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第18章
 
1998年9月東京
 
市田と本山は会社の会議室に篭って中からドアをロックして密談を交わしていた。
「その後、中西の奴の動きはどうだ」
「市田さんの指示通りシステムの責任者に頼んで中西のEメールと電話をチェックする事を依頼しました。Eメールの検閲は可能でしたが、電話のほうはディーラーの電話で無い限りは録音したりする機能が備え付けられていないと言う事でした」
「それでEメールのほうはどうだったんだ」
「どうも2・3
社のヘッド・ハンターと話をしているような節はあるんです。そのうちの1社は金融業界でも有名な『チェース・アンド・ハント社』でした。知り合いがいるのであたってみたんですが、どのヘッド・ハンターと中西が話しているのか判らないので、それ以上さぐりようが無いのです」
「それじゃ手の打ちようが無いじゃないか」大澤は本山を非難した。
「奴もかなり慎重に動いているようなので、どうしようもありません」
市田はしばらく黙りこんで腕組みをすると目を閉じで考え込んだ。長い沈黙の後に市田が口を開いた。
「本山、ここ2・3週間の中西のスケジュールをすぐもってこい」
「スケジュールですか?わかりました」そう言うと本山は会議室の隅に置いてあった電話から内線でエクイティ部の秘書に頼んで過去2・3週間のアナリストのスケジュールを至急もって来るように頼んだ。
程なくしてドアにノックがしたので本山が出て秘書からスケジュール表が印刷された紙の束を受け取った。
「おまたせしました。市田さん。これがうちのアナリスト全員の過去3週間のスケジュールです」
市田は紙の束を本山の手からひったくるように取り上げると眼鏡をとって目からやや遠ざけるようにしてみた。中西の予定の欄を順を追って見ていった。中西がカバーする会社の名前がいくつかあったが、特段不審なものは見当たらなかった。2ページほどめくったところで市田の目がある1点に釘付けになった。8月25日火曜日、午前9時―東京精鋼、午前11時―グロリア・マテリアル、午後1時―ベアジア、午後3時―大日本鉄鋼、午後5時―帝国鉱業、午後7時―アライド・メタル(夕食)
「奴のスケジュールなんだが、8月25日だけやたらにアポイントメントが入っているな。普段はアナリストはせいぜい午前と午後に1つづつ取材がはいっているようなものなのに、この日だけ朝から立て続けに6つも入っている。この日奴はどこかの会社と一日かけて面接をしたに違いない」
「それはわかりましたが、一体どこの会社でしょう」本山が青ざめた顔で訊いた。
「このあと奴がミーティング・レポートを出しているところはどこか確かめろ」
本山が電話で確認して、東京精鋼、帝国鉱業、アライド・メタルの3社だけのレポートがでている事がわかった。市田は3つの会社を会社四季報で調べてから本山に向って言った。
「東京精鋼と帝国鉱業は虎ノ門に本社がある。アライド・メタルは霞ヶ関ビルのすぐ近くだ。という事は中西がインタビューを受けたと思われる会社はその近辺にあるということだ。その近辺で外資系の証券会社が入っているビルと言えば『アーバン・ヒルズ』と『神谷町グランド・ビル』の2つだ。そのなかでアナリストを雇うような金融機関は、アーバンのフランス系証券会社のバンケ・プリモ・パリか神谷町グランド・ビルに入っている英国系のロイヤル・バンカーズぐらいだ」市田は自分の推理を順を追って説明した。
「市田さんすごいですよ」本山が感嘆の声をあげた。
「このぐらいの事が判らんでどうする。とにかくこの2社にあたりをつけてみよう。ロイヤル・バンカーズのほうは東京支店長を知っているからかまをかけてみよう。本山おまえはプリモ・パリのほうをなんとかあたりをつけてくれ」
「わかりました」
「とにかく奴は今回の件のカラクリについてはいろいろと知りすぎているからな」
 
