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ああ、皆さんお待ちしておりました」本田が言った。
「本田さん、今日は宜しくお願いします」菜緒子が言うと、横で亜実が頭を下げた。
「こちらさんは?」亜実の方を向いて本田が訊いた。
「あっ、すいません。私の同僚の湯川亜実です」菜緒子は亜実を本田に紹介した。
「湯川です。はじめまして、宜しくお願いします」亜実は名刺を差し出して自己紹介した。
「ああ、本田です。こちらこそ宜しくお願いします」本田はズボンのお尻のポケットからパンパンに膨らんだ財布を取り出すと、角が擦り切れかかった名刺を1枚取り出して亜実に手渡たした。
「もうすぐ、広告代理店の方もお見えになりますんで」本田はそう言うと2人を会議室へ案内した。
3人は債券発行の今後のスケジュールを確認すると、今後の準備作業の詳細を一つ一つ丁寧に検討した。しばらくして、大亜精鋼の受け付けの女性が広告代理店のスタッフを2人を案内してきた。
「メディア・アートの方がおみえになりました」業界風のダブルの背広を着た中年の男性とタイトなスーツに身を包んだ若い女性が入ってきた。
「遅くなりました」男のほうが言った。一緒にきた女性は軽くお辞儀をした。
本田が菜緒子と亜実を2人に紹介した。
女性のほうが菜緒子を見て、目を見張った。菜緒子も自分の目を疑った。
「由右子じゃない。どうしたの」
「お姉ちゃんこそ!」
本田が2人の顔をそれぞれに見て戸惑った表情になって菜緒子に訊いた。
「お2人はお知合いですか?」
「ええ、妹です」菜緒子が言った。
「まあ、えらい偶然ですな。飯野さん姉妹に手伝どうてもろて、私も心強いですわ」本田がやや興奮した顔になって言った。
菜緒子は亜実を由右子とその上司と思しき男性に紹介した。その後一同は英文のアニュアル・レポートの構成について1ページごとに検討をした。最後の64ページ目が終わった時には午後8時を回わっていた。
きりの好い所で仕事を切り上げると、本田に礼を述べて大亜精鋼から出た。タクシーを拾うのに、4人ならんで大通りまで歩いた。由右子の連れの上司は約束があったらしく、断わってそそくさとタクシーに乗って行ってしまった。
「由右子、あんたこれからどうするの」菜緒子が訊いた。
「もう、帰って寝るだけよ」
「食事でもしていかない。亜実も一緒にどう?」菜緒子は2人に向かって言った。
「いいわね。奢ってくれるの」由右子が訊いた。
「もちろん、割勘よ」菜緒子はきっぱり言った。
「私もいいけど、会社にはどう連絡する?」亜実が心配そうに訊いた。
「大亜精鋼のアニュアル・レポートの件で今夜は今から代理店と会議を持つので、戻らないって連絡しとけばいいわよ。本山の奴、今、大亜精鋼さまさまだからね」菜緒子の話は説得力があった。
3人は日本の大手ガス会社が所有する豪華なビルの上層階にあるホテルのレストランで夕食をした。
グラスの白ワインを注文した後で、由右子が口火を切った。
「仕事いつも、そんなに遅いの?」
「最近はそうね、上司に馬鹿な奴等がやって来たからね」菜緒子が眉間に皺を寄せて応えた。横に座っていた亜実が無言のまま頷いていた。
「まあ、でもお姉ちゃんのところはお給料が破格に高いから仕方ないわよね。うちなんか本当に安月給もいいとこよ」由右子がぼやいた。
「あんたも、MBAまで持っているんだから、何処か外資系の金融機関で働けばいいのよ」菜緒子は妹に向って説教がましく言った。
「まあ、私はお姉ちゃんとは違って、自由が好きなの。お金の為にそんなに束縛されるのはまっぴらごめんなのよ」由右子が反論に転じた。
