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金曜日の夜の六本木の街は渋滞する車の赤いテール・ランプとひしめきあう雑居ビルから突き出した七色のネオンの光の洪水にすっぽりと飲み込まれていた。東京を代表する不夜城、六本木が最も輝く瞬間である。清水学は六本木の交差点でタクシーを降りると外苑東通りを乃木坂方面に歩いた。目指すホテルは六本木の交差点から徒歩1分程度の所にあった。1階の通りに面したホテルの入口で槙原が泥酔した市田を支えて壁に寄りかかっていた。
「すみません。遅くなって。金曜日で道が混んでたもんで・・・」学は遅刻を詫びた。
「大丈夫だ。それより奴さん、この調子だ」槙原は隣で意識不明の市田昭雄を蔑む様に指差した。
「とりあえず今部屋を押さえてきますから、ここで待ってて下さい」学はそう言うとフロントのある5階にエレベーターで上がって行った。約10分程で、学がチェック・インを済ませて戻ってきた。
「お待たせしました。シングル・ルームを1部屋押さえました。8階です」
「よし、それじゃこいつを運び込もう。手伝ってくれ」
学は槙原の反対側から市田の腕をとりそれを自分の首に回した。市田を2人で挟むような格好で、エレベーターに乗り込んだ。ホテルのエレベーターは1階から直接客室にも行けるように作られていて、一旦チェック・インすればフロントを通らずに中に入ることが出来た。利用客の多くは訳ありのカップルであった。エレベーターが8階に着くと、チェック・インした806号室に向かった。学が空いているほうの片手で鍵をあけると、2人して市田を部屋の中に担ぎ込んだ。部屋は息が詰まる程狭く、シングル・ベッドが片側の壁にぴったりとくっ付けて置かれていた。反対側の壁には小さなデスクとその前に椅子が置かれ、壁とベッドの間は大人1人が通れるぐらいの幅しかなかった。シングル・ベッドの上に市田の体を投げ出すと、槙原と学はふっと一息ついて顔を見合わせた。
「それじゃ、そろそろ退散しよう。この分じゃ奴は朝までぐっすりだから」槙原が学を促した。
「槙原さん、ちょっと待って下さい」学はそう言うとベッドの上でマグロのようになっている市田の背広のポケットを探り始めた。
「おいおい、金でもくすねるんじゃないだろうな」
「そんなんじゃありませんよ。奴の会社のカード・キーを捜しているんです。あ、あった、あった。これが欲しかったんです」学は理由を槙原に説明した。
「これで奴のアリバイがなくなって、そのカード・キーを使って君たちが夜中のオフィスに侵入しても、セキュリティーにはあたかも市田本人が真夜中にオフィスに入ったという記録しか残らないという事だな」
「そうなんです」学の口元で満足そうに白い歯が光った。部屋の鍵を脇のデスクの上に置いて、2人は部屋を後にして、エレベーターで1階まで降りた。
「それじゃ、俺はここでお役御免ということで失礼するよ。ちょっとその辺で飲み直して帰るよ」
「槙原さん、どうもありがとうございました」
「それじゃ、後は君たちの幸運を祈っているよ」槙原は右手の人差指と中指をこめかみにあてて気障っぽく挨拶すると、くるりと向きを変えてネオン輝く六本木の街に吸い込まれる様に消えて行った。学はそんな槙原の後ろ姿を見送ってから、流しのタクシーを捕まえて、再びユナイテッド・リバティーのあるシティー・スクエアを目指した。
 
学はシティー・スクエアの一画にあるオリエンタル・パシフィック・ホテルでタクシーを降りた。時計は午後12時30分であった。学は1階のロビーの奥にあるバーに足早に歩を進めた。金曜の夜は午前1時が看板で、バーの客も疎らであった。慎介と由右子が一番奥のテーブルで顔を寄せ合って神妙な面持ちで何やら話をしていた。
「お待たせ」学が2人に声をかけた。
