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午前8時半、ガルーダ・インドネシア航空880便はジャカルタからの7時間のフライトを終え成田空港の1本しかない滑走路に舞い降りた。大澤源太郎は足早に検疫ゲート、入国審査のカウンターを抜け、手荷物を取ると税関を通り抜けて到着ゲートに向かった。ロビーには会社の運転手が大澤の到着を待っていた。運転手は大澤の手から荷物を取り上げると、第2空港ターミナルの外に止めてある社用車のセルシオの方に大澤を案内した。ジャカルタの子会社の労働組合幹部とのミーティングは円満に終わった。市田の思惑通り、労組の幹部達は社長が直々に現地に赴いて、話し会いの場を設けた事を高く評価した。大澤の説明に彼らも合意して、会談は友好的な雰囲気で終了したのであった。運転手が車のロックをリモート・コントローラーで解錠すると、大澤の為に後部座席のドアを開けた。大澤は車に乗り込むと、右側の座席に置いてあった朝刊の束から東洋新聞を抜き取ると読み始めた。運転手は荷物をトランクに積み込むと静かに車をスタートさせた。しばらくして、大澤の目が企業欄のページのある記事に釘付けになった。大亜精鋼のインドネシアの子会社の件の続報であった。内容は特段新しいものではなかったが、東洋新聞の現地駐在員が先般の記事を労働者階級の貧窮と本邦企業の対応という別のアングルから書いたものであった。東洋新聞についても何か手を打たなくては、大澤は思った。大澤は腕組みをして目を閉じていろいろと考えた末、車に備え付けられた電話の受話器を取ると、短縮ダイヤルの1番を押した。電子音のあと3度ほど呼び出し音がして、秘書が電話に出た。
「おはようございます。社長」
「今、成田に着いたところだ。早速で悪いんだが至急やって貰いたいことがあるのだが」
「はい、何でございますか」
「先代の社長が親しくしていた民友党代議士の桂先生と夕食会をお願いしたいのだ。私自身は面識が無いのだがね」
「桂先生でしたら、よく存知あげております。先代の社長様のお供で2度程、桂先生と秘書の方と4人で食事をした事もありますので。すぐに連絡をとってみます」
「ああ、宜しく頼むよ。場所は先代も贔屓にしていた赤坂の料亭『加賀美』がいい」
亡き先代社長のご加護に縋らなければならない自分の境遇を大澤は恨めしく思った。
「社長、、昨日お電話でお話いたしましたが、本日はこのあと11時半から日比谷のノーブル・ホテルのフレンチ『ラ・フォンティーヌ』で四菱自動車の副社長様とのランチが入ってます。その後は日本鋼業連合の理事会が恵比寿のパシフィック・ホテルで午後2時からになっております」
秘書はテキパキと澱みなく連絡事項を大澤に伝えた。パシフィック・ホテルと言えばユナイテッド・リバティー東京支店の入居するシティ・スクエアに隣接している所ではないか。大澤は突然思い出したように言った。
「その後は何も予定は入っていなかったと思うが」
「はい、社長が理事会の後はそのまま帰宅したいと言われたので何も予定は入れておりません」
「すまんが、ユナイテッド・リバティーの市田さんに、そうだな4時半のアポイントメントをとってくれないかね。至急の用件だと言ってくれ」
「かしこまりました」
大澤は受話器をもとに戻すと深くため息をついた。
 
「慎介、大亜精鋼また下がっているよ」横で金融情報の端末を見ていた西野力が言った。例の新聞記事が出てから大亜精鋼の株価は一本調子で下げ続けていた。慎介は西野の肩越しに端末のスクリーンを覗き込んだ。
「もう820円か。例の転換社債を発行してからまで1ヶ月しか経ってないのに、これじゃうちも主幹事責任で投資家からつるし上げられるだろうな。それにトレーディングのほうで抱えたポジションの損失も大きいだろうし」
「市田のおっさんも心なしかここ2・3日苛立っているしさ」
「まあ、無理なファイナンスをやらせたりするからだよ。大亜精鋼の社長といろいろと裏でやっているらしいからな」
「そう言えば、市田の奴、大亜精鋼の仕事の話がまとまってから急に羽振りがよくなったよな。BMWのオープン・カーなんか買ったりして。それに昔の仲間を呼んでは毎晩銀座あたりに繰り出しているって話だぜ」
