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槙原は東京からスタッフを3人連れて、2月の第1週から日本の某鉄鋼メーカーが韓国の財閥系鉄鋼メーカーに資本参加するプロジェクトのファイナンシャル・アドヴァイザーとしてソウルにある弁護士事務所に1週間缶詰状態になっていた。1日の睡眠時間が3時間の日々が続き、へとへとに疲れ果てて東京に戻ってきた。ディールのサイズは2億ドル、アドバイザーの手数料が約1パーセントの約2億円でのユナイテッド・リバティー東京にとってはまずまずのディールであった。最終日の交渉を終えると槙原たち参加スタッフはソウルの街に繰出して1年分と思われる量の酒を浴びるように飲んだ。翌日の土曜日に予約した東京行きの午前便には誰も搭乗することが出来なかった。2日酔いで割れそうに痛む頭を抱えて一向は金浦空港へ車を走らせた。韓国流の荒っぽい運転で一同は痛む頭を更にシェイクされて、空港に到着した頃には頭痛は最高潮に達していた。東京行きの便は各社とも満席で、結局一同は大阪経由と福岡経由の2手に分かれて帰国の途につくことになった。槙原はスタッフの1人ジェイソン・スプリングフィールドと日本航空972便ソウル16時45分発福岡行きに搭乗し、国内線を乗り継いで午後8時30分に羽田に舞い下りた。2人は1週間分の書類とラップ・トップのパソコンをオフィスに置いてから帰宅する事にした。タクシーを飛ばして恵比寿のシティ・スクエアまで直行した。週末でひっそりと静まり返った正面玄関の脇の通用口のカード・リーダーにジェイソンが社員証を差し込んだ。緑のランプが点滅するとカード・リーダーから社員証が吐き出され、脇の自動ドアが開いた。2人がM&Aの部署があるフロアに着くと青い作業着を着た業者のアルバイトと思しき若者たちが大々的に机の配置変えを行っていた。
槙原が驚いて作業の指示をしている責任者らしい男を捕まえて問い質した。
「これはいったいどういう事なんですか。私は何も聞いていないんですが」
「そう言われても困るんだよね。私たちはただ指示された通りに動いているだけなんだからね」男は迷惑そうな顔で答えた。
「誰からの指示なんですか?」槙原は食らいついた。
男は面倒くさそうにクリップでとめられた書類を捲って、名前を見つけると言った。
「おたくの投資銀行部の川辺さんからですね」
市田の秘書の川辺真樹だった。市田の策略だ。槙原は咄嗟に思った。傍らではジェイソンが何がなんだかよく分からずに突っ立ていた。取り敢えず、2人は自分の机を見つけて書類とパソコンを置いて帰宅の途についたのだった。
 
週明けの月曜朝一番に槙原は市田の秘書の川辺真樹に電話を入れた。
「投資銀行部、川辺です」川辺真樹本人が電話に出た。
「M&Aの槙原ですが、週末にうちの部の机の配置を換える指示をされたと聞いたのですが」
「ああ、その件なら市田部長が指示されて、業者に手配したんですが」真樹は淡々とした口調で事務的に説明した。
「僕の方には事前に何の連絡も無かったのですが」槙原が言った。
「ええっ、市田部長から槙原さんに直接話す事になっていたんですけど」真樹が驚いた調子で答えた。
まただ、市田の奴め、槙原は思った。槙原は怒りを押さえて訊いた。
「市田さんと話したいんですが、今日は何時がお手隙ですか?」
「午前中でしたら10時半、午後ですと4時以降ですね」真樹は市田の予定表を見ながら答えた。
「それじゃ、10時半にそちらにお伺いしますので、その時間を押さえておいてもらえますか?」
「承知しました」槙原の気持ちとは裏腹に真樹は明るく応じた。
 
「市田さん、私の留守中にM&A部の机の配置替えをされたのは何故ですか?」槙原は憤慨していた。
「ああ、それなら、今後M&A部を2部制にしようと思ってな。1つは今まで通り君が担当し、もう1つは番場に担当してもらう。2つでやったほうが競争になって励みになるだろう」市田はいつもと変わらず悪びれる素振りすらなかった。
「どうしてそんな大事なことを事前に連絡してくださらなかったんですか?」
「いや、おたくの部の人に伝えたはずだけどな。君のところには連絡が行かなかったのかい?どうしても先週までに今年のストラテジー(戦略)を本社に提出しなくてはならなくて、M&Aの2部制はその1つだったんだよ。番場にも稼いでもらわないと困るしな。今年はM&Aの売上げはこれで2倍だな。ボーナスはずむから頑張ってくれよ」市田は勢いに乗って喋った。
槙原はスタッフの配置の仕方に付いても仕事の効率性等の点からいろいろと意見したのだが、市田は全く聞く耳を持たなかった。
「悪いな、もう決めてしまったんだよ。まあ、学校の席替えみたいなもんだ、また時期がきたら考えるよ。そう深刻にとらんでくれよ」
「でも、それでは…」槙原が更に言おうとするのを市田が遮った。
「槙原君、これは会社の決定事項なんだよ」市田は口元に不敵な笑いを浮かべていた。
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