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エクイティ部は新本山部長の下で一変してしまった。市田がエクイティ・キャピタル・マーケットの部長に就いていた数ヶ月間よりも状況は更に悪化した。影の責任者としての印篭を市田から与えられていたはずの副部長の清原充も本山の下では一兵隊に成り下がった。本山の部長就任以来、清原はその腰巾着振りを発揮し、本山の一挙手一投足を何事につけ褒め称えた。市田により絶大なる権力を与えられた本山の暴君振りは常軌を逸していた。ご挨拶と称して、本山は旧山川証券の顧客であった事業会社の役員・部長クラスを毎夜の如く接待した。時には風俗店で羽目をはずした。本山のコーポレート・カードの支払明細にはレストランとは思えない名前がいくつもあった。本山はエクイティ部のスタッフを徹底的に酷使し、微に入り細に入り嫌がらせと思われる事をした。1月中にエクイティ部のテンプ・スタッフの女性2人がそんな本山の態度に耐えられなくなり、会社を辞めた。今まで週1回だったミーティングもいつのまにか3回に増えてしまい、そのほとんどが本山が自分の権力を誇示する為の場として使われた。
 
市田はほろ酔い加減で、この世の春を謳歌する専制君主のようなふてぶてしい格好でソファーに深く腰をおろしていた。
「おまえたち、もう会社には慣れたか?」
「はい、もう市田さんのお陰で、順調なスタートを切ってますよ」反対側のソファーに腰を浅くかけた本山が媚びるように答えた。
「副部長の清原の奴も市田さんがおっしゃっていた通りに、僕に対しても大変協力的で、いろいろと本当に助かっています」
「そうだろう!。俺がおまえに言ったように、清原については何も心配する事はねえんだ。奴は金玉抜かれた去勢牛みたいなもんだから」
市田は2人の子分を連れて、日比谷にあるノーブル・ホテルのメイン・バーに来ていた。本山の隣で消沈気味に座っている番場に向かって市田が声をかけた。
「番場、おまえはどうなんだ」
「ええ、M&Aのスタッフ達の風当たりが強くて、ちょっと苦戦気味です」
「馬鹿野郎、何を悠長なことを言ってるんだ。おまえの仕事は奴らを手なずける事なんだ。そんな弱腰でどうする。」市田が激した声になった。
「でも、スタッフ皆が槙原さんサイドに立っていて、1人っきりの僕は四面楚歌ですからね。市田さん何とかしてくださいよ」
「甘ちゃんだなおまえも。まあいい、俺に考えがあるから任せておけ」
「よろしくお願いします」番場が言った。
市田は5杯目のスコッチ・ウイスキーのオン・ザ・ロックを飲み干すと、「ふー」と深くため息を吐いて、思い出したように言った。
「おまえたちは大亜精鋼の事は知っているだろう」
「ええ、元山川証券が幹事証券をしてましたよね」本山が確認するように訊いた。
「ああ、あの大亜精鋼だが、今年の夏に200億円相当額のワラント債の満期が来るんだが、このご時世で会社の業績も今一つだ。銀行借入れも容易な状況じゃない。俺は山川の時から大亜精鋼の大澤社長とは親しくしていて、大澤さんからも直々にこの件を頼まれているんだ。大澤さんは何としても市場から返済資金を調達したがっているんだ」
「かなり難しそうな話ですね」本山が割って入った。
「ああ、だから俺達の出番なんだ。いいか本山、肉は腐りかけが一番美味いんだ。死に絶えそうな大亜精鋼から美味い汁が滴り落ちているんだよ。よく覚えておけ」
「あっ、はい、分かりました」本山が素直に応じた。
「俺はな、ここで大澤さんに1つ貸しを作っておきたいんだ。まず、俺は大亜精鋼に転換社債を発行させようと思う」
「でも、大亜精鋼の株価は相当下落してませんか?」番場が訊いた。
「だから、まず株価を引き上げる事から始めるんだよ」
「どうやってですか?」
「山川証券の後釜に準大手で新興のニュー・ライフ証券を幹事証券にする事にしたんだ。奴等、今必死で事業法人との取り引きを拡大しようとしている最中だから、業績が芳しくなくても老舗の大亜精鋼の幹事証券の座がもらえるのなら何でもやるさ。奴等をけしかけて株価を釣り上げるのさ」
「それじゃ株価操作じゃないですか」番場が思わず声にして言った。
「馬鹿、声がでかい」市田がたしなめた。
「あっ、すみません」番場は周りをきょろきょろと見回した。
「まあ、毒は毒を持って制すんだよ」市田がしたり顔で言った。市田は前の席でウイスキーを啜っていた本山に向かって訊いた。
「本山、おまえの元山川の部下たちで何人か投資信託の会社に再就職した奴等がいるだろう」
「はあ、まあ数名ですがね」
「奴等とコンタクトしてファンドに大亜精鋼の株を組み入れてもらうように頼むんだ」
「大亜精鋼をですか?」
「そうだよ。おまえに借りのある奴もいるだろう。だったら、ここ一番、その借りを返してもらおうじゃないか」市田の提案は本山にとっては絶対服従の命令であった。
「わかりました。至急、動いてみます」
「ああ、宜しく頼むぞ」
 