「失礼しちゃうわね。それじゃまるで私たちが守銭奴みたいじゃないの。ねえ、亜実」菜緒子は亜実の方に振った。
「でもまあ、その通りなんだから仕方ないんじゃない」亜実が言った。
「亜実まで、何よ。もう」菜緒子が膨れっ面を作ったのを見て、2人がくすくすと顔を見合わせて笑った。
一息つくと、亜実が言葉をとった。
「でも、姉妹で同じ仕事をするなんて、羨ましいわ。私なんて一人っ子だから、兄弟姉妹ってどんなものかピンと来ないのよね」
「亜実さん、実際はそんなに美しい姉妹愛がある訳じゃないんですよ」由右子は菜緒子のほうをちらっと見て意味深に言った。
「由右子、あんたも大亜精鋼の担当してるんだったら前もって連絡しなさいよね」菜緒子が不満顔になった。
「あら、お姉ちゃんこそ、何も言ってくれないじゃない」
横で見ていた亜実が心配そうな表情になったのを見て、菜緒子が言った。
「ごめん、亜実、いつもこんな調子だから、別に大した事じゃないの」
「あっ、すいません。亜実さん」由右子も続いて謝った。
料理が運ばれて来ると、3人は暫くの間、最近見た映画の話や、ボーイ・フレンドの事など他愛のない話題に終始した。
 
翌日、エクイティ部では部長の本山とエクイティ・アナリストの中西圭太の間で一悶着があった。
菜緒子は普段よりは遅目の8時40分位にオフィスに着いた。
「おはよう」と隣の席の亜実に声をかけると、亜実が擦り寄るように椅子のキャスターを転がして近づいてきて、ガラス張りの会議室の方を指さして、目配せした。会議室の中では本山と中西が何やら真剣な顔付きで口論している。中西もかなり憤慨している様子だ。ドアが固く閉ざされ、2人の声こそ聞こえないが、明らかに2人が言い争っているのが分かった。
「中西、このレポートは何だ。大亜精鋼の株は『買い推奨』にしろって言っただろう。なんだこの『中立』ってのは」本山が凄んだ。
「本山さん、でもこれは先日先方の本田部長から頂いた決算のデータに基づくものです。今後の業績予想をかなり強気のシナリオにしても『買い推奨』を出すのは無理です。まして、連結の数字がかなり不透明なので、判断しかねるファクターが多すぎます」中西が言い張った。そんな中西を脅迫する様に本山が追いつめた。
「中西、おまえ誰のお陰でここに転職出来たと思っているんだ。全て市田さんの力添えがあってだろう。その市田さんたってのご依頼なんだぞ。おまえって奴はそれを仇で返すのか」
「いえ、とんでもない。雇って頂いた事は大変感謝しています。でも、レポートを改ざんする事は強いては投資家を騙す事に繋がります。もし、そうなればそれは会社全体の名前に傷がつく事になります」
「中西、俺は別におまえの御託を聞く気はさらさらないんだ。指示に従ってもらえないのなら他のアナリストを至急探すまでだ。おまえの所も小さな子供が2人もいるんだろう。家族を路頭に迷わせる気か?」本山は家族の事を持ち出して、中西を脅した。中西は何も返答する事ができなかった。本山は話を終えると憮然とした顔で会議室から出てきた。後に残された中西は会議室の椅子に座ったまま、テーブルに両肘を着くと頭を抱え込んだ。
「中西さん、ずいぶん沈んだ顔をしているわね」亜実が菜緒子の耳元で囁いた。
「本山の奴が中西さんに無理難題を言っているんじゃないかな」菜緒子が憤慨して言った。
「何か今回の大亜精鋼の件は胡散臭い事が多すぎない?」亜実が訊いた。
「本山の奴、市田と連んで裏で2人で何かやっているわよ」菜緒子は疑わしそうな顔をして会議室に1人ぽつんと座ったままの中西に目をやった。両肩が怒りでワナワナと小刻みに震えていた。
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