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第9章

1998年1月、東京

市田昭雄を本部長とした投資銀行部を中核にユナイテッド・リバティー東京の新体制がスタートした。市田の推薦で元山川証券時代の部下の本山憲造と馬場和彦は1月1日付けでユナイテッド・リバティーに入社した。本山は市田の策略でいきなりエクイティ部の部長に就任した。本来、順番からいけば副部長の清原充がそのポジションに就くのが順当であったが、市田は清原の性格をうまく逆手にとってそれを阻止したのであった。
12月末に市田は清原を夕食に誘った。六本木の寿司屋のカウンター席で市田は清原に話しを持ち掛けた。
「清原君。私は1月からは投資銀行部の本部長として全体を統括することになる。それでエクイティ部の現在の私のポジションに誰かに就いてもらわなければならない。ただ部長と言っても仕事は主に他の部との調整とか海外とのやり取り等のデスク・ワークが中心になる」
市田は一旦言葉を切って、グラスに残ったビールを飲み干した。
「清原君、僕は君にはもっと今まで以上にフロントにたってエクイティ部の仕事をしてもらいたいんだ。君をデスク・ワークで埋もれさせておくのはうちにとっても大きな損失だと思う。ニューヨークのエクイティ本部のジョン・ブリッジさんも君のことは高く買っていてね、私と同じ意見なんだ」
「はあ」清原は市田の言うがままに話しを聞いた。
「それで僕からの提案なんだが、君には引き続き今の副部長のポジションでエクイティ部のマーケッティング全般を担当してもらいたい。部長には山川証券で法人営業をやっていた人間を就けようと思っている。ただ、彼にはデスク・ワーク中心の内部の仕事をやってもらおうと思っているんだ。まあ、名ばかりの部長職だ。だが部長は部長だ。もし何か問題が起きれば彼に責任をとって貰うことになる。君はそんな事に気を煩わされることもなく営業に専念できるわけだ。どうだろう。もちろん給与については部長職待遇に格上げするよ」
清原は複雑な気持ちで市田の話を聞いていた。清原自身は先頭に立って降り掛かる火の粉を浴びるのはまっぴらだった。給料は部長待遇で今のままでいいのならこんなに気分的に楽なことはない。清原はいろいろな考えを天秤にかけて結論に辿り着いた。
「市田さん、分かりました」清原は市田の申し出を快諾したのであった。
「そうか、では今後ともよろしく頼むよ」市田が笑って言った。
 
もうひとりの子分、番場和彦はとりあえずM&A部の副部長に就任し槙原理一のチームに入れられた。番場の場合は市田が思うほどスムーズにはいかなかった。
12月の終わり頃に市田は槙原に何の相談もせずに番場の採用を独断で決定した。その後で槙原に連絡をとったのだ。槙原はクリスマスの1週間まえから休暇をとりガール・フレンドと二人でカナダのバンフにスキーに来ていた。市田は槙原のアシスタントに緊急の用件だとごり押しして、槙原の滞在先のホテルの電話番号を聞き出したのだった。
槙原のホテルの部屋の電話が鳴ったのは現地時間の午前4時であった。槙原は何事が起きたのかと眠い目を擦りながらベッド・サイドのライトの明かりをつけて時間を確認した。いったいこんな時間に誰なんだ。
受話器を取り上げて耳にあてると、送話口から男の声が響いた。
「市田だが、槙原君かね」
fuck!!、槙原は心の中で呟いた。馬鹿たれがいったい何時だと思っているんだ、礼儀知らずにもほどがある。槙原の気持ちなどお構いなしに市田は続けた。
「優雅なお休みのところ悪いな。実は至急話たいことがあったんで」
「今何時だと思っているんですか」槙原は腹立たし気に言ったが無駄だった。市田はそんな相手の雰囲気を察してくれるような男ではなかった。
「実はM&A部にひとり人を増やすことにしたんでね。前もって君の了解を得ておかないとと思ったんで」
「それでは私が東京に戻りましたら1度うちの部のスタッフ全員とインタビューをしてもらいますから、お手数でしょうがその方の履歴書をうちのスタッフに渡しておいて下さい」
「いや君の手を煩わせるまでの事もないんだ」
「だけど…」槙原が反論するのを遮って市田が続けた。
「もう採用は決定したんだ。君に1番に話をしたかったんだが、あいにく君は東京におられなかったのでね」
「それでどんな人を採ったんですか」
「山川証券の元社員で企業戦略部のスタッフだったんだ。僕も良く知っている男で、なかなか優秀な奴だよ」
「M&Aのバック・グランドはあるんですか」
「ああ多少はね。まあとにかく君が東京に戻ってきてから紹介するから」
市田は自分の用件だけ伝え終わると槙原の言っている事などに耳も貸さずに一方的に電話を切った。
槙原が握り締めた受話器からは無機質な音だけが響いていた。
槙原が市田から番場和彦を副部長としてM&A部に配属したと聞かされたのは1月5日の仕事初めの日であった。
 
市田は各方面で裏工作し、ユナイテッド・リバティーの要職を自分のシンパで固めた。特に市田が命令すれば靴の裏まで舐めると思われるほど従順な本山憲造には市田のデピュティーとしての権限を与えた。そのためエクイティ部はユナイテッド・リバティー東京の社内では投資銀行部に次いで2番目に重要な部門という位置づけになった。本山は市田の権力を傘にエクイティ部で圧政をしいたのであった。
一方、槙原は最後まで、番場の人事配置に難色を示し激しく抵抗した。
「市田さん、M&A部には番場さんよりも遥かに経験もあり、優秀なスタッフがいるんですよ。彼等を差し置いて番場さんを副部長のポジションに就けるのはスタッフの士気の低下にも繋がり兼ねません。是非ご再考下さい」槙原は真剣な面持ちで訴えた。
市田は軽く咳払いすると言った。
「しかしなあ、槙原君、このユナイテッド・リバティー東京のマネージメントを任されているのはこの俺なんだ。問題が起これば俺が責任を取らされる。だから東京の戦略は俺の考えで推し進める。失敗すれば俺は潔くこの腹を切る覚悟なんだ。もし君が俺の考えに賛同してもらえないのなら残念だが他を当たってもらうしかないんだよ」市田は口元に笑みを浮かべていた。
槙原は腕組みをしたまま硬い表情になり、市田の顔を穴が空くほど睨みつけた。
「槙原君、そんな恐い顔するなよ。まあ、悪い事は言わん。番場と協力して頑張ってくれ」市田は槙原の心中など気にかけず軽い調子で言った。
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