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慎介は約束の時間に10分程遅れてレストランに現われた。隅の丸いテーブルから菜緒子が手招きしているのが見えた。
「ごめん」慎介が詫びを入れようとすると菜緒子がすかさず言った。
「じゃここは慎介の奢りってことで、おご馳走さま」
「何でそうなるの?」
「せこいこと言っていると男は出世しないわよ」
横に座っていた亜実が苦笑した。
「何が可笑しいの亜実」菜緒子が突っかかった。
「だって2人って何だか夫婦漫才みたいなんだもの」
「まあまあ」慎介が二人を執り成した。
ウェイターが慎介の前にジャスミン・ティーの入ったカップを置いた。3人はお茶を啜りながら、暫くメニューを眺めた。ウェイターが注文を取りに戻ってくると、菜緒子と亜実は四川風坦々麺を、慎介は海鮮焼そばをそれぞれ注文した。
「グラハムさんの後任がうちにも挨拶に来たよ。副部長の清原さんが米搗きバッタのようにくっ付いていたけどね」
「どんな感じでした?」聴いたのは亜実だった。
「物腰柔らかく誠実そうに振る舞っていたけど、実際は陰湿な奴って印象を受けたな」
「あら慎介なかなかいい線いっているじゃない。あなたの直感もたいしたものね」
「お褒めに預かり光栄の至りです」
亜実が横から言った。
「超やな奴なのよ。グラちゃんが帰国するまでは本当に猫被ったように大人しかったんだけど、その後はもう醜い株屋の本性ばればれって感じ。下品で粗野で私会社辞めたくなっちゃった」
菜緒子が付け加えるように言った。
「亜実の発言に道義上一部不適切な表現があったけど。でも否定は出来ない事実なのよ。奴はきっと何か企んでいるわよ」
「何を?」慎介が訊く。
「はっきりはわからないけれど、とにかく信用出来ない奴なのよ。そのうち投資銀行部にもちょっかい出すと思うからおたくの人のいい部長にも気を付けるようにインプットしておいたほうがいいかもね」
慎介はいつもとは違った菜緒子の雰囲気に彼女の不安と憤懣を感じたのであった。

「飯野!」市田がガラス張りの個室の中から大声で菜緒子を呼んだ。その時菜緒子は顧客の顧問弁護士と新株発行のスケジュールについて詳細を詰めている最中だった。菜緒子は心のなかで呟いた「Shit!!」隣の席にいた亜実が負けずに市田の部屋の方にむいて怒鳴るように言った。
「飯野さんはいま電話を一本もってます」
市田がガラスの個室の席から応戦した。
「電話が終わったら俺の部屋に至急来るように言っておけ」
「わかりました」亜実がぶすくれた顔つきで応じた。
菜緒子は2人の激しいやり取りに圧されて、弁護士との話に集中できなくなった。一旦断って電話を切った。
「まったく何なのよ」
憤慨している菜緒子に亜実が言った。
「金魚鉢のなかのバカチンが用があるって」市田のオフィスはガラス張りの個室になっていて、スタッフは陰でそれを金魚鉢と呼んで揶揄していた。
「何だろう」菜緒子が訝し気に眉根に皺を寄せた。

市田のガラス張りの部屋の扉は開け放たれていた。菜緒子はガラス扉を手の甲でノックした。コンコンという軽い音が部屋の中で反響した。
「お呼びでしょうか?」菜緒子は市田に声をかけた。市田は目を通していた書類から顔を上げると言った。
「何時までダラダラと電話で喋っているんだ」
憤慨した菜緒子が市田に返答した。
「お言葉を返すようですが…」
市田がドスの効いた声で菜緒子を遮った。
「お嬢さん、お言葉なんざ返してもらったところで一銭にもならねえんだよ。いいか、どうせ返してくれるんなら銭子になんねえかな」
菜緒子は呆れて受け答えをするのを放棄してしまいたかった。市田のデスクの上の電話が鳴った。電話の主は市田が山川証券時代にお世話になった某事業会社の役員のようであった。市田の態度が180度変わる。
「ああ、佐藤専務さんですか。ご無沙汰しております」まるで頭を机の上に摩り付けんばかりの平身低頭ぶりである。菜緒子は馬鹿馬鹿しくなって市田の部屋から出ようとしたら受話器を持ったまま市田がジェスチャーでそこに残るように合図した。
「いやあ、ご栄転なんてとんでもないです。私市田昭雄は佐藤専務はじめ皆さんのご加護が無ければ生きていけない男ですから」
暫く意味の無いやり取りが続いて、市田は受話器を戻した。菜緒子の方に目をやると
「未だ話しは終わってないんだよ。なんだその目は文句でもあるのか」
「いえ別に」
「まあいい、おまえを呼んだのは実は大亜精鋼の件だ。あそこの大澤社長には俺が山川時代に大変お世話になったんだ。昨日挨拶がてら大澤社長に会ってきた。今月末のスイス・フラン債の償還の件はうちにもリファイナンスのお願いをしたが無下に断られたと嫌みをいわれたぞ。どうなっているんだ」
「それは現在の市場環境では大亜精鋼の債券を投資家に販売するのは不可能で、その事は投資銀行部も含めた結論として先方には説明していますが」菜緒子は経緯を市田に話した。
「おまえは自分が言っていることが分っているのか。法人営業なんてそんなもんじゃないんだよ。全く外資系の皆さんは甘チャンの素人衆だな」市田は大きなゲップをすると続けた。
「まあ今回の償還は大澤さんも何とかメイン・バンクの東名から資金を引き出せたようだが、来年の8月の2億スイス・フランのワラント債については銀行借入れはこれ以上無理だと釘をさしてきた。転換社債でも発行してもらおうかと思うんだがな」
「でも現在の大亜精鋼の株価の水準ではかなりの希薄化に繋がります。更に株価下落の原因になってしまいます。」
市田はそんな菜緒子の意見など無視したように意味深にニヤリと笑うと言った。
「この件は俺のやり方でやらしてもらうよ」
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