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大澤源太郎にとって不愉快な週の始まりとなった。週末のゴルフの惨敗が尾を引き、憂鬱な気持をさらに増幅させていた。何が悲しくて月曜の朝からあの市田の下衆野郎の顔を見なければならないのだ。大澤は胸の底から込み上げてくる鬱憤にどう対処したらよいのか分からなかった。大澤は大亜精鋼の再生の為と自分自身に言い聞かせてきたが、市田の傍若無人振りは大澤の許容範囲を超えていた。
あと5分で10時という時に大澤のデスクの上の電話の内線が鳴った。ハンド・フリーのボタンを押してスピーカー・ホンにした。
「社長、ユナイテッド・リバティーの市田さんがお見えになりました」秘書の声が市田の到着を告げた。
「ああ、私の部屋へお通しするように」大澤は秘書に指示するとデスクの椅子から重い腰を上げた。
程なく、秘書が市田と本山を案内して来た。
「大澤社長、どうも月曜の朝から無理を申しまして、申し訳ありません」市田はいつもの男芸者振りを発揮した。同行した本山が横で軽く会釈をした。
「まあ、市田さんお掛け下さい。本山さんもどうぞ」大澤は2人を促した。一同は社長室のソファーに腰を降ろすと、市田が早速切り出した。
「ところで例の株式の移管の話は無事解決できたようで、まあこれで一安心ですね」市田が言った。
「ええ、まあ」大澤はあまり気乗りしないトーンで答えた。
「それで、早速なんですが、連結ベースの数字の予測をある程度事前に教えて頂きたいのですよ。御社の転換社債を引き受けるにあたって、うちの内部で承認を得ておかなければなりませんからね。まあ、7月の起債ですから、まだ時間はたっぷりあるんですが、今回の御社の特殊事情を鑑みればある程度の目処を付けておきたいと思いましてね」市田は意味深なものの言い方をした。
「ええ、それは本田君が戻りましたら、至急取りかからせようと思っていたところです」
「本田部長はまだ東南アジアの工場巡りをされているようですが、会社の存続がかかったこの大事な時期にたいそう悠長なもんですね」市田が嫌みを言った。
大澤は怒鳴りつけたい気持ちを押さえて、市田の目を見据えて言った。
「我が社にとって、東南アジアのオペレーションは中枢であり、その視察は大変重要な任務でありますから、手を抜く訳にはいかないんですよ」下郎のおまえに何が分かると言わんばかりの形相で、大澤は市田の方を向いていた。
「まあ、とにかく本田さんが戻られたら至急準備に取り掛かりましょう」市田は言うと、一緒に連れてきた本山の方を向いて訊いた。
「本山、エクイティ部の方では、この件の情報管理は出来ているんだろうな?」
「はい。手抜かりはありません。本件については、大澤社長、本田部長、市田さんと私以外は誰も知らない事になってます。情報管理は私自身で厳重に行っていますので洩れる事はありません」
本山の説明を聞いて、大澤は幾分ほっとした様だった。
「本山、本田部長が戻られたら、早急に連結の決算の予想数字をまとめるように。それが出来た時点でエクイティ・アナリストの中西に御社のレポートを書かせましょう」
「大丈夫でしょうか、市田さん」大澤は不安を隠しきれなかった。
「もちろんですよ。レポートは御社の株を『買い推奨』にランクしますよ」市田は自信満々であった。市田は本山に向き直ると、「中西に書かせるレポートはおまえが責任を持って監修するんだ、いいな」市田は有無を言わせぬ態度で迫った。
「大澤さん、この件はこの市田の首にかけても成功させますからご安心を」市田は大上段に構えた。
「よろしく頼みましたよ」ポーカーの最後のカードを引くように大澤は祈りを込めた。
「こう見えても、私は株のプロですよ。大船に乗ったつもりでいて下さい。それと、今回の転換社債の発行の際に同時にヨーロッパで投資家説明会を開催しては如何でしょうか。中西のアナリスト・レポートをベースに大亜精鋼の有望な前途をストーリーにして、大澤さんが話すのですよ。これで、欧州の投資家の大亜精鋼への関心も高まりますよ。今回の主幹事として投資家説明会も我が社でアレンジしますよ」市田は大風呂敷を広げた。横に座っていた本山は、本当にそんな事まで出来るのか不安を感じながら市田の独演を聴いていた。
 
その日の午後に、本山は中西圭太、菜緒子、亜実の3人を会議室に集めた。しばらく大人しかった本山は、いつもの陰湿な調子に戻っていた。
「皆さんに集まって貰ったのは、大亜精鋼の転換社債の発行についてなんです」菜緒子も亜実も本山のたいそうな前置きをお座成りに聞いていた。
「本田部長が海外出張から戻られたら、連結決算の推定ベースの数字を弾いてもらいます。中西君にはそれを基にして、大亜精鋼のエクイティ・リサーチを書いてもらいます」本山が演説をぶる横で、中西はメモをとっている。
「飯野君と湯川君は、我が社の内部の稟議書、社債の契約書、投資家に配布する目論見書のドラフトの作成に取り掛かってください」本山は大仰に指示した。
「本山さん、契約書は準備できますが、稟議書と目論見書に関してはある程度決算の数字を頂けないと作成出来ませんが、どうしたら宜しいのでしょうか」菜緒子が訊いた。
「取り敢えず、単体の数字はある程度の予測がまとまっているらしいので、それを使って作業に取り掛かってほしい」本山が言った。
「大亜精鋼は連結決算をしているので、連結ベースの予測値が必要なんですが」菜緒子は食い下がった。
「連結については私が本田部長と詳細を詰めるので、それが出来たら君たちに入ってもらう事にするよ」本山は疎ましそうな目をして応えた。
「でも、本山さん、この様な作業は普通は私たちレベルのスタッフがやる事なのに、今回に限ってどうしてですか。部長の手を煩わすような事ではないと思いますが…」亜実が何の気なしに訊いた。
3人は一瞬本山の顔に狼狽の色が過ぎったのを見逃さなかった。小心者の本山は言葉に詰まりながら、苦し紛れの言い訳をした。
「まだ、決算前の未発表の数字を扱うので、大澤さんが大変心配しておられてね。情報の漏洩を防ぐ為にも限られた人員で事を運びたいとおっしゃっているんだ。別に君たちのことを信用していない訳ではないんだ。だから、この作業が終わり次第、君たち3人にも中に入ってもらう事になるから準備だけしておいてくれ」
本山は自分の弁解に満足した様子で、椅子に座り直すとふっと息を漏らした。
「それから、市田さんの提案で、今回の転換社債の発行の際に欧州で大亜精鋼の投資家説明会を一緒に開催する事になった。開催地はチューリッヒ、ロンドン、エジンバラ、パリ、フランクフルトを考えている。この説明会は今回の主幹事である我が社がすべて手配することになる」
「うちの、何処にそんな事を手伝える人員が余っているんですか?」菜緒子が疑問をぶつけた。
本山はちょっとの間を置いて、言葉を継いだ。
「それも、君たちにやってもらうことになるから、宜しくたのむぞ。特に中西君のレポートが重要な役割を果たすから、くれぐれも間違いの無いようにな」
本山は念を押すように言った。

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