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本山憲造と番場和彦が連れ立って市田のオフィスを訪ねたのはクリスマスの数日前の事であった。市田の秘書の川辺真樹が2人を市田のガラス張りの個室へ案内した。エクイティ・キャピタル・マーケット部のスタッフのデスクが両側に並ぶ通路の突き当たりに市田の部屋はあった。本山は目新しいものをみる観光客のようにあたりをきょろきょろと見まわした。開け放たれた市田の部屋の扉の所までくると真樹が市田に声をかけた。
「失礼します。市田部長、お客様がお見えになりました」
デスクの上のパソコンの画面上で電子メールを読んでいた市田は顔をあげて本山と番場の顔を見ると、かつての山川の部下達に自分の新帝国を自慢する皇帝のような堂々とした態度で言った。
「おう、よく来た。まあ入れ」
2人を招き入れるとでデスクの前の椅子を薦めて、真樹に言った。
「川辺、お茶はいいから。そこのドア閉めておいてくれ」
「わかりました」一礼して真樹は自分の席に戻った。2人の男はまず先日の銀座のバーでの歓待に礼を述べ薦められた椅子に腰を下ろした。
本山は落ち着かない様子で座った椅子から腰を浮かせてガラスの壁越しに市田が統括しているエクイティ・キャピタル・マーケット部のフロアを見渡した。数名の外人スタッフの顔もあった。本山が感嘆の声を上げた。
「すごいじゃないですか。市田さん。山川のタコ部屋とは雲泥の差ですね」
番場が続いて言った。「大出世ですね、市田さん」
「まあな」まんざらでもない風を装って市田が言った。
「このフロアのスタッフが皆市田さんの兵隊なんですか」
「ああこれはほんの一部だ。この前話したように来年1月からはここも含めた5つの部署を統括する責任者になる」市田は上機嫌で言った。
「本山、おまえにはここの責任者になってもらう。いまはエクイティ・キャピタル・マーケット部と称して主にプライマリー・マーケットの仕事しかやってないが、来年からはキャッシュ・セールスの部門も統合されてエクイティ部になる。おまえはそこの部長になる」
意表を突かれて、本山は裏返った声で訊き返した。
「ぼ、僕がですか?いきなり部長に?それでは他のスタッフの方達の反感を買ってしまうんじゃ…」
「おまえ何を甘チャンなことを言っているんだ。嫌だったらいいんだよ。他にもなり手は5万といるから」
「いっいや、有り難うございます。光栄です。死ぬ覚悟で頑張りますので」
「おう、で駄目な時はいつでも死ね。葬式ぐらい出してやるぞ」
隣で座っていた番場は2人の会話を黙って見守っていた。市田の暴君ぶりとその卑しさには吐き気を感じながら。市田が番場に矛先を向けた。
「番場、おまえにはM&Aを担当してもらう。山川の企業戦略部ではいくつかM&Aの案件を手がけたんだろう?」
「ええ、まあ2、3件程度」
「おう、上等じゃないか」
「でも先日申し上げました様に欧米の金融機関が手がけているM&Aとは程遠いと思うのですが…」
「そんなことは関係ねえよ。そんなこと言っているから外人野郎になめられちまうんだ。とにかくおまえさんはM&Aのプロですって顔してればいいんだ」
「はぁ、わかりました」
「わかりゃいいんだ。稼いだ分だけ払ってやるから、おまえら褌締め直して出直して来い。いいかここでは銭っ子がすべてなんだ」
市田の勢いは衰えることが無かった。
「おまえ達、人事部には挨拶して来たのか?」
「いえ、これからです」本山が答えた。
「じゃ俺が連れていってやるよ」
市田は2人を連れて部屋を出た。部屋の真ん前のデスクから川辺真樹が立ち上がり3人に向かって会釈をした。市田は川辺に向かって言った。
「川辺、これから2人を人事部長に紹介してくる。そのあと直接ランチに行く。オリエンタル・パシフィック・ホテルの中華を12時に4名で予約しておいてくれ。それから清原君があいていたらランチに来るように伝えておいてくれ」
「はい、分かりました」
フロアのデスクの間の通路を歩きながら忙しそうに働いている外国人スタッフを見て本山が訊いた。
「外人のスタッフはクリスマス休暇は取らないのですか」
「ああ、俺が奴等のクリスマス休暇を許可しなかったのさ。奴等甘やかすとつけあがるからな。ここは日本なんだ。クリスマスなんざ関係ないんだよ。郷にいれば郷に従え、ここでは俺がルールなんだ」
 
「今市田のところに来ていた2人の男見た?」菜緒子が訊いた。
「見た見た。山川証券の連中かしら?特に中年の禿頭のオヤジ何だか陰険な目つきしていたよね?」亜実が言った。
「うちに来るのかしら?」
「よく分からないけど多分ね」
「市田の奴、自分の息のかかった連中で回りを固めるつもりね」
2人が頭を寄せ合って話している所へアメリカ人アナリストのディビッドが割り込んできた。
「お2人で何かよからぬ相談ですか?」
「そんなんじゃないわよ。ディビッド何?」亜実が訊いた。
ディビッドはクリスマス休暇をニューヨークの彼女とハワイで過ごす予定だったが、市田はそれを許可しなかった。
「お2人はクリスマス・イブの夜には予定は入ってますか?六本木のクラブでパーティやるんだけど来ませんか。会費は5000円です。」
「うん多分行けると思うけど」菜緒子が応える。
「ぜひ来てください。たくさん人がきたほうが楽しいから」ディビッドが親指を立ててウインクをした。
「亜実さんはどうですか」
「彼氏との第1部が終わってから駆けつけるわ。彼氏も連れていっていい?」
「もちろん、みんなウェルカムだよ」デイビッドが明るい調子で言った。
菜緒子が眉間に皺を寄せて同情するように言った。
「だけどデイビッドもついてなかったわね。ハワイのクリスマスの件、彼女は納得したの?」
「まあ、おかげさまで。でも市田の奴の下じゃ、もうやってられないよ。クリスマスに休めないんだもの。クレージーだよ」
デイビッドはここぞとばかりに不満を漏らした。
「私たちの不遇を祝ってパーっといこうか」
「じゃ、場所などの詳細については電子メイルで知らせますから」
「サンキュー」菜緒子が答えた。
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