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翌週、本田千秋が東南アジアの工場回りを終えて帰国した。本山は待ってましたとばかりに本田を拘束して、連結の情報をまとめる作業に取り掛かった。約1週間、本山は大亜精鋼に缶詰になったのであった。
「本田部長、おたくの英文のアニュアル・レポートはいつぐらいに出来ますか?」本山が訊いた。
「なんですの、そのアニマル・レポート言うのは?」本田が訊き返した。
本山は呆れた顔になった。財務担当の部長がアニュアル・レポートが何たるやを知らないなんて。
「アニュアル・レポートですよ。御社の会社案内と財務諸表が一緒になった英語の冊子ですよ。スイスやユーロ市場で債券を発行されると、その後投資家に英語で決算の説明を出されているでしょう」本山は我慢強く、丁寧に説明した。
「ああ、それなら、決算書を単に弁護士の先生に翻訳してもらってるだけやね」本田は当たり前のように言い放った。
「でも、本田部長、大澤社長からお聞きになっていると思いますが、今回は転換社債の発行と同時に欧州で投資家説明会を開催しますので、アニュアル・レポートは絶対に必要ですよ」
「はあ、それは困りましたな。どないしましょう」本田は事の重要性が解かっていない様で、人ごとのように言った。
「アニュアル・レポートは、いわば会社の看板のような物だから、各社競ってカラー印刷の見栄えのいいものを作っているんですよ。7月の債券の発行に間に合うように、早く専門の業者を手配しないといけませんね」本山は本田に有無を言わせなかった。
「本山さん、くれぐれも宜しく頼みますよ」全く要領を得ない本田は本山に縋るしかなかった。
オフィスに戻った本山はエクイティ部のアナリストの1人をつかまえて訊いた。
「日本の会社は英文のアニュアル・レポートを作るのに普通何処を使っているのかな?」
「それでしたら、たいていの場合は専門業者に依頼するとか、大手の広告代理店系列の会社が多いようですね。会社によってはコンサルティングの専門家を間にたてている場合もありますが。特に初めて海外で投資家説明会をするような場合は、やはりコンサルティングの出来る大手の代理店と契約されたほうが無難ですね」
「通常、どの位の時間と費用がかかるのかな」
「それはその内容や会社によってかなり開きがありますよ。うちがシンガポールの電話会社のグローバル株式公開のスポンサーをやった時は、大手の広告代理店で英文の会社案内と投資家説明会用のスライドを作らせたのですがやはり全部で1000万〜1500万位かかってますね」
「そんなにするのか」本山は抗議するような口調になっていた。
 
慎介は大阪の取り引き先での会議を終えて、御堂筋で流しのタクシーを拾った。行く先を告げると、疲れた体を車のシートに預けた。車は渋滞する大阪の街を抜けて、午後8時30分にJR新大阪駅に着いた。
駅のコンコースに入ると慎介は新幹線の発着を告げる電光掲示板を見上げた。午後8時54分発の東京行きのぞみ30号が目に止まった。慎介はみどりの窓口でグリーン車のチケットを買うと改札を抜けてホームに上がった。ホームのガラス張りの待合室の長椅子に腰を下ろして、駅の売店で買った日経新聞の夕刊に目を走らせた。
「よう、慎介じゃないか」不意に自分の名前を呼ぶ声がした。慎介は読んでいた新聞から顔を声の主に向けた。そこには清水学が立っていた。
「おう、学。どうしたんだ。仕事か?」慎介が訊いた。
「昨日から泊りがけでこっち方面の客まわりをしていたんだよ。慎介たちと違って俺達プライベート・バンカーはローカルなどさ回りが多いからな。先週なんか福井・石川・富山って北陸3県制覇だぜ」学が同情してくれよと言わんばかりに言った。
「これから東京に戻るところ?」慎介が訊いた。
「ああ、次ののぞみでな」
「それじゃ、一緒だな」学が嬉しそうな笑顔で白い歯を見せた。
しばらくすると、のぞみの到着を告げる駅の構内アナウンスがあった。
「まもなく25番線に東京行きのぞみ30号が到着します。途中停車駅は京都、名古屋です」
二人はのぞみに乗り込むと車掌に断って2人並んだ座席に腰を下ろした。
「これからオフィスに戻るの」学が訊いた。
「まさか、これの東京着は11時30分だぜ」慎介は冗談はよしてくれと言わんばかりの顔になった。
「それじゃ、ビールでも飲もう」学が勧めた。ビールを片手に2人は、久しぶりに寛いだ気分になっていた。
学が神妙な顔つきになってポツリと始めた。
「慎介さ、これは職業上の秘密だからここだけの話という事にしておいてくれよ」学が前置きを言って言葉を続けた。
「投資銀行部の市田さんうちに口座を開設したんだよ、やけに羽振りがよくってね。と言ってもうちがターゲットにしている金額にはまだまだ程遠いけどな」
「へえ、そうなんだ」慎介は興味なさそうに答えた。
「大亜精鋼の社長の紹介で、うちに口座を開設したんだ。それ以来、得意客気取りでうちのスタッフに威張りちらして。今じゃ、市田さんの電話を誰も取りたがらない始末だよ」漆黒の帳の降りた夜の空を車窓から見上げて学が言った。
慎介は大亜精鋼の担当がエクイティ部の本山に替えられた事とプライベート・バンクの講座開設の話をいろいろと頭のなかで結びつけようとした。
「慎介!」学が呼ぶ声で慎介ははっと我に帰った。
「あっ、ごめん」慎介は謝ると、大亜精鋼の担当を替えられた時の事を学に話した。
「そうなんだ、大亜精鋼の大澤社長と市田さんの間にきっと何か密約があるんだろうな」学は自分の疑問を口にしたが、それを確かめる術はなかった。
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