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5月の第3水曜日に大亜精鋼は1998年3月期の決算を発表した。上場会社のほとんどが減収減益の決算を発表する中、大亜精鋼は微増ながら増収増益を発表したのであった。翌木曜日には大亜精鋼の株は寄り付きから買い一色で、急伸し820円で後場を引けた。
市田は本山に内線で連絡を入れた。
「本山見たか、大亜精鋼の株価!」市田はやや興奮気味だった。
「ええ、遂に800円台まで回復しましたね」
「俺は本当に勝ち馬だな。おまえも勝ち馬に賭けてよかったな。そうだろう?」市田は自慢げに言った。誰が勝ち馬なんだ、下の下の駄馬がよく言うぜ。本山は心の中でそう叫んでいた。
「ええ、まったくその通りですよ。市田さん」本山は心にもないお愛想を言うので精一杯だった。
「まあ、これで大亜精鋼の起債も問題ないな。ところで投資家説明会の準備はどうなっているんだ」市田が訊いた。
「その件はうちの部の飯野と湯川が今、専門の制作会社と詳細をつめています」
「大丈夫だろうな。おまえが責任者なんだからな。失敗は許さんぞ」市田が念を押すように本山に言った。
「それは了解しています」
「それで、例のアナリスト・レポートはどうなっている。中西の奴は協力的になったのか」
「はい、先般、家族の事を持ち出してずいぶん脅かしたんで、漸く奴も観念したようで、今『買い推奨』のレポートを書き始めたようです」
「本山、おまえもずいぶな悪党だな」市田が言った。
「市田さん、そんな事言わないで下さいよ。お人が悪い」
「ああ、悪い悪い、冗談だよ。まあ、とにかくよかった。引き続き宜しく監督してくれ」市田は満足な笑みを浮かべて電話を切った。
 
「はい、ユナイテッド・リバティー、飯野ですが」菜緒子はかかってきた電話をとった。
「あっ、お姉ちゃん?私、由右子」
「なんだ由右子か、何?」菜緒子が訊いた。
「例の大亜精鋼の投資家説明会の時に使うスライドのドラフトが出来てきたんだけど、Eメールでそっちに送っていいかな」由右子はてきぱきと用件を伝えた。
「ええっ、もう出来たの早いわね。それじゃ見せて貰うわ。私と亜実のアドレスにそれぞれ送ってくれない」
「了解、それじゃまた後で…」由右子は用件を言い終えると電話を切ろうとした。
「由右子、ちょっと待って」菜緒子が制して言った。
「何?」
「あんた今晩空いてる?夕飯付き合いなさいよ」菜緒子は由右子を夕食に誘った。
「お姉ちゃんの奢り?」現金な由右子は姉にたかった。
「まあ、仕方ない。いいわよ今日は私の奢りで」溜め息交じりに菜緒子が応えた。
「ラッキー。私イタリアンがいいかな」
「それじゃ、代官山の『トスカーナ』を8時に予約しておくから。遅刻したら割勘にするからね」
「はい。わかりました。7時位には行ってシャンペンでもご馳走になってますので、ご心配無く」由右子は遠慮なく姉の誘いを快諾すると電話を切った。
 
夕刻に本山憲造が例によってまた意味の無い会議を開いた為、菜緒子は妹由右子との約束の時間に遅れてしまった。タクシーをとばして代官山にあるレストランに急いだ。煉瓦が敷き詰められた階段を降りると、イタリア人のウェイターが笑顔で扉を開けて菜緒子を中に通した。テーブルでは由右子が2杯目のスプマンテの入ったグラスを空にしようとしていた。
「ごめん、ごめん」菜緒子は由右子に遅刻を詫びた。
「もう、今宵のスポンサー様がおみえにならないのでこのシャンパン代をどうやって払おうか途方にくれていたところよ」由右子が言った。
先ほどのイタリア人のウェイターが菜緒子に食前酒のオーダーをとりにきた。由右子がもうすでにシャンパンを飲んでいたので、イタリアの白ワイン『ピノ・グリージョ』を注文した。2人はしばらくメニューと睨めっ子をしていると、ウェイターが注文した白ワインをもって現れた。テイスティングの後、彼は慣れた手つきでワインをグラスに注いだ。2人は乾杯をしてから料理を注文した。