市田は1月の下旬に番場を1週間の海外出張に行かせた。目的は番場の名前をロンドン、ニューヨークのM&Aのスタッフたちにひろめ、番場のユナイテッド・リバティーのM&A部門におけるグローバルなネット・ワークを築き上げる為であり、市田にとって目の上のタンコブである槙原を排除する為の準備でもあった。番場は行く先々で会うスタッフ達に「リッチィ(槙原理一)はどうしたの?」と訊かれた。番場は控えめな態度を装って、今後は槙原と2人で東京でM&Aのマーケッティングを担当すると説明した。番場がこの海外出張でばらまいた名刺の英語の面には「Head of M&A」と記されていた。ロンドンのスタッフの1人が不審に思ってこの事を槙原に電話してくるまで、槙原はこの番場の一連の出張の件を知らなかった。槙原は込み上げてくる憤りのやり場を見つける事が出来なかった。
 
市田が自分のガラス張りの部屋で英語の書類と挌闘しているのを確認すると槙原は開け放たれた扉の入り口に立って声をかけた。
「市田さんお話したい事があるんですが、今よろしいでしょうか」
書類から顔をあげて市田が答えた。
「おう、何だ、まあ座れよ」市田は自分のデスクの前の椅子を槙原にすすめた。
「番場さんが今海外出張に出られているようですが、何が目的なんですか?僕の方には何も連絡が無かったものですから」
「ああ、それなら俺が番場に海外のM&A部門の責任者に挨拶回りをしてくるように命じたんだ」市田がそれがどうしたと言わんばかりの顔で答えた。
「そうでしたら事前に一言いって下されば……」
「えっ、連絡してなかったっけ、それはすまん。俺も1月に入ってから忙しくてバタバタしていたもんだから、つい君に連絡するのを忘れてしまったようだな」市田には悪びれるところもなくさらりと答えた。
槙原は沸々と煮えたぎる怒りを殺して続けた。
「それから、あと……」
槙原が話を続けようとすると、市田が「まだ、何かあるのか」と不機嫌な声で槙原が話をするのを遮った。
「ええ、実は番場さんがロンドンのスタッフに挨拶に行かれた時に「Head of M&A」というタイトルの名刺を差し出されたので何か東京で組織変更があったのかとスタッフの1人が連絡をよこしてきましてね。これはどういう事でしょうか?」槙原は市田に問い質した。
「ああ、その事なら、番場にも今後M&Aでガンガン稼いでもらわなければならないので、うちの海外のスタッフにもなめられちゃいかんと思ってな。まあ、表向きだけでもそうしていれば番場も仕事がやり易くなるだろうという俺の親心なんだな。もちろん、槙原君、君が責任者としてM&Aを統括する部長である事には変わりはないんだよ」
「でも、それでは…」槙原が反論しようとすると、
「悪いな、もうそろそろ外出するんだ。この件はもう話す事は無いと思うがねえ」
市田は部屋の外側のデスクに座っている秘書の川辺真樹に向かって言った。
「川辺、5分後に下に車を用意しておけ。小便してから下に行くから」
市田は槙原に「失礼」とひとこと言って、部屋を出て行った。
槙原は釈然としない気持ちで市田が出ていく後ろ姿を憎しみを込めて見送った。
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