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翌週月曜日の東洋新聞の企業欄に『大亜精鋼、インドネシア子会社が賃金未払い、労働争議へ発展か!』というヘッド・ラインが踊った。記事は大亜精鋼のインドネシア子会社が抱える多額の債務処理に資金をまわした為、工場で働く従業員に給料に資金がまわせなかったという内容であった。記事はジャカルタ発で、東洋新聞の現地駐在員が取材したものであった。記事の最後に東京の大亜精鋼本社の担当者は本件については社内で確認・調査する旨のコメントが載せられていた。この記事を受けて、大亜精鋼の株は寄付きから売られて、先週末の引値の1260円から、1090円まで下落した。
市田はその日は朝からフランスの食品メーカーの社長と日本企業の買収の可能性について意見交換の為のブレック・ファースト・ミーティングがあり、新聞に目を通していなかった。9時半ぐらいに会社に戻ると、大亜精鋼の大澤からの電話のメモが2枚電話の受話器の下に挟まれていた。市田は大澤に電話をしようと受話器を取り、番号を押そうとしたその瞬間、デスクの脇に置いてあるブルームバーグのニュースのヘッド・ラインの1つが点滅し、『大亜精鋼、ストップ安、インドネシア子会社の労働争議勃発か?』
の見だしが市田の目に飛び込んできた。市田は受話器を置くと秘書の川辺真樹を呼んで大亜精鋼に関するニュースを検索してもらった。市田は東洋新聞が報じた一連のニュースを読み終えると、血相を変えて内線で本山に連絡した。本山は電話の主が市田である事を電話の液晶パネルに表示される名前を見て確認すると受話器を取った。
「本山っ」電話が繋がるや否や市田が怒鳴った。
「はっ、何でしょうか?」本山は市田の勢いに圧倒された。
「なにのんきな事言ってるんだ、おまえは。今朝の大亜精鋼の新聞の記事を見たか」
「いえ、何かありましたでしょうか」恐る恐る本山は答えた。本山はその日エクイティー部の朝会が予定よりも長引いた為、朝刊を読んでいなかったのだ。
「馬鹿者」市田の怒りが爆発した。市田は怒りで震えながらも東洋新聞の朝刊に載った大亜精鋼のインドネシア子会社の件を本山に説明した。本山は青ざめた顔で話を聞いた。
「朝から、大澤社長から2度俺に電話が入っている。多分、この件についてだと思う」
市田は続けた。
「おまえが本田さんとジャカルタに行った時、向こうの会計士から今回のようなことが起こる懸念があるような話はなかったのか」
「いえ、特には。とにかく塁損がかなり膨らんでいるという事しか聞いていません。従業員に給料が出せなくなる様な事はおくびにも出されませんでした」
「とにかく、大澤さんと連絡をとってみる。おまえ今日の予定はどうなっている。場合によっては大澤さんの所に一緒に行ってもらうからな」
「ええ、6時のロンドンのエクイティ部との電話会議以外は今日は特別に何も入っていませんから」
「いいご身分だな!スイスの市場が開く前にそれなりの対応を考えるんだ。本山、おまえの方で、今朝の新聞記事の件と株が売られている事について、今回の転換社債の販売を担当したスイス本店のセールスと投資家説明会を手配してくれたヨーロッパの各拠点の担当者にメールを入れておけ」
「了解しました」
「大澤さんの件はまた連絡する」そう言って、市田は一方的に電話を切った。
 
朝から中西圭太の電話は鳴りっぱなしだった。中西の書いた大亜精鋼のアナリスト・レポートと今回のインドネシアの子会社の一件についての問合せであった。中西本人はインドネシアの子会社の累積債務については知らされておらず、中西にとって今回の件は寝耳に水であった。しかしながら、自分の意に反して『買い推奨』を書いた事の後ろめたさから、中西は殺到する問合せに四苦八苦して対応した。中西のレポートを参考にして大亜精鋼の株を購入した大手の生命保険会社の運用担当者はレポートを書くにあたって十分な調査をしてなかったのではないのかと不満を漏らした。また、ある外資系の資産運用会社の外人ポートフォリオ・マネジャーは中西が大亜精鋼と共謀してレポートを捏造したんじゃないかと詰った。