市田は自分の席に戻ると秘書の川辺真樹を大声で呼んだ。
「川辺!」
「はい今いきます」
「いや、そのままでいい。ロイヤル・バンカーズの東京支店長の小森さんに電話をつないでくれ」
「わかりました」川辺真樹は答えると、背表紙に金融機関と書かれた名刺ホルダーを取り出して、ロイヤル・バンカーズの小森の名刺を取り出して電話をかけた。
しばらくして、市田の机の上の電話機から内線呼出音がした。
「川辺ですが、小森さんとつながってます。このままお話下さい」
「わかった。ごくろう」そう言ってから市田は自分の部屋のガラスの扉を閉めながら電話に出た。
「小森さんですか、ご無沙汰しております」
「市田さんから電話とは、これまた珍しいですな」小森は慇懃な調子で応えた。
「お忙しいですか」
「いやまあボチボチですな。それで今日は何か」小森は先を急いだ。
「いや、実はですね御社のほうで私共のアナリストを引き抜こうとされているとある筋から聞いたもんで」
「私の知る限りではそんな事はありませんよ。市田さん」
「ああそうですか。それならいいんですが。いやもしそうだとしたらうちのほうも対抗手段をこうじなければならないと思っていたところなんで・・・」
「私もその辺のルールは心得てますよ」
「お互いにそのような不文律は遵守したいものですな。いやどうもお忙しいところ邪魔して申し訳無い」
「とんでもない、それでは」そう言って、小森は憎々し気に電話を切った。市田昭雄が業界でもとても執念深く、恨みがましい男である事は知れわたっていた。小森はいままさに検討中の中西圭太の採用を見送らざるを得ないと思った。
 
午前7時、中西圭太は会社に着くとその足で市田の部屋に向った。ガラス張りの個室の中で市田と本山が話をしている光景が目に入った。部屋の前のデスクにいた秘書の川辺真樹が制するのも目に入らない様子で中西はドアを開けて市田の部屋へつかつかと入っていった。
「おう、早いじゃないか」
「市田さん、ひどいじゃありませんか」中西は挨拶など無視していきなり市田にくってかかった。
「一体何がだ?」市田はとぼけ顔で訊いた。
「何がって、僕がロイヤル・バンカーズに転職しようとしているのに横槍を入れたでしょう」
「横槍だか縦槍だか知らねえが、そんな事は全く記憶にないね。なあ、本山」
「ええ、まったく。中西君、朝から挨拶もなしに部屋に乗りこんできて、失礼だよ」
中西圭太は引き下がらなかった。
「ロイヤル・バンカーズの人事の方とヘッド・ハンターの方に聞いたんですよ。僕は・・・。彼らユナイテッド・リバティーと軋轢を起こしたくないから今回の採用は見送りたいと言ってきたんです」
市田は中西を見据えるように睨みつけてから言った。
「それは所謂業界の暗黙のルールってやつだな。それに今の今まで俺たちはおまえさんが転職しようと考えている事さえ知らなかったんだ。何か会社に不満でもあるのか。給料だったら上げてやるぞ」
「いえ、僕はただ市田さんや本山さんの考え方についていけないだけです」中西は右手のこぶしを手の色か変わるほど固く握り締めた。
「おまえ、何もそこまで深刻に考えることないだろう。確かに、今回の大亜精鋼の件では多少無理してもらったけど、その分はちゃんとボーナスで埋め合わせをさせてもよ」市田が諭すように言った。
「お金の問題じゃありません」中西は反論した。
「何、おまえは甘ちゃんな事を言っているんだ。いいかこの業界は狭いんだ。たとえここを抜け出しても同じ様な運命が待ってるぞ。この俺様に逆らう奴にはな」市田は更に声のトーンを落として中西に威圧的に迫った。
「市田さん、あなたって人は・・・」憤りで目じりに熱い液体がこみ上げてきた中西はそれ以上言葉が出てこなかった。
「まあ、時間をやるからじっくり考えることだな」
「失礼します」中西は辛うじて挨拶をすませると足早に市田の部屋から退出した。
「あいつ、大丈夫ですかね」中西の後姿を見送りながら本山が不安そうに言った。
「まあ、これでしばらく俺たちの手元に置いておけるだろう。引き続き、よく監視してろ」
「わかりました」

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