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第16章
 
1998年7月モンテカルロ
 
「オテル・ド・パリ」はモンテカルロのなかでも屈指のトップ・クラスのホテルである。約130年以上もまえにヨーロッパの上流階級の社交の場として「オテル・エルミタージュ」と同時期に創業開始された長い伝統を誇るホテルである。ベルエポックの絢爛さを今に伝えるホテルとして多くの人に愛されている。彫刻が施された大理石の柱や、大理石の階段から続くホールには重厚な雰囲気が漂っている。
クロワッサンとカフェ・オレで軽い朝食を済ませると清水学は腕時計を見た。午前8時だった。大澤源太郎との約束の10時までまだ2時間あった。昨晩のうちにホテルのフロントに電話をして、大澤がチェック・インしている事は確認済みだ。学はホテルのプールでひと泳ぎする事にした。学は部屋に戻り水着を取ると屋外のプール・サイドに行った。プールの脇でバスタオルを積み上げていたホテルのスタッフに更衣室のロッカーの鍵を貰うと学は早速水着に着替えた。朝のプールは人っ子一人いなかった。学は貸し切りのようにプールを独り占めにして悠々と泳いだ。しばらくして誰かが泳いでいるのに気付いた。20往復を終えた位でプールの端で休んでいると学の所まで泳いできてその男は言った。
「おはよう、清水君」
学は驚いてゴーグルを付けたその男の顔を真正面から不信な人物でも見るかのように覗った。
「ああ、大澤社長。すみません全く気付きませんでした」
「君との約束の時間までちょっと時間があったからこうして泳いでいるんだよ。この1週間というもの説明会と連日のランチ、ディナーでまったく運動してないからね」
大澤はややせり出したお腹を触りながら言った。
「健康管理も社長さんとしては大切な仕事ですからね」
「全くその通りだよ」大澤は機嫌良く応えた。
「例のファイナンスも無事完了したんですね」
「ああお蔭様で。今回は本当に御社にはお世話になったよ。特に市田さんにはね」
「我が社もグループとして御社のお役に立ててなによりです」
「今後ともお世話になると思うが、宜しく頼むよ。では私はもうひと泳ぎしてくるので、約束の10時に1階のロビーで会おう」大澤はそう言い残すと再びクロールで泳ぎ始めた。学生時代にスポーツをやっていた大澤はがっしりとした体躯を保ち、プールに大波を立てる程の豪快な泳ぎであった。学もその後、20分ほど泳いでプール・サイドに上がったが、大澤は休むことなく依然黙々と泳ぎ続けていた。学は軽く大澤に目礼だけして早々に自室に引き上げていった。
 
学は約束の10分前にはロビーのソファーで大澤が来るのを待った。約束の10時に15分ほど遅れて大澤が市田を連れ立って現れた。
「清水君、おまたせしたかな」大澤が遅刻を詫びた。
大澤の秘書から市田が同じホテルに宿泊する事は聞かされていたが、実際に市田が目の前に現れた事に学は驚きを隠せなかった。
「いえいえ、私も今しがた来たところですから」学はその場を取り繕うように言った。
「今日は市田さんにも同行してもらいますが、よろしいかな」
よろしいも何も大得意客の大澤の希望とあれば答えはおのずと知れていた。
「大澤さん個人のご希望とあれば私共には反対する理由はございません」
大澤はしたり顔で市田の方を見て言った。
「ほらね、何も心配する事はないでしょう。市田さん」
「そのようですね」市田も戸惑いながら相槌を打った。
「それでは出かけましょう」大澤は当惑顔の2人をホテルの玄関へと急き立てた。3人はホテルの車寄せで客待ちのタクシーに乗り込んだ。大澤、学、市田の順で後部座席に腰をおろした。学がシート越しに運転席のドライバーに行く先を流暢なフランス語で告げた。
「プリンセス・キャロライン通りの15番地まで」
「清水君、君はフランス語が出来るのかね。すごいな」横に座っていた市田が誉めた。
「ほんの日常会話程度ですよ」
「それもあって清水君にわざわざモンテカルロくんだりまでご足労願ったのだよ。でもそれだけフランス語が出来れば立派なもんだよ。私なんか英語もままならんのにフランス語なんていったら全くのお手上げだからな」大澤が言った。
「私はどうもあのフランス語のなよっとした響きが好きになれないんですよ」
「市田さん、それは喋れない者のひがみにしか聞こえませんな」
「大澤さん、これはまた手厳しい」
3人を乗せたタクシーはホテルを後にすると海岸沿いの道路に出た。車窓の右側の視野に夏の地中海が迫って来る。車はそのまま西に向かって走った。しばらくすると右にそれて石畳の市街地へと入っていった。
「もうすぐですよ」学は目的の場所が近い事を2人に告げた。
「このあたりはモンテカルロのビジネスの中心地です。と言っても19世紀から残る古い建物が密集しているだけなんですが」
石畳の街路を走るタクシーの車窓からは両脇に古い石造りの町並みが見えた。車は街路を約300メートルほど北上して、突き当たりのロータリーを大きく曲がり右にそれた。そこから50メートルほど行ったところにユナイテッド・リバティーのモンテカルロ支店はあった。その他の海外の支店のように様々な金融ビジネスを営んでいるわけではなく、土地柄、モンテカルロの支店は専ら世界の富裕層を相手にしたプライベート・バンクがその主な業務であった。タクシーを降りると、学は2人をバロック調の石造りの荘厳な正面玄関へ案内した。通リに面した正面玄関をあけるとそこには五段程度の階段があり、その階段を上ったところにガラスの自動扉があった。その扉を抜けると一面大理石のフロアが広がり、正面つきあたりには三基のエレベーターがあった。エレベーターの脇にはフランス外人部隊の傭兵あがりのような見るからに鍛えぬかれた体をした警備員が無言で立っていた。エレベーターに向かって左手にある受付には年配のフランス人女性が座っていた。学は受付の女性に来訪を伝えた。女性は手元のコンピューターの端末で予定の来訪者のリストをチェックして言った。
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