耐え切れなくなった中西は本山に今回の記事を踏まえてレポートの訂正をリリースする事を提案した。
「本山さん、例のレポートを参考に大亜精鋼の株を買った投資家からの問い合わせが殺到してるんですよ。至急なにか手を打たないと」
「しかし、僅か2ヶ月で『買い推奨』を訂正するというのは我が社の信用を傷つけてしまうんじゃないかね」市田と電話で話してから本山の顔色はすぐれなかった。中西も本山の顔に浮かぶ焦りの色を目の当たりにして、事が大変な事になっているのを再確認した。
「だから、僕はあんなレポートを書くのは反対だったんですよ」
本山は中西の剣幕に圧されて、返す言葉がなかった。
「とにかく、大亜精鋼の本田部長は僕が取材した時に子会社の累積債務について適切に開示されませんでしたので、その事はすぐに速報ベースでレポートを作成します」 
「しかし、そんな事をすればうちは大亜精鋼と決別するという事なるんだぞ」本山の不安はピークに達していた。
「本山さん、うちの信用と大亜精鋼とどちらが大事なんですか。少なくとも我々に落ち度がなかったという事については外にむかって説明すべきではありませんか」窮鼠が猫をかむように中西が本山に詰め寄った。
「市田さんとも相談しないと」
「とにかく僕はそうさせてもらいますから」
「そんな勝手な事して、おまえここにいられなくなってもいいのか」本山は中西を脅迫した。
「いずれにせよこれで僕はアナリストとしての信用を失ってしまいましたから」捨て台詞を吐くと中西は本山の部屋をあとした。
 
「ねえねえ、見た今の」亜実が隣の席の菜緒子に話かけてきた。
「ええ、何だか気になるわね」
「あんなに怒っている中西さん見たことないものね」
「そうね。きっと、今朝の大亜精鋼の新聞記事が関係しているのよ。本田さんもインドネシアの子会社のことなんて何も話してくれなかったじゃない」
「そう言えば本山の奴、春頃にシンガポール出張って言って、ジャカルタに行ったじゃない。なんだか本当にきな臭くなってきたわね」
「そうだったわね。本来私達がやるような仕事を急に本田さんと2人でこそこそやってたからね」菜緒子は本山がとった不審な行動を思い出した。
2人が話していると当の本山が突然姿を現した。
「君達、今日の大亜精鋼の新聞記事の件知ってたかね」
「ええ、朝刊は一通り目を通しますから」
「そんな大事な事は1番に報告してくれないと困るじゃないか」憤慨して本山が言った。
「それは申し訳ありません。インドネシアの子会社の件でしたので、本山さんが前から大亜精鋼の本田部長とお話をされていたので、私達逆に本山さんにお聞きしようと思っていたところなんですよ」
逆をつかれて本山は狼狽した。
「いや、僕だって、インドネシアの子会社の件は寝耳に水なんだよ。本田さんも何も言われなかったし」
2人の目に本山の動揺がはっきりと映しだされた。
「市田本部長からの指示で、その新聞記事の件と株が急落している件を今回の転換社債を販売したスイス本店のセールスと説明会を行った各拠点の担当者にメールで報告しておくように言われているんだ。至急、やっておいてくれ」それだけ言い残すとその場を逃げるように本山は去って行った。
2人は本山が自分の部屋に入ったのを見届けると目を見合わせた。
「あいつ相当焦ってたわね」
「きっと市田にかなりひどく叱られたのよ」菜緒子はしたり顔で言った。
「じゃ、亜実いまの件やっといてね」
「えっ何それ、菜緒子ずるいわよ」
「あら、パリで買い物しすぎてクレジット・カードの限度額オーバーしてスイスで人のカード使ったのどこの誰だっけ?」
「だって、エルメスとシャネルで運命の出合いがあったんだから、しょうがないでしょう。買わないわけにはいかなかったのよ」亜実はため息をつくと言った。
「もう、わかったわよ。やればいいんでしょう。やれば」亜実はむくれて、机に向かうとメールを打ち始めた。
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