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同じ週の木曜日にユナイテッド・リバティー東京はとなりのオリエンタル・パシフィック・ホテルの宴会広間の1つに全社員を招集した。旧スイス・インダストリアル・バンクの東京のヘッドでアジア地区の統括責任者のパトリック・シュナイダーは合併後もカントリー・マネージャーとして東京に席を残していた。しかし、それは名ばかりの役職で、実務からは遠ざけられた窓際族のような存在でしかなかった。こんな時の司会役とばかりにパトリック・シュナイダーは雛壇の上に担ぎ出された。
「こんにちは、皆さん、カントリー・マネージャーのパトリック・シュナイダーです」
多くの社員が見知らぬ人をでも見るような目で壇上のシュナイダーを見上げた。
「本日は皆さんに重大な発表があります。ユナイテッド・リバティー東京の本年度の業績は大幅に予想を下回っております。この状況を改善すべく、マネージメントは東京の組織を大きく改革する事を決定しました。いま現在複数の部門がそれぞれ独立して営業を行っています。部門間の話し合いも効率的になされていません。この状況を打破するためにこのような新体制に移行する事をマネージメントが承認・決定しました」
壇上のスクリーンに新しい組織図が投影された。そこには投資銀行部を頂点にその下にエクイティ部、債券部、M&A部、引受部、金融開発部が列挙されていた。菜緒子の所属するエクイティ・キャピタル・マーケット部はエクイティ部としてキャッシュ・セールスも含めた大枠で括られていた。シュナイダーが投影された図にレーザー光線の赤いポインターを当てながら話しを続けた
今後、東京における営業活動はすべて投資銀行部の管轄下に入ります。下の五つの部門はプロダクト・マネージャーとして投資銀行部をサポートすることになります。投資銀行部の部長は今後本部長職になり、現エクイティー・キャピタル・マーケット部長の市田昭雄さんがこの役職に就かれます。5つの部門の責任者は今後新体制を設立する過程で順次決めていきます。」
シュナイダーが市田を壇上に手招いた。
「それでは新投資銀行部新本部長の市田さんから一言頂戴します」
市田は堂々と壇上にあがるとこの世の春を謳歌せんとばかりの態度でマイクの前に立った。
「ご紹介に預かりました市田昭雄でございます。エクイティー・キャピタル・マーケット部の部長として10月にこちらに参りました。日本の証券会社で15年間にわたり法人営業に従事してきました。その経験がこの度の大役に多いに活かせるものと期待に胸を膨らませております・・…」
会場の市田昭雄の事を知る誰もが壇上で繰り広げられる悪夢を見て吐き気をもよおした。その他の事情を知らない社員達の間から市田に拍手が送られた。菜緒子は額から血の気が引いていくのを感じた。
 
「市田さん、ご昇進おめでとうございます」
連れの男の1人が言った。
「本当に市田さんは悪運が強いというか、生来の勝ち馬なんですよね」
もう1人が市田を持ち上げた。
「おまえらも俺のような勝ち馬に賭けなければいかんぞ」市田は得意顔でご機嫌だった。
「まあ、この俺様にもツキが回ってきたってことかな。まあ今夜はパーっと飲もう。俺の奢りだ」
市田は山川証券時代のかつての自分の部下を2人つれて、銀座の行き付けの店『スナック黒バラ』に来ていた。
「あら市田さん今夜はご機嫌ね。何かいい事でもあったの」ママの佳代が言った。
「そりゃもう盆と正月が一度に来たぐらい嬉しいんだよ。さあママも一緒に飲もう。この店で1番高いボトルを入れてくれ」
「いつもどうも有り難うございます。奈美ちゃんニュー・ボトルお願いね」ママは目配せした。
佳代ママは市田の隣に腰を降ろすと空いたグラスに新しい水割りを作って市田に渡した。市田がいやらしく佳代の腰や胸に手を回そうとした。彼女は酔っ払いの扱いは手慣れたもので、うまくそれをかわして市田との話に相づちを打った。
連れの2人の男は市田のそんな乱れた態度に苦笑しながらも、懸命に市田のご機嫌をとった。
1人の男は山川証券で市田が法人営業部長の時その下で次長をしていた本山憲造。市田に小判鮫のようについていた男だ。歳の頃は四十前半で小太り、頭は薄く禿げ上がっておりそれを隠そうとバーコード状の毛髪をポマードで頭に撫で付けている。
「市田さんの下でまた働かせてもらえませんか」本山は媚びるような態度で言った。
「何だと、この禿ボクチャン」市田は酔っ払ってウイスキーの水割りを混ぜるマドラーの柄で本山の秀でたおでこをコンと叩いた。テーブルの一同が大爆笑した。
「いじめないでくださいよ」本山は苦笑いを浮かべて応えた。
「市田さんあんまりいじめちゃ可哀相よ」佳代ママが助け舟を出す。
もう1人は山川証券の企業戦略部の番場和彦。年齢は本山よりは若く30代半ば。本山ほど媚びる様子はなかったが市田に自分を何とか売り込もうとしている。
「番場、おまえさん、山川ではM&Aを担当していたんだろう?」
「ええ、ただ欧米の投資銀行が言うところのM&Aからは程遠いのですがね」
「まあ、そんなことはどうにでもなるんだ。兵隊は揃えてあるからな」
市田が番場にだけ仕事の話をするのを聞いて本山は焦った。
「市田さん、僕だって債券の引受の営業をずっとやってきてますからお役に立てると思います」
本山が平身低頭で市田に言った。
「まあユナイテッド・リバティーの東京の人事は俺がすべて掌握しているようなもんだ。おまえらの事も俺の匙加減1つでどうにでもなるってとこかな」市田はひけらかすように言い捨てた。
「まあ、おまえら来週履歴書をもって俺のところに来い」
「有り難うございます」2人が声を揃えた。

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