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慎介は午前6時からのニューヨークとの電話会議のためにその日は早朝から出社していた。会議を終えて、エスプレッソをいれて一息ついていたところに電話の内線音が鳴った。
「はい、朝岡です」
「慎介?俺、学だけと」
「おお学か。早い出社じゃないか」
「今朝は大口のお客とブレック・ファースト・ミーティングがあったんで」
「俺はお決まりのニューヨークとのテレフォン・コンファレンスさ」
「ところで今日お昼空いてる」
「ああ、大丈夫だけど」
「それじゃ12時に隣のホテルの中華で待ってるよ」
「ああ、わかった。何かあるのか」
「いや特別な事はないんだけど。またその時話すよ」学は一方的に電話を切った。
いったい学は何の用があるのだろう。慎介はすっきりしない気分で受話器を戻した。
 
約束の時間に10分ほど遅れてオリエンタル・パシフィック・ホテルの2階にある中華レストランに着くと学が手持ち無沙汰に待っていた。
「遅くなってごめん」慎介は遅刻を詫びた。
「まあ座れよ」
2人は四川風牛肉細切麺を注文し、ウェイトレスがメニューをさげて去ったのを確認してから学が口火を切った。
「俺、実は再来週からヨーロッパに出張なんだ、行く先はモンテカルロなんだ」
「流石、プライベート・バンカー。豪勢だな。俺達なんか海外出張なんて最近はプロジェクト・ファイナンス絡みのアジアがもっぱらだもんな」慎介はひやかした。
「そんなんじゃないんだよ、今回は」学は辺りをキョロキョロと見まわすと、周りに聞こえない様に更に声のトーンを落として続けた。
「ここだけの話なんだけど、今回は大亜精鋼の大澤さんの件で出張するんだ」
「まあ、大澤さんはおまえのところの大得意客だから、ご指名とあれば仕方がないよな」
「それだけなら俺も納得するさ」学は一瞬躊躇った目をしてから先を急いだ。
「実は昨日の事なんだが大澤社長の秘書から電話があって・・・『モンテカルロの宿泊先は市田様と同じ「オテル・ド・パリ」をお取りした方がよろしいでしょうか』って訊かれたんだ」
「えっ、市田だって」
市田がプライベート・バンクに口座を開設した事は本人が酔っ払って吹聴していたから周知の事実ではあったが今回その市田と大亜精鋼の大澤が一緒にモンテカルロに行く事は不自然な感じがしてならなかった。
「でも、今回、大亜精鋼はうち主幹事で転換社債を発行する件で、ヨーロッパに投資家説明会に行く事になっていて、市田も同行する予定になっていたはずだけど」慎介が言った。
「ああ、それだけなら話はわかるさ。だけどな、今回は・・・」学は再度辺りを気にしながらさらに顔を慎介の方に近づけてきた。
「大澤さんはモンテカルロで何だか訳ありの送金をしようとしているんだ。だから俺まで現地に行く事になったんだよ」
慎介は菜緒子が大亜精鋼の件で、ヨーロッパへの出張に発った事を思い出しながら、市田に対する疑惑の念をつのらせた。
「たしかに匂う話だな。市田が裏のある奴だって事は皆知っているにせよ」
「俺も変な事に巻き込まれるのだけは勘弁してほしいよ」
「まあ、俺達には奴の動きを見守る事しか出来ないだろうけど。何かあったら知らせてくれ」
 
「今夜は俺の奢りだ」市田昭雄は上機嫌だった。
行きつけの銀座の『スナック黒バラ』のソファーに踏ん反りかえるように座って目の前の丸い椅子に腰をおろした本山と番場に酒をすすめた。ママの佳代が氷の入ったグラスと新しいシングルモルトのボトルを持って市田の隣に座った。
「市田さん、ご機嫌ね今夜は。何かいいことでもあったの」
「まあな」市田は思わせぶりに片目を閉じてウインクをした。
「本山、今回はおまえもよく頑張った。ボーナスはずむぞ」
「あっ有難うございます」本山はテーブルにその秀でたおでこをぶつけんばかりに頭を下げた。自分に対し絶対服従のそんな本山の姿を満足気に見ながら、市田は次にその矛先を番場に向けた。
「番場、槙原の奴もうまく追い出してやったからおまえもこれで仕事がやりやすくなるだろう」
「ええまあ。ただ・・・」番場は言葉に窮した。
「ただ、何だ?」市田が詰め寄るように訊いた。
「今回、槙原さんが即戦力となる優秀なスタッフを一緒に連れて行かれましたので、早々に新しいスタッフをリクルートしませんと早晩業務に支障をきたします。ですがすぐにそのような人員が補充できるかどうか・・・」番場は抱いている心配事を口に出した。
「おまえは何を心配しているんだ。そんな事、この市田昭雄の人脈をもってすればおちゃのこさいさいよ。おまえが糞している間にそのぐらいの兵隊は俺が集めてきてやるよ」市田は豪語した。
「まあ、市田さん『糞』だなんて下品ね」横で新しい水割りを作っていた佳代がしかめ面で言った。
「おお、すまん、すまん。上品にいかんといかんな。特にママのような美人の前では。番場おまえの所為でママに叱られただろう。おまえからも謝れ」
「すみません」番場は即座に市田の指示に従った。
「あら、他の人の所為にして、市田さん本当に調子いいんだから」佳代は軽く市田の膝を叩いた。
「これはまたママに一本取られたかな」市田は新しく作ってもらった水割りを一啜りすると、大口を開けて笑った。
「来週から1週間ほど東京を留守にするが、おまえ達宜しく頼んだぞ」
「はいっ」2人は姿勢を正して同時に返事した。
「なんだか兵隊さんみたいね」市田に従順な2人を見て佳代が言った。
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