「例の大亜精鋼の資料有難う。よく出来ていたわ」菜緒子は妹の仕事振りを誉めた。
「これはお褒めのお言葉を頂戴して、光栄でございます」おどけた調子で由右子が応えた。
「流石、私の妹に生まれただけのことはあるわよ」
「あとは説明会の際の社長のスピーチの原稿を急いで作らないといけないのよ」
「そんなの大亜精鋼のほうで作るんじゃないの」菜緒子が訊いた。
「ううん、あの本田さんが『そんな事やったことないから、よろしゅう頼みますわ』ですって」
「まったく、あの部長さんにも困ったものね。由右子の会社だってその分はただ働きじゃない」
「大丈夫、その分は別途頂く事になっているから。その辺は、本田さんも気前がいいの」
「あらそう。それで原稿は由右子の会社のコンサルティングの人にでもやってもらうの」
「私がこれからやるのよ」由右子は然も当たり前の事のように言った。
「ええっ、あなたがやるの?」菜緒子が驚きを顔にあらわした。
「そうよ、私これでも一応MBAもっているじゃない。だから会社ではコンサルティングの真似事ぐらい出来るだろうっって、うちの部長が決めたのよ」
「じゃ、その分お給料上げてもらわなきゃ」
「でも、普段は適当に好きな事やってて何も文句言われないから。それはそれで居心地がいいのよね」由右子はあまり気にしている風でもなく言った。
「せっかくMBAまでとっているんだから、あなたも何処か金融機関で働きなさいよ」菜緒子が真剣な面持ちで由右子に転職を奨めた。
「お姉ちゃんみたいに朝から晩まで四六時中馬車馬のように働かされるのはちょっと私の性には合わないのよね」
「まったくいつまでも呑気なこと言っているんだから、この子は」
「お姉ちゃん、仕事もいいけど、プライベートの方はどうなの?もういい歳なんだから」こちらの話題のほうが由右子には関心が高いらしく椅子から身を乗り出していた。
「余計なお世話です。お気遣い本当に有難うございます」菜緒子は苦笑しながら応えた。
「でも本当のところどうなの?」由右子は引き下がらなかった。
「あなたもしつこいわね。こう見えてもボーイ・フレンドの1人や2人、不自由していませんよ」
「えっ、誰、誰?私の知っている人?会社の人?」
菜緒子は由右子の執拗な追及にうんざりし始めたが、こうなったらなかなか引かない妹の性格はよく知っていた。菜緒子はあきらめて、慎介と付き合っていることを由右子に教える事にした。
「覚えてる?私がコロンビアの大学院に行っていた時、同じクラスに日本人の男の子がいるっていったじゃない。朝岡慎介。あなたも春休みにニューヨークに遊びに来た時、一緒にミュージカルの『ミス・サイゴン』を見に行ったでしょう。あの人よ。前は別の会社だったけど、合併して今は同じ会社の同僚よ。部署は違うけど」菜緒子は手短に由右子に説明した。
「ああ、あの人。よく気のつくナイス・ガイって感じだったわね。へえ、そうなんだ。それで結婚するの」由右子は遠慮なく質問を投げかけた。
「まだ、そこまではお互いに考えていないわよ。あなたも気が早いんだから」
「だって、お姉ちゃんも思っているほど若くはないのよ」由右子は同情をするように言った。
「悪かったわね。まあ、そのうちに一緒に食事でもしよう。その時、紹介するわ」
「それで、彼の方はお姉ちゃんのことどう思っているの?」
「由右子、今夜はここまで。これ以上は何も答えないわ。次回、一緒に食事をする時までお預けよ」
「なんだ。つまんないの」由右子は膨れっ面をしながら言った。
「じゃ赤ワインでも飲もうっと・・・」
「もう、あんたって子は」菜緒子はそんな妹の態度を微笑ましく思った 。
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