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「大澤さん、一体どうしたというんですか」市田が切り出した。
「インドネシアの子会社の経理が従業員用の給料を運転資金にまわしてしまい、給料の支払いが遅れてしまう事が2.3度続いたようなんです」
大亜精鋼の役員応接室で大澤は市田と本山を前にして、渋い顔をしていた。
「それでは現地従業員の給料はきちんと支払われているわけですね。何故、今回こんな新聞記事になってしまったのですか」市田は責めるような口調であった。
「東洋新聞のジャカルタの現地駐在員が子会社の労働組合の幹部と通じていて、どうも意図的に今回の記事を出したようなんです」大澤はいい訳をするように状況を説明した。
「先週の金曜日にうちの本田のほうに東京の東洋新聞本社から問い合わせがあって、本田のほうもよく状況がわからず新聞にあるようなコメントをしてしまった次第です」
市田は苛立ちを露わにした。
「大澤さん、いいですか、こんなことから我々が今回転換社債発行の為にいろいろと手がけてきた工作が明るみに出るような事があったら、私達は皆破滅ですよ」
「市田さん、そんな大袈裟な」
「いや、それぐらいの問題に発展する火種になってしまう可能性が大なんです」
「市田さん、それで私にどうしろとおっしゃるんですか」
「とりあえず、大澤さんは現地に飛んでその労働組合の幹部と会って下さい。それから、給料の支払いの遅れは経理部門のミスから発生した事で、今後、そのような事は決して起こらないようにすると明言するのですよ」
「私がこんな事の為にわざわざジャカルタくんだりまで出向くのですか」
「大澤さん、組合がヘソをまげて事が大きくなって、子会社の累積債務の件が明るみに出るような事にはしたくないでしょう。ここは1つ社長直々に組合幹部と話をすれば彼らもそれなりに受け止めて、これ以上事が悪くなる事は無いでしょう」
大澤は納得がいかないそぶりで、しばらくうつむき加減で考えこんでいたが、市田の方を向いて重々しい口調で言った。
「わかりました。市田さんのおおせに従い組合幹部と会う事にします。しかし、これで本当に今回の件を乗り切る事が出来るのでしょうね」
「それは大澤さん。あなたがどのくらいの役者かによります。先ほどから申しております様に、組合幹部と会うというのは一種のポーズなんです。社長がどれだけ現地の従業員の事を考えているかという事をアピールする為の手段なんですよ」
「わかりました。ところで投資家のほうは大丈夫でしょうか」大澤が不安そうに訊いた。
「御社のレポートを書きました弊社のアナリストの中西のところにも機関投資家から引っ切り無しに問合せが来ています」本山が今朝からの様子を伝えた。
「こちらのほうは私のほうで何とか収めますから、大澤さんはとにかくインドネシア現地のほうをうまく処理して下さい」
「ええ、それでは私は明日の便でジャカルタに向かう事にします」 
 
大亜精鋼からの帰りの車の中で本山は今朝の中西圭太とのやり取りを市田に報告した。
「馬鹿野郎、おまえはアナリスト一人手なずけられないのか」
「すみません。しかし、中西の奴も捨て身になってますから、かえって、手がつけられないのですよ。これ以上強引に強要すると、奴は洗いざらい今回の件についてリークする事だって考えられますよ」
「飼い犬がご主人様に牙を剥くのか?」
「ただ、その可能性があると言っているだけです」本山は伏目がちに言った。
「中西は今回の件でアナリストとしての自分への信頼は失墜したと思っています。このままだとうちを辞めていくかもしれませんね」
しばらく市田は考えこんでから、おもむろに口を開いた。
「中西の奴、このまま放っておくとはやばいぞ。何とかしないと」
「なんとかしないとって、どうするおつもりなんですか」
「何としても奴をうちに引き止めることが肝心だ。自暴自棄になった奴なんて何をしでかすかわからないからな。奴を俺達の目の届くところにおいて置くんだ」
「でも、一体どうやって」
「奴はたぶんここを辞めて他の会社に移る気だろう」
「ええ」本山はそれは最初から自分が言っている事ではないかと思いながら市田の意見を傾聴した。
「本山、システムの責任者に頼んで、今後中西のEメールを徹底的にチェックしろ。それから電話もな」
