツに白い半ズボン、ツバを後ろにして濃紺のキャップを被り、サンダル履きの男が慎介に気付いて手を振ってお店に入ってくるのが見えた。
「お待たせ」慎介はそこで始めてその男が清水学である事がわかった。
「なんだ、学か。誰かと思ったよ。渋谷のセンター街で遊んでいるようなお兄ちゃん達に知り合いはいないしなあ」
「俺の変装もまんざらじゃないだろう」学が自慢気な顔をした。
慎介はアバクロのポロシャツにジーンズ、ニューヨーク・ヤンキースの野球帽といういでたちで、青山あたりの大学生の様であった。
「それじゃまずこの近くにあるカフェに行こう。そこではまず慎介は計画通り無料Eメールの登録をしてくれ、僕はその間、インターネットを使って調べ物をするから」
「了解、それじゃ行こうか」2人は若者がたむろするセンター街の奥の方へ歩いて行った。無秩序に行き交う人の群れをかき分けながら進むのは容易では無かった。その店は通りが奥の方で狭まったところの8階建ての雑居ビルの3階にあった。定員5名のエレベーターで3階まであがると目の前に店の入口があった。扉の前には画用紙に手書きでかかれた複数のポップ広告がはられていた。「インターネット1時間1000円、ワン・ドリンク付き」「ハッピー・アワー、午後9時から11時まで半額」また、同様の内容が英語や中国語、ハングル文字、タイ語、アラビア文字などで書かれた広告も貼られていた。1歩店内に入ると受付けのカウンターがあって、茶髪の20代前半と思われる無精髭をはやした男がニコリともせずに無愛想に座っていた。
「前金でお願いします。1時間でいいっすか?」出し抜けに男が訊いてきた。
慎介はどう答えたらいいのかわからず戸惑っていると、学が男にむかって答えた。
「1時間でいいよ。2台貸してもらえるかな」そう言うと学は2000円を男に手渡した。男は学から札を受け取るとレジを開けてその中にいれて、5と8と書かれた丸いプラスチックの札を渡した。その札にはパス・ワードがマジックで書かれていた。学は5番の札を慎介に渡した。店の中にはパソコンが向かいあわせに6台づつ、計12台が置かれていた。店には5名ほどの先客がいた。中国人の2人組が1番と2番の席に並んで座って話をしながらパソコンに向かっていた。10番には色白の眼鏡をかけた学生風の男が座って、インターネットでアダルト・サイトのチェックに余念が無かった。12番にはタイ人と思しき女性が座って、何やらEメールのチェックをしていた。郵便よりもこちらのほうがスピードも速く、多くの友達との連絡も出来て、異国の地での唯一の楽しみなのであろう。6番の席には韓国人の若い男が携帯電話を耳にあてて誰かと話をしながらいくつかのサイトのチェックをしていた。慎介は5番の席に腰をおろすと、コンピューターのキー・ボードのコントロール・キー、ALTキー、デリート・キーを同時に押して、パスワードを打ち込んだ。インター・ネットのアイコンをクリックして、よく使われているサーチ・エンジンのサイトに入ると、無料Eメールのサイトを呼出して、市田の名前を登録した。住所、年齢、などの必要記入事項は適当な事を書き込んだ。電話番号は市田の会社の直通番号を入れた。すべての記入事項を入れて最後に登録と書かれたアイコンをクリックすると、暫くして登録完了の画面が現れた。こうして市田の無料メール a-ichida@freemail.com が誕生したのであった。慎介は反対側の列のパソコンで作業をしている学の方を見た。忙しくいろいろなサイトをチェックして、それを印刷したりノートに書き込んだりしていた。慎介が小声で声をかけた。
「学、メールのアドレスを取ったぞ。ここからメールを出してもいいか」
「ちょっと待ってくれ、それは次の店からにしよう。僕のほうももうすぐ終わるからちょっと待っていてくれ」そう言うと学は印刷したものをプリンターからとって袋に詰め始めた。2人はカフェを出ると再びJR渋谷駅を目指して来た道を戻った。
「次はどこに行くんだい」慎介が歩きながら訊いた。
「六本木のバー。まあついて来ればわかるから」
2人は渋谷駅の前のタクシー乗り場で、車を拾って六本木に向かった。日曜日とあって六本木通りは嘘のように空いていた。約10分程でタクシーは六本木の交差点についた。2人はタクシーを降りると外苑東通りを飯倉方面に向かって歩いた。途中の路地を左に折れて、学の目指すバーは雑居ビルの地下にあった。地下に降りていく階段の入り口には金色のプレートに店の名前『ディーラーズ』が光を放っていた。店内に入ると午後6時前なのに外人客のグループで賑わっていた。学はカウンターでビールを2本買って戻ってくると1本を慎介に手渡した。
「学、こんなところで何をする気なんだ」慎介が解せない顔つきで言った。
「慎介、まあ落ち着いてあっちの壁の方を見てみろよ」学が奥の突き当たりの壁の方をビール瓶の先で指した。慎介はその先に視線を移した。そこには熱帯魚が神秘的にゆらゆらと泳ぐスクリーン・セーバーのついたパソコンのモニターが青白い光を放っていた。学はパソコンが置いてあるほうに歩いていった。慎介は学の後に続いた。学はパソコンの前まで来ると右手の人差指でキーボードのスペース・キーを叩いた。モニターの画面から瞬く間に熱帯魚達は消え去り、搭載されている様々なソフトのアイコンが写し出された。学はインター・ネットと書かれたアイコンをクリックした。
「さあ、ここからさっき取得したアドレスを使ってEメールを送るんだ」学は慎介に指示した。
「ここであれば誰がいつどんなメールを出したかなんて後から調べ様がないからね」学はしたり顔でウインクをした。
「学、おまえ相当筋金入りの遊び人の上に結構ワルだよな」慎介はそんな学を揶揄した。
慎介は無料Eメールのサイトを呼び出すと、先ほど渋谷のネット・カフェで登録した市田のメール・アカウントを開く為に必要な事項を入れて無料Eメールの画面を呼び出した。それから新規作成のアイコンをクリックして、あて先にチューリッヒ本店の担当者のメールのアドレスを打ちこんでから、市田の名前で、大亜精鋼の転換社債の繰上償還に伴う請求書を直接東京の担当者に送るよう指示した旨のEメールを送信した。横でビールを飲みながら慎介の作業を見ていた学が言った。
「これで当面の準備は完了だね」
「まあな。まだまだやらなきゃならない事は山ほどあるけど・・・」
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