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市田は会議室を出て自分のオフィスに戻った。部屋の前のデスクに座っていた川辺真樹が声をかけた。
「市田さん、顔色が真っ青ですよ。何か熱い飲み物でもご用意しましょうか」
「ああ、頼む。熱いコーヒーにしてくれ。ブラックだ」
ドアを閉めて市田は内線で本山を呼び出した。
「市田だ、今飯野はいるか」
本山はオフィスを見まわして飯野菜緒子の存在を確かめると
「ええ、いますが、電話つなぎましょうか」
「いや、いい急ぎのことでもないから」市田はその場を繕った。
「ところで今日飯野はどんな服装だったけ?」
本山は何故市田がそんな質問をするのか不思議に思いつつ、答えた。
「彼女は今日は白いシャツに黒のパンツですが」
「そうか、飯野に言っておけ、客のところに行く時はスカート着用が常識だってな」
「わかりました」本山は秀でた額に大粒の汗を流しながら返答した。
市田は電話を切ると椅子に座り直して、しばらく天井を見上げて考えこんだ。
川辺真樹がいれたてのブラック・コーヒーを持ってドアをノックするまで、とても長い時間が経過したような気がした。
 
大亜精鋼の役員応接室で大澤源太郎と市田は2人向い合わせに座っていた。大澤は見るからに高そうなイタリア製の革張りのソファーに深く腰を据えて、お気に入りのキューバ産のシガー『コヒーバ』を燻らせていた。市田は大澤の前で神妙な面持ちであった。
「市田さん、今回問題を作ったのはあなたなんですよ。なんとか苦労してここまでやってきたのに」大澤は市田を責めた。
「申し訳ございません。私の不注意からこんな事になってしまって・・・」
「ところで市田さんが見られた女性とは誰だったんですか?」
「私は顔を見たわけではないのですが、その時の後ろ姿と服装からして飯野菜緒子に間違いありません」
「飯野さんねえ、なかなか優秀な人材なのに・・・」
「彼女なら何とでもなりますから、ご心配には及びませんよ」
「市田さんは本当にそうお考えなんですか」大澤は威圧的に言った。
「ええまあ」
「昨日電話で申し上げました様にきっちり処理された方が今後の為には宜しいかと思いますがね」
「しかし、いくら何でもそこまでは」
「市田さん、いいですか彼女があなたが電話で話した事をばらしたらどうなるかわかってますか」
市田は黙って大澤の話を聞いていた。 
「その時は大亜精鋼も破滅です。私は自分の資産の半分以上は海外の銀行にありますから、その時は引責辞任して高飛びしますよ。それに最悪刑事事件にまで発展した場合でも、例のファイナンスはすべて市田さんあなたに任せてそうなったと証言するまでです」
大澤の話を聞いていた市田の顔から見る見る血の気が引いて行った。
「あなたは50代にして前科者です。そんな人間を雇用する奇特な会社はそうは無いでしょうな。市田さん、マンションのローンもおありでしょうし、残される家族はさぞかし惨めな思いをされるのでしょうね」
「大澤さん、それは脅しですか」
「市田さん、言葉は選んで使わなければいけませんよ。これはあくまでも一つの提案なんです」
「ただし、他に選択支は無いと言うことですか・・・」市田は震えをかみ殺して訊いた。
大澤はそんな市田に対しただ頷くだけであった。
「市田さん、何もあなたが直接手を下すわけではないのですよ。そう怯えないで下さい。本当に私が脅しているみたいじゃないですか」
「でもどうやって?」
「あなたはアリバイをしっかりと作ればいいのですよ。私の知り合いでフィリピンとの貿易を専らやっている奴がいましてね、まあそれはいろいろな物をフィリピンから日本に持ち込んでいるわけですよ」
「その人は一体どういう筋の方なんですか」市田が質問した。
「所謂、裏の世界に通じた人間とだけ申しあげておきましょう。彼によればフィリピンでは100万円も払えば人殺しを請け負う手合いがごまんといるそうですよ」
「フィ、フィリピンですか」
「そうです。例えば、フィリピンに出張中に自動車事故に遭遇といったシナリオならいくらでも書けますよ。その時あなたは東京で働いている。完璧なアリバイですよ。彼への仲介料をいれて200万円ぐらい出せば問題無く事は片付くでしょう」
市田は目の前で話している大澤の言葉が信じられなかった。自分がどんどん抜け出す事のできない底無し沼にはまっていくのを痛感しないではいられなかった。
 
「お姉ちゃん、何だか変よ」コーヒーを飲んでいた由右子が言った。
「えっ、何が」
「なんか心ここにあらずって感じ。何言っても上の空じゃない。慎介さんと一緒になるのが不安なの」
「ううん、そんなんじゃないのよ」
「じゃあ、もっと幸せそうな顔してよ。パパもママも慎介さんと会うのを楽しみにしているんだから」
2人は菜緒子の両親との食事会を10月の週末に予定していた。
「ちょっとこの頃仕事が忙しくてあんまり寝てないのよ」
「お姉ちゃん、寝不足はお肌の大敵なんだから。いつも言っているけどもう若くないんだから労わってあげないと」
「はいはい、わかってます」
「それで2人はいつ頃式を挙げる予定なの」
「まだそこまでは決めてないけど、出来れば2人が初めて会ったニューヨークのコロンビア大学のチャペルで式を挙げようと思っているの」
「ニューヨークか、素敵じゃない。お姉ちゃん幸せになってね」
「ええ、そのつもりよ」
「でも、これでパパもママも今度は私に結婚ってうるさく言い始めるんだろうね」由右子は苦虫を潰したような顔をした。
「由右子の場合はそんな事ないわよ。パパなんてあんたにお嫁にいってほしくないって思っているぐらいだから」
「そうかしら。でも、そうなったら私も1人暮しでもはじめるわ」
菜緒子は自分たちの結婚を手放しで祝福してくれる妹を見て微笑ましく思った。
 
市田はオフィスのデスクで昼間大澤と話した事をあれこれと思い返してはどうしたらよいものかと途方にくれていた。1番の問題はどうやって飯野菜緒子をフィリピンまで出張させるかという事であった。フィリピンの会社の買収の案件は時々あるが、それはM&A部の仕事で菜緒子の所属するエクイティ部の領域ではなかった。市田は昨日から目を通してなかったEメールをチェックした。最新のアナリスト・レポートをはじめ約80通のメールが未読のままになっていた。1つ1つ件名を見ながら要らないものを片っ端から消去してごみ箱に捨てていった。半分ぐらい終わったところで市田の目にハイライトされたある件名がとまった。市田はクリックして本文の内容を見た。フィリピンのビール会社『トルネード社』、以前販売提携の為に取得した日本のビール会社『ドラゴン・ビール社』の株式20パーセントを売却する可能性大。ついては日本のエクイティ部の協力を仰ぎたいという主旨であった。これだと市田は思った。この株式売却のストラクチャリングを飯野菜緒子にやらせよう。早速、市田は子分の本山を電話で呼び出して、菜緒子に担当させる取引の内容を説明した。
「飯野に担当させるんですか、こんな大事な取引を」本山は不満顔になった。
「いや、おれがそう決めたんだからそれでいいんだ」
「市田さんがそこまで言われるのなら」本山も渋々承知した。
「それじゃ俺のほうからフィリピンの事務所に連絡しておくから」
「そんな事だったら私がやりますよ」
「いや、いいんだ。これは俺が返事を書いておくから。飯野1人だと心細いだろうからあの鼻っ柱の強い湯川も一緒につけてやれ。いいな」
「はいわかりました」本山は納得がいかない様子であった。
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