TOKYO IPO スマホ版はこちら
TOKYO IPOTOKYO IPOは新規上場企業の情報を個人投資家に提供します。



第1部

第2部
     


なぜ今、コモディティなのか?

女性のライフプランと公的年金

運用を取り巻く環境を考えよう

オンナのマネースタイル

■資産運用ガイド
いまさら聞けない株式投資の基本


意外と知らない?!投資信託の基本


試してみたい!外国株の基本


慣れることから始めよう外貨投資の基本


お金持ちへの第一歩 J−REIT


アパート・マンション経営


IPO最新情報や西堀編集長のIPOレポート、FXストラテジストによる連載コラム、コモディティウィークリーレポートなど、今話題の様々な金融商品をタイムリーにご紹介するほか、資産運用フェア、IRセミナーのご案内など情報満載でお届けしています!
東京IPOメルマガ登録


IPOゲットしたい!口座を開くならどこ?
FX(外国為替証拠金取引)ってなに?
FX人気ランキング
知らないと損しちゃう!企業の開示情報


由右子は川辺真樹がサインをした偽の出張申請書を持って早速プライベート・バンクの清水学を訪ねた。学は由右子をプライベート・バンクの個人客と話をする為の特別な部屋に通した。部屋には重厚なデスクが1台置いてあって、その上にはパソコンが備え付けられていた。学は部屋の中から鍵をかけると、デスクに座り、パソコンの電源をいれた。暫くしてパソコンの準備が出来ると代理人による資金移動の依頼書のフォームを呼び出し、空欄に必要記入事項を入れていった。送金金額:20億円、送金先:ナショナル・バンク・オブ・キプロス、口座名義:UL007SWTZHR、送金者:G57582633FSN、代理人:MK,署名照合:要。清水学はその他いくつかの欄もパソコンの画面上で埋めていった。由右子はデスクの前の顧客用の椅子に座って学の作業を見守った。学は最後にもう1度口座番号等を確認してから、印字のアイコンをクリックしてプリントした。印刷された紙がデスクの後ろのサイド・ボードの上に置かれたプリンターから排出された。学はそれを取ると由右子に手渡した。由右子は用意してきた白い手袋をはめると、川辺真樹のサインの入った国内出張用の申請用紙からカモフラージュする為に貼り付けたトレーシング・ペーパーを綺麗に剥がしていった。学は目を見張るように由右子の見事な手さばきを見つめていた。あっと言う間に川辺真樹のサインだけがされた一枚のさらの紙が由右子の手に残っていた。由右子はそれに学が今作った書類を重ね合わせてライトにかざした。サインの位置が下に約一センチ・メートル程度ずれていた。
「コピー機をつかって、サインの上にこの書類をコピーしましょう。一枚しかないから失敗は出来ません。コピー機をお借りしていいですか。何度かためし刷りをしてから最終版をつくりますから」
「この部屋にはないから、ちょっと待ってくれない。この裏の作業用の部屋にコピー機があるから。でも、君が手袋なんかしてコピーをしているところをうちの他のスタッフが見たらきっと変に思うだろうから、誰もいないのを確認してからにしよう」そう言うと学は由右子を1人部屋に残して退室してから、ものの2・3分ですぐに戻ってきた。
「今、ちょうどみんなお昼で出ているから、大丈夫だ。すぐに来て」
由右子は学の後に続いて部屋を出ると大型のコピー機が置いてある作業部屋のようなところに通された。学は作業部屋の入り口で誰かが来た時に備えて廊下のほうを警戒した。由右子は手際よく、川辺真樹のサインの入った紙を5枚ほどコピーして、それをそのままA4サイズの紙の補給ホルダーに入れた。その後に学が作った書類をコピー機の本来の位置から約1センチほどずらして紙の端が写らないようにその上からB4サイズの紙をかぶせて、用紙サイズA4を選んでコピーのスタート・ボタンを押した。緑色の光が左から右に移動していくと、トレーに印刷されたコピーが出てきた。由右子はすばやく手にとるとサインの位置を確かめた。まだ微妙にずれていた。あと三ミリぐらい調整すればいいだろう。由右子はコピー機にセットした原稿をさらに三ミリ程度ずらして、再度スタート・ボタンを押した。次に出てきたコピーのサインの位置は寸分違わず見事にその枠の中に収まっていた。これで大丈夫だ。由右子は川辺真樹のサインの入った紙をコピー機の補給ホルダーに綺麗にセットして、ホルダーを静かに閉めると、スタート・ボタンを押した。コピー機はいとも簡単に一枚の紙を排出した。由右子は祈るような気持ちで紙を取り上げて、サインの位置を確認した。真樹のサインはきっちりと枠の中に収まっていた。誰がみても川辺真樹が自筆のサインをした書類がそこにあった。由右子はそれを素早くクリア・ファイルに入れると、学が作った書類と先ほどテスト用に川辺真樹のサインの入った紙をコピーした用紙を補給ホルダーから取り出して、コピー機の脇にあったシュレッダーにかけて、証拠を隠滅した。由右子は作業の終了を目で清水学に伝えると、2人はもといた部屋に戻った。学が再度内側から部屋に鍵をかけると、デスクの椅子に座り込んだ。2人は心臓の鼓動が激しくなっているのにその時初めて気付いた。
「これで、代理人の書類も揃ったから、あとは市田のパソコンからEメールを本店の担当に出して、今回の送金について代理人の川辺真樹を使うことを連絡しなければならないんだ。市田からこのメールが事前に出されていれば、本店では何の疑問も無く、川辺真樹のサインを照合して、それがあえばその指示通りに送金が実行される事になるけど・・・、これが順序が逆になって川辺真樹がサインした書類が先に本店に届くと、市田のところに直接本店から問合せがいくから、厄介な事になるんだ」
「その件は今慎介さんがいろいろと工作しています。来週の金曜日の夜に市田のオフィスに忍び込む事になってます」
「そうか・・・、その時、僕も一緒に行っていいかな。ちょっとした間違いや食い違いが命取りになるからね」学の目からはいつもの温厚さは消えてなくなっていた。
 
