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市田昭雄の陰湿なやり方に耐えてきた槙原であったが、忍耐力も限界に達し、5月末でユナイテッド・リバティーを去ることを決意した。しかしながら、進行中のM&Aの案件を抱えていた為、人一倍責任感の強い槙原は辞表を出すのが延び延びになっていた。6月に入り手がけていた案件の目処もつき、M&A部のスタッフにうまく引き継ぎが出来た事を確認すると、槙原は辞職願を人事部長に提出した。ささやかな抵抗で、槙原は事前に市田には一言も話さなかった。その後、槙原の辞職願の件は人事部長経由で市田に伝えられた。槙原が辞職願を出した当日の夕刻に市田が電話をよこしてきた。
槙原のデスクの上の電話の内線音が鳴った。表示に「ICHIDA」の文字が見えた。槙原はそのまま無視しようとしたが、思い直して受話器をとった。
「市田だが、人事部長から聞いたよ。みずくさいな、君も。一言いってくれればよかったのに。それで次に行く先は決まっているのか?」市田は慇懃に丁重な口調で訊いた。
「ええまあ」槙原は言葉を濁した。いまさら、おまえに何を言えっていうんだ。槙原は心の中で悪態をついた。槙原はすでにメジャーな欧州系のインベストメント・バンクで東京のM&A部門の部長のポジションが内定していた。この貸しはきっちりとビジネスで落とし前つけてやる。槙原は心にそう固く決めていた。
「そうか、それじゃ盛大に送別会をやらんといかんな」市田は嬉しそうに言った。
「いや、本当にもうお構いなく」槙原が応えた。
「槙原君、こういう事はきちんとやらなくちゃいかんよ。飛ぶ鳥、後を濁さずって言うだろう。君の部のスタッフと投資銀行部で仕事上で君に関係のあった奴らを集めて、君の前途を祝してぱっとやるぞ」
「はあ」槙原は市田のことは心底腐った山師なのか、それとも単なる馬鹿なのか判断がつきかねた。
「日時は追って連絡するよ」市田は強引に事を決めると一方的に電話を切った。
この時市田は、その後槙原のチームの即戦力となるメンバーが槙原について行く事を知るよしもなかった。
 
大亜精鋼の転換社債の発行と欧州における投資家説明会の準備は着々と進んでいた。決算発表以降、株価も順調に推移し、6月には900円台に上昇していた。本山に脅されたエクイティ・アナリストの中西圭太は不本意ながら大亜精鋼の「買い推奨」のレポートを捏造したのであった。菜緒子と亜実は大亜精鋼が決算発表をして以降、多忙を極める日々が続いていた。転換社債の発行まで残り僅か1ヶ月しか無いのだ。
その日、本山は関係者を集めて大亜精鋼の件で途中経過を報告させた。会議の出席者は本山をはじめ飯野菜緒子、湯川亜実、中西圭太の計四名であった。
「今日皆さんに集まってもらったのは大亜精鋼の案件の経過報告をしてもらうためです」本山はいつものように部長面を強調して口上を述べてからミーティングを始めた。
「それでは中西君のほうから大亜精鋼のアナリスト・レポートの進行状況を報告して下さい」
中西は自分自信の意に反した事をしているせいか、言葉に詰まりながら話始めた。
「先般公表された本決算の数字をベースに大亜精鋼のレポートを作成しました。これがファースト・ドラフトです」
中西は約50ページ程度のレポートのコピーを各々に配布した。表紙には「買い推奨」の文字が太字でしるされ、まだ原稿の段階であることを意味する「DRAFT」のスタンプが袈裟切りにされた様に斜めに無造作に押されていた。
菜緒子も亜実も自分の目を疑った。たしかに大亜精鋼の業績は回復基調にあったが、「買い」にするだけの材料が無いのは誰の目にも明らかであったからだ。2人は先日本山と中西が口論していた事とこのレポートの関連性について思いを巡らせないではいられなかった。
