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「市田の奴、単なる馬鹿なオヤジだと思っていたけど、勘だけは冴えてるのね」亜実は昼食の箸を休めて言った。
「何がよ?」菜緒子が訊いた。
「何がって、ほらあいつ私にパリでの買い物の事釘さしてきたでしょう」
「なんだ、そんな事か」菜緒子はアホらしいといった顔をした。
「だいたい、この年頃の女がパリに行って買い物しないわけがないでしょう」亜実の語調には力が込められていた。「それにこのところ毎日残業ばかりで何も買ってないし」
「亜実、でも今回は仕事優先よ」根がまじめな菜緒子は亜実を諌めた。
「わかってます。仕事は仕事できっちりやりますよ。市田の奴、前の週に現地入りしろって言ったでしょう。ということは時間配分はばっちりよ。まあこれも役得役得。ウヒヒヒ。7月のパリと言えばもう大サマー・バーゲンの時期じゃない。これで私も仕事の励みが出来たわ」
「まったくあなったって人は、げんきんよね」菜緒子は呆れ顔で言った。
2人は昼食を終えるとオフィスが入居するビルの1階に最近オープンしたアメリカのコーヒー・チェーン店でお茶を飲む事にした。菜緒子が先に席を取って待っているところに亜実がカフェ・ラテを2つ買って戻ってきた。店内は昼食を終えたOLや外資系の社員と思しきサラリーマンで込み合っていた。
「中西さんの書いた大亜精鋼のレポートどう思った」亜実が訊いてきた。
「正直いって私も驚いているわ。確かに株価は上昇してきているけど「買い推奨」になるほどの材料は無いものね」菜緒子が怪訝そうに応えた。
「中西さん、無理矢理にあのレポート書かされたって感じよね」
「きっと市田に指示された本山が中西さんを脅迫したのよ」菜緒子は断定するように言った。
「でもあのレポートをもとにして投資家説明会をするわけでしょう。場合によっては事実に反するレポートを書いて投資家を混乱させたって事でうちの名前にも傷がつくんじゃないかいしら」亜実は不安そうな顔をした。
「でも、私達が気に病んでもどうなるって問題じゃないから。とにかく私達は言われた事をきちんと期日までに終わらせる事のほうが先決よ。もうあんまり時間も無いしね」
 
慎介達は槙原と親しかったスタッフを集めて送別会を催した。先に市田主催で槙原の送別会があったのだが、市田や番場の手前集まった者達は思う事も口に出来ず宴席を楽しめなかったのだ。だから、今日の会場は人の数も多く、大変賑やかな様相を呈していた。
慎介は槙原のグラスにビールを注ぐと言った。
「槙原さん、ついに出ていっちゃうんですね。あんな奴らの為に残念です」慎介は複雑な気持ちであった。
「市田が手下を山川から連れてきた時からこうなるんじゃないかという予感はあったけどな」
「会社は何故市田の横暴を放置したままにしているんですか」酒もほどよくまわって慎介は熱くなっていた。
「知っていると思うけど奴をスカウトしてきたのはうちの役員でトレーディング部門を統括しているジャック・メイソンなんだ。奴も決して頭の切れるタイプの人間ではないけど、トレーディングでしっかり成績だけはあげている。奴が今の座にいるうちは市田も安泰という事なんだ。もちろんジャック自身は市田がここまで下衆な野郎だとは思ってないだろうが」
話し込んでいる2人の間に清水学がビール瓶を片手にやって来た。学は慎介が槙原と飲みに行く時に何度か誘われて、それがきっかけで槙原がM&Aを手がけたオーナー企業の社長を紹介してもらったりして、公私ともに槙原とは関係があった。
「2人顔付き合わせて、眉間に皺寄せて何難しい話をしているんですか。もっと楽しくぱっといきましょう。今夜は槙原さんの卒業式ですよ」学が言った。
「ああ、そうだったな。学もここに座って一緒に飲もう」槙原は慎介が座っている反対側を指して学に座をすすめた。学が腰を落ち着けると、槙原が訊いた。
「最近、仕事の調子はどう?」
「まあぼちぼちってところですかね。プライベート・バンクも競争が激しくなってきてますからね。槙原さんも是非うちのお客になってくださいよ。僕が担当しますから」
「そうだなあ。俺がプライベート・バンクの客になるには後百年ぐらかかるだろうな」槙原は笑顔で答えた。
「そんなこと無いでしょう。投資銀行部の市田さんだってうちに口座を持たれているぐらいだから」学は言ってから、プライベート・バンカーが顧客の情報を口外する事がご法度であるのを思い出し、自分の軽率な行動を悔やんだ。思い直して、槙原に対し懇願するように言った。
「槙原さん。今の話はここだけという事にしておいて下さいね」学の目は真剣そのものだった。
「学、心配しなくても大丈夫だよ。俺こう見えても口は固いから」槙原が言った。
「それに市田本人が『俺はスイスのプライベート・バンクに口座を持っている』って、このあいだ取引先の役員の前で吹聴していたよ」慎介が言った。
「市田昭雄とプライベート・バンクか、何か臭う組み合わせだな」槙原が思案顔になってポツリと言った。
 
菜緒子は大亜精鋼の件で時間に追われていた。
「もしもし、あっ由右子、私よ」
「なんだお姉ちゃんか。何」
「例の大亜精鋼の説明会のスライドは何時完成するのかしら?」
「来週の頭ぐらいかな、急ぐの」
「そうなの私と亜実2人とも説明会の準備の為に前の週に現地入りすることになったのよ」
「大丈夫よ、あと2週間はあるから。問題はないわ」
「あそう」菜緒子はほっとした。
「それから社長のスピーチの件はどうなっているの」
「ああ、その件なら大亜精鋼の本田部長と話をすすめている最中よ。最終原稿は出来上がっていて最後に大澤社長が目を通す事になっているわ。もう直しは無いでしょうからこれで終わりだと思うんだけど」
「参加する投資家に配布する資料はどうなっているの」菜緒子は矢継ぎ早に訊いた。
「アニュアル・レポートはもうすでに印刷にはいったから来週には出来あがるわ。スライドのほうは完成し次第、配布用の印刷にまわすわ。たぶん2・3日でOKよ。スピーチの原稿は白黒だからそれぞれの開催地でコピーを取ればいいでしょう」
「有難う、助かるわ。相変わらず手際がいいわね」菜緒子は妹を誉めた。
「無駄な事をしたく無いだけよ」
菜緒子はそんな妹を少し誇らしく思い、諭すように言った。
「あんたも真剣に仕事変えたらどう?」
「まあね。でも私は24時間馬車馬のように働く仕事のスタイルが好きになれないのよ」
「まったくもう、あんたって子は」
「ところでこないだ言ってたお姉ちゃんのいい人いつ紹介してくれるの」
「ああそうね、いまは大亜精鋼の件で手が一杯だからこれが終わってからね」
「お姉ちゃん、もったいぶっているんじゃないの」
「そんな事ないわよ。本当に忙しいんだから」
「はいはい、わかりました。あまり仕事の邪魔しちゃ悪いから。ご依頼の件はご指示通りやらせて頂きますので、ご心配なく」
「宜しくお願いね」
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