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第6章

1997年10月、東京

「ねえ聞いた。グラハムの後釜がやっと決まるみたいよ」
早耳の亜実が駆け寄って来た。
「誰に?」菜緒子が訊ねた。
「それがまだ最終決定じゃないらしいけど、山川証券の法人営業部長か何からしいのよ」
「ええ!、なんでまた山川証券みたいな潰れそうなところからエクイティー・キャピタル・マーケットの要職に人を採る訳?」
「だってうちって評判悪いじゃない。すぐ人を切るって。なかなかいい人は来ないみたいよ。本当は国際四菱銀行クラスの取締役ぐらいの人をスカウトしたかったらしいけど。グラハムも本当なら8月末にはニューヨークのエクイティ本部に戻っていたはずなのに、1ヶ月も延びているでしょう。まあもうこれ以上は待てないってことなのかな」
「残される私たちはどうなるのよ」と菜緒子が噛み付いた。
「そんなこと私に言われてもね」マイ・ペースの亜実は他人事のように平然と答えた。
「グラハムの奴、裏切り者」菜緒子は呟くように小声で悪態をついた。
「その山川のオヤジなんだけど今チューリヒ、ロンドン、ニューヨークの世界の拠点に挨拶回りに出ているらしいのよ」
「そうなの」菜緒子は亜実の話に一抹の不安を覚えた。

グラハムの後任として市田昭雄がエクイティー・キャピタル・マーケット部の新部長として紹介されたのはその1週間後のことであった。毎週火曜日の早朝に開かれるミーティングの席にグラハムが見知らぬ中年の男を連れ立って入って来た。席に着くとグラハムは咳払いして言った。
「おはようございます。さて、本日は皆さんに私の後任者を紹介します。こちらにいらっしゃる市田昭雄さんです。彼は山川証券の法人営業部長を7年に渡り務められており、エクイティ営業のエキスパートです。市田さんの新体制の下、ユナイテッド・リバティー東京のエクイティ・ビジネスは更なる発展を遂げるものと確信しております。それでは市田さんからも一言どうぞ」グラハムは市田を促した。
市田は濃紺のダブルの背広に身を包み、エルメスの朱色のネクタイをし、伊達メガネをかけていた。市田が軽く咳払いをすると、周りが一瞬静まり返った。エクイティー・キャピタル・マーケットのスタッフは皆品定めするように市田の出方を見守った。
「只今ご紹介に預かりました市田昭雄でございます。ここ15年ほど山川証券で法人営業に従事して参りました。特に80年代は多くの本邦企業のユーロ債・スイス債の販売に携わりました。その関係でロンドンにも5年ほど駐在しました。こうした経験を活かしユナイテッド・リバティーでもさらに精進する所存でございます。グラハムさんの後任として恥じること無く任務を全うするつもりです。皆さんのご協力を心よりお願いする次第でございます。」
グラハムが拍手をすると、続いて散発的なご挨拶程度の拍手が起こった。菜緒子も亜実もスタッフの誰もが市田に対していい印象を受けなかった。早速、清原の市田へのゴマすりが始まった。
「エクイティのことを知り尽くした市田さんのような方が新部長として着任されて心強い限りです」
歯の浮くような台詞を清原は何の抵抗も無く皆の前で披露した。聞いているほうが恥ずかしくなるぐらいに市田を持ち上げる清原の姿に菜緒子はエクイティー・キャピタル・マーケット部の先行きを被せて見ていた。グラハムがニューヨークに発つまでの約1週間は市田は引き継ぎで多忙を極めた。ユナイテッド・リバティーの得意客への訪問、ランチ、ディナーと分刻みのスケジュールをグラハムとこなしたのであった。市田はグラハムの前では口数も少なくまるで借りてきた猫のようにおとなしく紳士的に振る舞った。グラハムが日本を発った翌週から市田の態度はガラリと豹変したのだった。

まず、市田はエクイティー・キャピタル・マーケット部のスタッフの名前を皆呼び捨てにした。またその呼び方も吐き捨てるような傲慢な感じであった。あまりにも唐突で無礼な振舞いにスタッフは動揺し、閉口した。清原のおべんちゃらが市田の態度をさらに悪い方へ助長した。市田は触れ込みとは反対にエクイティ・ビジネスに対する知識は薄っぺらなものであることはミーティングを重ねるごとに露呈していった。山川証券の法人営業部長とは名ばかりで市田のやっていることは単なる男芸者に過ぎなかった。

内線電話が鳴った。慎介は朝から取り組んでいた持ち合い株式解消のプロポーザルの結論の部分に取り掛かっていた。電話の液晶パネルに午前11時の時刻と『NAOKO IINO』の表示が出ていた。
「ユナイテッド・リバティー、朝岡でございます」慎介は丁重に電話にでた。
「慎介、何気取った声出しているのよ。突然なんだけどお昼空いている?」
「姫のお望みとあらば何時でも参上仕りますが」
「茶化さないでよ。OKってことでいいのね」
「ラジャー。それで何時がいいの」
「それじゃ11時半に隣のオリエンタル・パシフィックの中華でどう? 亜実も一緒だけどいい?」菜緒子らしく矢継ぎ早に事を決めていく。反論の余地は無い。まあ、それが彼女のいいところでもあるけど。
「ノー・オブジェクション(異論はありません)」
「予約は入れておくから遅れないでね」
慎介が「ハイ・ハイ」と答えている途中で電話のラインはブツリと切れた。
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