翌週の月曜日に槙原理一は市田昭雄に電話をいれた。
「おや、槙原さんからお電話下さるとは珍しい」市田は慇懃無礼に対応した。
「たまには、私の方からお食事にでもと思いましてね。西麻布にちょっと洒落た和食のお店をみつけたので、今週の金曜日の夜でもいかがですか」
「生憎先約が入っていましてね。また次回、是非お誘い下さい」
「そうですか、残念です。ちょっとM&Aの案件でお話しようと思っている件もあったんですけどね・・・」槙原は思わせぶりに言葉の語尾を濁した。市田は槙原の言葉にまるで台本でもあるかのように反応した。
「いや、ちょっと待ってもらえますか。今週の金曜日ですよね。夕食と言うと午後7時位ですか」市田はスケジュール帳を開いて、金曜日の予定を確かめた。元山川証券の役員で今はあるメーカーの相談役をしている人との夕食になっていた。これなら槙原との夕食にしたほうが金になるな。市田は即座に皮算用し、決断を下した。
「なんとか出来そうです。それじゃ金曜の7時でお願いしますよ」
「わかりました。市田さん本当に宜しいのですか。先約がおありになったんじゃ」
「そちらのほうは大丈夫ですから。気にされないで下さい」
「では、場所等については後ほどファックスでご連絡します」
「よろしく」市田はそう言うと電話を切った。市田の奴、予想した通り食らいついてきた。何とか面白そうな話をでっち上げて金曜日の夜は市田昭雄を連れまわさなければ・・・。受話器を置いてから槙原はいろいろと考えを心の中で巡らせたのであった。
 
朝岡慎介はどうやって川辺真樹を金曜日の夜にオフィスの外に連れ出したらよいのか考えてみたが、なかなか良いアイディアが思い浮かばなかった。食事に誘うにも自分自身は市田のオフィスに忍び込まなくてはならないのだ。川辺真樹と食事をしている時間など無かった。焦りばかりが先に立っていた。気持ちを落ち着けようと、慎介は流し読みしていた日経新聞の朝刊ぱらぱらと捲った時に、映画の宣伝が目に飛び込んできた。話題の大作『ファイナル・シーン』金曜日先行ロードショー、春先にアメリカで大ヒットした、前評判の高い映画であった。これだ、これを使おう。慎介はインター・ネットで金曜日午後9時からの指定席2枚をクレジット・カード決済で購入した。
その日も川辺真樹はお昼返上で慌しく働いていた。午後3時頃に漸く一息ついた川辺真樹がガラス張の小さなミーティング・ルームでコーヒー片手にサンドイッチを食べていた。慎介は様子を見計らって川辺真樹の所に行った。
「忙しそうだね。今ごろお昼なの」慎介は同情するように言った。
「本当にクレージーなくらい忙しかったわ。何か用?」
「うん、特別に用って訳じゃないんだけど、今度公開になる映画の『ファイナル・シーン』の指定席のチケットが2枚あるんだけど、ちょっと僕は仕事が入って行けなくなってね。川辺さん、よかったら代わりに行かないかな」
「ええ、本当。行きたいな。でも何時なのかしら」川辺真樹は飛びついてきた。
「今週の金曜日の午後9時から、場所は渋谷なんだけど」
「金曜日か。市田さんも東京にいるしなあ」
「川辺さんもたまには息抜きしないと、体がもたないよ。それに市田さんだって接待で夜はいないから大丈夫なんじゃないかな」慎介は川辺真樹を諭すように言った。
「そうだよね。たまにはそのぐらいしても罰あたらないわよね。朝岡さん、それじゃお言葉に甘えてチケット頂戴します」
「OK、じゃあチケットは明日渡すからね」
これで準備は万全だ。金曜日の午後9時過ぎには市田昭雄と川辺真樹はオフィスにはいない。慎介は自分の席に戻りながら心の中でそう呟いた。あとは金曜の夜に他の投資銀行部のスタッフが誰もオフィスに残らない事を祈るだけだった。
    <<前へ
次へ>>

Copyright © 1999-2008 Tokyo IPO. All Rights Reserved.