「どうだった」慎介は待ちきれない様子で学に先を急いた。学は市田を六本木のシティー・ホテルに置いてきた事やその時の市田の様子などについて2人に説明した。最後に学はもったいぶった様子で背広のポケットから1枚のカード・キーを取り出して二人の前に出した。
「カード・キーじゃないか。それがどうしたんだよ」慎介が訊いた。そのあとやや間を置いて慎介が続けた。
「まさか。そうなのか。学すごいじゃないか」
「慎介、察しがいいな。市田のポケットから失敬して来たんだよ」
「これでセキュリーティーの記録には市田本人がカード・キーを使ってオフィスに入室した記録が残るんだな」
「ああ。それに今奴は夢の中だから。奴のアリバイを証明出来る第3者は誰もいない事になる」
 
午後1時になり、ホテルのバーは看板となった。3人はホテルを出ると、道を挟んで反対側にあるオフィス棟まで歩いた。深夜12時には正面玄関のドアは閉ざされ、3人は地下の時間外通用口から市田のカード・キーを使ってビルの中に入った。エレベーターで投資銀行部のある26階まで上った。エレベーターを降りると、由右子の指示で3人は再びポケットから白い手袋を取り出すと手に装着した。学が市田のカード・キーを投資銀行部の入り口のカード・キー専用のスリットに差し込むと上から下に滑らせた。施錠が解除されるカチャという音がした。慎介がドアを開けると、3人は滑り込むように部屋の中に入っていった。オフィスの中は真っ暗であった。ところどころつけたままのパソコンのモニターから放たれる青白い光を頼りに3人は奥にある市田のオフィスに向かった。由右子が再び市田のデスクに腰をおろすと先ほど解明した市田のパスワードをパソコンに打ち込んだ。コンピュータの画面が現れた。由右子は学の指示に従ってパソコンに繋がったマウスを使ってインターネットの画面を立ち上げた。由右子の後ろに立って作業を見守っていた学がプライベート・バンクの顧客が使う専用のサイトを教えた。由右子は学が言ったサイトをそのままタイプするとエンター・キーをたたいた。しばらくすると、プライベート・バンクの顧客専用の画面がモニターに映し出された。学は由右子に顧客番号入力とかかれたアイコンをクリックするように指示した。入力画面が現れた。口座番号、口座名義人の名前、パス・ワードの3つの空欄があった。学が小さな紙片に控えてきた番号G57582633FSNを読み上げると、由右子はそれを口座番号の欄にいれた。次に講座名義人のところに由右子が市田昭雄の名前を入力しようとするの学が制した。
「由右子ちゃん、そこは市田の名前じゃないんだ、奴が所有するのは匿名口座だから、そこにもさっきと同じものがはいるんだ」
由右子は言われるままに同じ文字数列G57582633FSNを打ち込んだ。最後のパスワードの欄には学が再びメモに書きつけてきた数字とアルファベットの組み合わせを読み上げ、それを由右子がそのまま空欄に入力した。空欄に打ち込んだ情報はすべて*マークで表示されていた。由右子が最後に実行のアイコンをクリックするといろいろなメニューが一覧になった画面が現れた。
「真中にある代理人送金指示を選んで」学が言った。由右子が学の指示どおりそのメニューを選択した。次に代理人送金に関して必要な事項を記入する画面が現れた。代理人の氏名、代理人の認証方式、送金金額、送金先、送金の期日等が空欄になっていた。由右子は学が言うままにその空欄をすべて埋めていった。由右子の肩越しに学が最終確認をした。
「これで大丈夫だ。このまま送信して」
由右子はマウスのカーソルを画面の一番下にある送信とかかれたマークに合わせるとクリックした。手紙に羽のついた送信中のマークが現れた。市田の部屋の入口あたりに立ってまわりを警戒していた慎介の方に向かって学が言った。
「慎介、これで完了だ」
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