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チューリッヒはスイス第一の都市で、商業の中心として古くから栄えてきた街である。特に金融業はグローバルに資金の集まる大市場の一角として有名である。しかし大都市とは言えチューリッヒ湖畔に集まる商業地区は車で15分も走れば通り抜けてしまい、静かな町並みとそれを囲む緑の山々からは大都市をイメージするものは微塵も感じられない。昔ながらのトラム(路面電車)が街を縦横に走り、時がゆったりと流れる中世の街にタイムスリップしたかのような錯覚さえ覚える佇まいを今もなお残している。中心に位置するチューリッヒ中央駅からチューリッヒ湖に向かって目抜き通りのバンフォフ・シュトラッセ(駅前通り)が1本伸びている。チューリッヒでもっとも賑やかな通りで、路の両側には高級ブランドのブティックやスイス製の時計を売る店が並んでいる。その通りの中程に100メートル四方のパラデプラッツと呼ばれる広場がある。ユナイテッド・リバティーの本店はその広場に面しており、本社屋の外壁は中世から残る荘厳な石彫刻が施されていた。このような古い建物はチューリッヒ市の定める条例により厳しく管理されており、改築はおろか補修に至るまで建物の所有者は当局の認可なしに手がつけられないのである。 従って、メインテナンスにかかる莫大な費用を所有者は負担しなければならなかった。菜緒子達の滞在するホテル『グランド・シュバイツ』もパラデプラッツに面した一角に建っており、ホテルからユナイテッド・リバティーの本店までは広場を横切って徒歩1分ほどの距離であった。
ホテルのロビーのカウチに菜緒子とシュテファン・ボルガーは腰かけて、湯川亜実が現れるのを待っていた。そこへ、時計を気にしながら湯川亜実がメザニン(中二階)からつづく階段を駆け下りてきた。
「ごめんなさい。お待たせして」
「10分遅刻ね。罰として今夜は亜実の奢りかな」
「そんな。ひどいわ」
横で2人の会話を聞いていたシュテファン・ボルガーが苦笑していた。
菜緒子は2人をお互いに紹介した。
「シュテファン・ボルガーです。はじめまして」
「はじめまして、シュテファン、湯川亜実です。電話では何度も話したんだけど、想像してたよりハンサムなんでちょっと緊張してます」
「亜実、そんな事言われると、僕照れちゃいますよ」ボルガーは顔を赤くした。
「亜美だって、思っていたよりもとても素敵なレディーですよ」
2人の会話を聞いていた菜緒子が居たたまれなくなって言った。
「さあ、2人の誉めあいはそれぐらいにして、行きましょう」
3人はホテルを出るとトラムの走るバンフォフ・シュトラッセを北に1ブロック歩いた。そこから左側の小道に入り1つ目の角を右折した所に目的のバーはあった。もともとワイン屋で、地下にワイン・セラーがあり1階がワイン・バーになっていた。その夜も若者達で込み合っていた。バーの一角にはチューリッヒに駐在する日本の金融機関の駐在員のグループが年代物の高いワインを堪能していた。ウェイターに案内されたテーブルに腰を落ち着けると、ボルガーがまずスイスの白ワインを注文した。
「お2人ともお疲れのようなので、まずは白ワインで乾杯しましょう。スイスの白ワインなんですがなかなかいけますよ」ボルガーは運ばれてきた3つのグラスに白ワインをボトルから注いだ。3人はそれぞれのグラスを手にして乾杯した。
「ツンボル(スイス・ドイツ語の乾杯)」
しばらくして白ワインのボトルが空になるとボルガーは濃厚なフレンチ・ワインの赤と何種類かのチーズの盛り合わせを注文した。ワインのグラスを傾けながら3人はいろいろな事を話した。赤ワインのボトルの底が見える頃には亜実は程よく酔いがまわっていた。おもむろに亜実はパリとフランクフルトでいかに市田が傍若無人に振舞ったかを愚痴りはじめた。フェミニストのボルガーはそんな亜実を宥めるように聞き役にまわっていた。
「聞いてる。市田の奴ときたらパリの3つ星のレストランでのディナーの時、食前酒にウェーターに『スーパー・ドライ』注文してんの。ありませんってウェーターに断られると、腹立てちゃって、『無けれゃ買ってこい』って詰め寄ったのよ。本当に私恥ずかしかったわ」亜実はいつになく憤慨していた。
「結局、大澤さんに『フレンチ・レストランじゃビールはあまり置いてませんよ』って言われて何とか市田も納得してその場はなんとか無事取り繕ったんだけど」
「まあまあ、市田さんはビールが飲みたかったんでしょう。ドイツだったらまだよかったんでしょうけどね」
「そのあと『ムーラン・ルージュに行くぞ』ってレストランで大声出しちゃって。私本当に穴があったら入りたかったわ」亜実は思い出しただけでしかめっ面になっていた。
「私、パリじゃなくてよかったわ」菜緒子が亜実をからかって言った。
「何言ってんの。菜緒子ずるいぞ。私がどれだけ恥ずかしかったか、あなたにも是非一度味わってほしいわ」
「遠慮しとくわ」
亜実は相当憤慨してお酒もまわっていたらしく、しばらくするとそのままテーブルにつんのめる様な格好で寝てしまった。
「大丈夫ですか」シュテファン・ボルガーが心配そうに菜緒子に訊いた。
「亜実、かなり我慢してきたみたいね。今夜はもう駄目かも。そろそろお開きにしましょう」
「それじゃホテルまで送って行きますよ」
「助かるわ。有難う、シュテファン」
バーを出ると2人は亜実を真中に支えるようにしてホテルへ歩いて帰った。ホテルの玄関のところでボルガーは2人と別れた。
「シュテファン、明日の投資家説明会は10時からだから、準備の為に9時に会場に行くわ。よろしくね」
「それでは明日9時に」
「おやすみ、シュテファン」
「おやすみなさい、菜緒子」
菜緒子は酔っていい気分の亜実を部屋に詰め込むと、自分の部屋に戻って熱いシャワーを浴びて床についた。
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