「エクイティ部の連中に聞いた話だけど、アナリストの中西さんもかなりひどい目にあわされているらしいしな・・・」
「ひどいって?」力が訊いた。
慎介は声のトーンを落とした。
「大きな声じゃ言えないけど、大亜精鋼のアナリスト・レポートの内容を改ざんさせられたらしい、市田と本山にな」
「まさか?」力は驚きを隠せなかった。
「そのまさかなんだよ。あの大亜精鋼に『買い推奨』のレポートを出したんだからね。もちろんそれは中西さんの本意じゃないけどね」
「どうするのかな」力は眉間に皺をよせた。
「とにかく、例の新聞記事がでてから、中西さんの所に電話が殺到しているらしい」
「おお、ついに800円割ったよ。底無し沼だな。慎介」横目に端末の画面を見ていた力が言った。
 
大澤源太郎は日本鋼業連合の理事会を終えて、その足でユナイテッド・リバティー東京支店に向かった。シティ・スクエアのオフィス棟の24階のレセプション目指した。大澤は音をたてずに高速で上昇しつづけるエレベーターの電光表示を神妙な面持ちで見つめた。24階に着くとエレベーター・ホールの右奥にレセプションがあった。くっきりとアイ・ラインをいれて、ショート・ボブの髪を明るい栗色に染めた30歳前後の女性が応対した。席を立つと女は大澤と同じぐらいの背丈で、大澤を案内して白いミニのスカートから伸びたスラリとした足をモンロー・ウォーク風に交互させながら歩いた。大澤は1番大きなボード・ルームに通された。部屋はビルの角に位置し、壁の2面がガラス張りで、大都市東京の1区画がいきなり視界に飛び込んできた。東京タワー、その向こうにレインボー・ブリッジが見えた。はるか遠くには横浜の高層ビル郡がその輪郭を見せていた。大澤は窓際に佇み、しばらく大東京の風景を堪能した。15分ほどして不意に市田が入室してきた。
「大澤さん、お待たせして申し訳ありません」
「いや、私の方こそ無理に時間をとってもらって本当にすみません」
2人は型どおりの挨拶を済ませると早速本題に入った。
「今朝、ジャカルタから戻りました。市田さんの仰せの通り、現地で労組の幹部とミーティングを持ちました。腹を割って私の方針を話し、彼らも私の考え方に賛同してくれましてね。最後には幹部員総勢で私の事を歓迎してくれましたよ」
「それは本当によかった。こんな時は社長としてのポーズをアピールする事が大切ですからね」
「しかし、あの記事がもとで我が社の株価は下落しつづけています。東洋新聞は小出しにいろいろとインドネシアの子会社の事を書いてきますからね。現に今日の朝刊にも続報が掲載される有り様ですよ。このままでは更に売り圧力がかかってくるのではないかと心配してます」
「何か手立てはありませんかね」市田は渋い顔をして腕組みをした。
「実はある筋を使って東洋新聞本社に圧力をかけてみようと思うのですが、市田さんはどう思われますか。今日は是非ご意見をお伺いしたいと思いましてね」
「その筋というと、これですか」市田は人差し指を右頬に上から下に斜めに走らせた。
「いや、そうではなく、政治屋ですよ。まあ、本質はたいして変わりませんがね」
「なるほど、社長がそう言われるからにはどちらかあてがおありになるのですね」
「ええ実は先代が民友党代議士の桂太郎先生と親しくしてましてね、早晩お会いしようと思っております」
市田は頷きながら、
「とにかく何もしないよりはいいでしょう。メディアのアナウンスメント効果ほど恐ろしいものはありませんからね」
「まったくです。それで市田さん、桂さんとの会合にご一緒してもらえませんか」
「私で宜しければ、喜んでお供させて頂きます」
「それではまた日時が決まりましたらお知らせします」
「ところで、大澤さん、今回のジャカルタでの労組幹部との会議が友好に終わった事について何らかのかたちでマスコミに発表されたほうがいいでしょうね。幹部の方たちにも現地でコメントをしてもらうようにしてね。目には目を、歯には歯をですよ」
「わかりました、早速手配させましょう」
大澤は自分に対していろいろと指示をしてくる市田のことを見つめながら、いつかこのハイエナ野郎を切り捨ててやろうと思った。
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