「それじゃまるで検閲じゃないですか」本山は驚きを隠せなかった。
「その通りだ。奴が話している転職先がわかったら俺達のネット・ワークを駆使して、奴の転職を阻止するんだ」
本山は震かんするような何かが背筋を走るのを感じながら目の前にいる市田を呆然と見ていた。
 
「由右子ったら遅いわね」菜緒子が腕時計を見ながら文句を言った。
「まあ、もう1杯シャンパンでも飲みながらゆっくり待とうよ」
「あの子が慎介に会いたいって言うからわざわざ時間を作ったのに」
慎介は先ほどから目の前の席に座っている菜緒子がいつもと打って変わってナーバスになっているのに気付いていた。その時、長身で細身の青い目をしたイタリア人のウェイターが由右子をテーブルまで案内してきた。こちらに向かってゆっくりと歩いてくる由右子は遠目に見るとはっとするほど菜緒子に似ていた。ただ守護神のように身に纏っているオーラのようなものが違った。
「由右子、30分も遅刻よ。連絡ぐらいしなさいよ」
「ゴメン、ゴメン。今やっているコーヒー会社のキャンペーン用のポスターの撮影が長引いてしまったのよ。クライアントのお偉いさんも立会いだったので抜けるに抜けられなくて」
「あんたが慎介に会いたいって言うから時間作ってもらったのに」
「まあ、まあ、それぐらいにして」慎介が割って入った。由右子は菜緒子の横の開いている席に座ると、
「飯野由右子です。お久しぶりです」
「朝岡慎介です。ニューヨークで会った時と比べると見違えるほど綺麗になったよね」
「慎介さん、それってあの時の私があんまり冴えなかったって事?」
「いやいや、そんな意味じゃなくて、今日久しぶりに会ってとにかく素敵な大人の女性って印象を持ったって事を言いたかったんだよ」
「有難うございます」
「慎介、何気使ってお世辞いっているのよ」横で菜緒子がむくれた。
「いや、僕はただ思った事を口にしたまでで・・・」
「まあまあ、2人ともそのぐらいで」今度は由右子がなだめ役にまわった。
「慎介さん、ふつつかな姉ですが今後とも宜しくお願いしますね」
「由右子、何よそれ、何だか嫁にやる父親みたいじゃない」
「そうよ。お姉ちゃんもいい年なんだから。パパもママも本当に心配しているのよ」
姉妹の間の口論が再発しそうなのを察知して慎介が由右子に話かけた。
「とりあえず何か飲み物でももらったら。シャンパンでもどう」慎介は自分のシャンパンの入ったグラスを指差した。
「あっ、お願いしていいですか」
「もちろん」そう言うと慎介はウェイターにグラスのシャンパンをもう1杯持って来るように頼んだ。
シャンパンで乾杯をしてから、3人はメニューとしばらくにらめっこをした。それぞれ前菜とメイン・ディッシュを注文した。慎介はカラマリ・フリットにグリーン・サラダ添え、メインに子羊のグリル、菜緒子は水蛸とカラスミのサラダに手長エビのグリル、由右子はアスパラガスのチーズ焼きに炭火焼きTボーン・ステーキを選んだ。それから慎介はニュージーランドの白ワイン、『クラウディー・ベイ』のソービニヨン・ブランのボトルを開けてもらった。食事の間、由右子は2人の馴れ初めやニューヨーク時代のことなどをあれこれと訊いた。話にはなが咲き、慎介は途中でもう1本ワインをとった。デザートが出されたころに、ほろ酔いかげんの由右子が慎介に向かって言った。
「慎介さん、姉のこと末永く宜しくお願いしますね」
「この子ったら酔っ払っちゃって、それじゃ私達結婚するみたいじゃない。ねえ慎介」
慎介はそんな菜緒子の目を見ながら、真剣な面持ちで、
「僕の方こそ、末永くお世話になりたいよ、菜緒子」
「やった、それってプロポーズよね」由右子が歓喜の声をあげた。
「由右子、ちゃかさないでよ。慎介もこんな時にずるいわよ」
「でも、お姉ちゃんはどうなのよ」
「まあ、それは私だって慎介とずっと一緒だったらいいと思うわよ」
「それじゃ、もう決まりじゃない。おめでとう」
「有り難う」慎介が言った。
「慎介ったら、もう」菜緒子は嬉しそうに膨れっ面をつくった。
「それじゃ、善は急げよね。パパとママに報告しなきゃ」
「由右子、それはちゃんと私から話すから、それまではフライングはなしよ」菜緒子は妹を諌めた。
「はいはい、わかりました」由右子は叱られた子供の様な顔をしてペロっと舌を出した。
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