中西はレポートが各自の手元に行き渡ったのを確認すると、言葉を継いだ。
「今週中には最終チェックをして、来週の頭には完成する予定です」
「わかりました。引き続き宜しく頼みますよ」本山が言った。本山はレポートの出来映えに満足した様子であった。
「飯野さん、投資家説明会のスケジュールのほうはどうなっていますか」本山は質問の矛先を菜緒子に向けた。菜緒子はコピーしてきた予定表を出席者に配ると、予定について簡単に説明を加えた。内容は1週間の日程で投資家説明会をロンドン、パリ、フランクフルト、チューリッヒの順で開催し、最終開催地のチューリッヒで今回予定しているスイス・フラン建転換社債の調印式にのぞむというものであった。スケジュールについて本山が質問を始めた時、会議室のドアが乱暴に開いて、市田昭雄が姿を現した。
「本山、おまえたちがここでミーティングをしているって訊いたんで。俺も入らせてもらうぞ」市田はずかずかと入り込むと、本山の隣に腰を下ろした。本山はかい摘んで今までのミーティングの経過を市田に話した。
「俺は今回、日本を発つところから大澤社長に同行するが、投資家説明会にはうちから誰が参加するんだ」市田が訊いた。
「投資家説明会には専門の通訳を手配してます。現地の細かい手配はうちのそれぞれの支店のスタッフに頼んであります」本山は市田に状況を説明した。
「本山、なんだそれは。それじゃ話にならんよ」市田はやや憤慨した口調で続けた。
「今回、俺達は丁重に大澤社長をもてなさなきゃならんのだ。大切な金づるだからな。日本人が遂行しないで、もし現地で不測の事態が起きたらどうするんだ」市田は本山に対し呆れ顔になった。
「それでは私が同行しましょうか」本山は恐る恐る訊いた。
「駄目だ。おまえさんじゃ役に立たん」市田は言い捨てると菜緒子と亜実の方を向いた。
「おまえ達2人に行ってもらう。飯野、おまえはロンドンとチューリッヒ、湯川、おまえさんはパリとフランクフルトだ。各自、前の週には現地入りして下準備にかかれ。特にホテルなどを説明会の会場として手配している場合、よく連絡の行き違いで問題が発生するからな」市田はかつての自分自身の苦い経験からそのような問題を予め防ぐためにも日本人スタッフを現地に派遣することが必要だと思っていた。市田はエクイティ部の部長である本山の立場など無視していくかの指示を菜緒子と亜実にだした。その横では本山が面白くなさそうに座っって市田の話を聞いていたが、ついに堪りかねた本山は市田に対し反論を試みた。
「市田さん、彼女達の渡航費用までエクイティ部でみる余裕は無いのですが」
そんな本山の反論を真っ向から踏みにじる様に市田が言った。
「そんなものは今回の転換社債のプライシングにのせてしまえばいいんだよ。おまえ何年この商売やっているんだ」
本山は応じる言葉が見つからず、黙りこくってしまった。市田はそんな本山の事など無視してテーブルの端に座っていた中西圭太に向かって言った。
「中西、おまえのレポートに大亜精鋼の将来がかかっているんだからな。宜しく頼むぞ」
中西は市田の問いかけに黙ったまま、ただ頷くだけだった。
ミーティングの結果に1人満足した市田は「あとは宜しく頼んだぞ、本山」と一言いい残すと席を立って会議室を出ようとしたが、一瞬何か思いついたような顔で亜実の方を向いて言った。
「湯川、パリは仕事で行くんだからな。買い物なんかしてる暇はねえぞ」
亜実は一寸むっとしたが思い直して市田に向かって言った。
「パリで買い物するほどお給料頂いてないのでご心配なく」
市田はふっと笑いを浮かべると会議室を後にした。本山だけが釈然としない気持ちのままで会議はお開きとなった。
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