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その後、菜緒子と亜実の2人は着々とトルネード社によるドラゴン・ビール株式売却の提案書を準備する為にユナイテッド・リバティーのフィリピン駐在員事務所のスタッフ、ホセ・ドアンと電話会議を重ねた。2人はドラゴン・ビールの将来の収益性に基づく適正株価をPER20倍の約900円とした。現在の株価1050円と比べると一割強安い価格である。トルネード社のドラゴン・ビールの取得価格は580円で十分にキャピタル・ゲインも享受出来、トルネード社の経営陣も納得する売却価格である。それに発行済み株式総数の約2割を現在の株価ですべて市場で売却するのは不可能である。
2人が会議室でフィリピン事務所のホセ・ドアンと電話会議をしているところへ本山も同席していた。
「900円なんて価格にトルネード社は同意するのかな」本山が水をさした。
「本山さん、トルネード社のドラゴン・ビール株の取得価格は580円です。これだけでも十分なキャピタル・ゲインです。これだけまとまった株式の売却ですからある程度の割引は当然でしょう。菜緒子と亜実のだした評価額で十分に説明はつくと思いますよ」ホセは自信満々に言った。
「第一、発行済株式の2割を全てマーケットで売りさばくのはドラゴン・ビール株の最近の出来高を見ても不可能なのがわかるはずです」亜実がホセに続いて言った。
「それにあまり極端な割引で取引をすれば、当局から指摘される可能性もありますから。通常10パーセント以内であれば、コンプライアンス上もなんの問題もないかと思われます」菜緒子が付け加えた。
「ああ、そうか・・・」上司風を吹かせたものの、本山には反論の余地は無かった。
「それでは来週の木曜日にトルネード社の財務担当役員とミーティングをセットしますから、お2人ともマニラまで来て下さい」
「ええっ、マニラまで」亜実が驚きの声をあげた。
「それじゃ、エクイティの責任者である私が行きましょう」本山が言った。
「本山さんにわざわざ来て頂かなくても宜しいですよ。今回のミーティングの目的は単純明快で、株価のバリュエーションについての説明がトルネード社としても知りたい訳なので、実際にドラゴン・ビール株のばリュエーションをやってくれた二人に来てもらいたいのです」ホセが状況を本山に説明した。
「しかし、ドラゴン・ビールは東京では大切な客の一つであるから、私としてはしかるべき責任者が出席しないといかんと思うのだが。私の一存ではなんとも言えないので、投資銀行本部長の市田さんと相談して決めるよ」のけ者にされた本山は面白くなさそうに応えた。
「それでは菜緒子、亜実、来週マニラで会いましょう」
「またね、ホセ」そう言うと亜実は本山には何も聞かずに電話を切った。
 
菜緒子は前日の徹夜の作業のため、11時30分に出社した。隣の席では亜実がトルネード社へのプレゼンテーションの資料と格闘していた。
「おはよう、亜実」菜緒子は寝ぼけ眼で挨拶した。
「おはよう。疲れ切った顔してるわね。でも、お化粧ぐらいしてきなさいよ女なんだから」
「うん、でも今朝はそんな気力さえなかったのよ」
亜実はコンピューターのキーボードから手を離すとくるりと椅子を回して菜緒子の方を向いた。
「ところで、例のマニラ出張の件、本山と菜緒子、二人が行く事になったのよ」亜実は意地悪そうな笑みを浮かべた。
「嘘でしょう。なんで私が本山と2人で行かなきゃならないの」菜緒子の目は大きく開き、亜実を睨んだ。そんな菜緒子の様子を見て、亜実は噴出してしまった。
「どう、目さめた?」
「あっ、私を騙したわね。もう、朝から悪い冗談はやめてよ」
「あら、もうお昼になりそうなんですけどね」
「それで本当はどうなの」菜緒子が訊いた。
「私とあなたの2人でマニラには行く事になったの。本山の奴、市田のオッサンに相談に行ったらしの。そうしたら、どうも市田に逆にやりこめられたみたいなの。『市田さんが是非君たち2人に行って欲しいといわれたんで私は今回は遠慮させてもらうよ』だって」
「市田がそんな事を・・・」菜緒子の心の中で再び警鐘が鳴り始めた。嫌な予感が菜緒子の脳裏を駆け巡った。菜緒子は自分の席に着くとコンピューターのスイッチを入れてログ・イン・ネームとパスワードを打ち込んだ。縦2列に並ぶ様々なアイコンの中からEメールを選ぶとクリックして、新規作成を選んだ。今、亜実から聞いたマニラ出張の経緯と市田がとった対応について簡単にまとめると自宅のコンピューターのメール・アドレスに送信した。菜緒子はここしばらくの間、同様のEメールを数通何かある毎に自宅に送っていた。送信後は全てのメッセージを完全にコンピューターから消去していた。
「でもマニラじゃデューティ・フリー(免税店)の品揃えもたいした事ないしね」隣の席で亜実がのん気な事を言った。
「まったくあなたって人は、遊びに行くわけじゃないのよ」
「わかってますよ。ちょっと言ってみただけじゃない。でもね、なんでシンガポールや香港じゃないの。それだけでも仕事に対する心構えがかわってくるのに」
菜緒子はそんな亜実を見て苦笑した。
 
「確かにこの200万円はお預かりしましたよ」大澤は市田から200万円の入った茶封筒を受取ながら言った。
「それから仰せの通り、飯野菜緒子の写真を3枚ほど持って来ました」半透明のビニール袋に入った写真を手渡した。大澤は自分の指紋が写真につかない様に注意深く袋から写真の端を指ではさんで取り出し、しげしげと見てから言った。
「綺麗なお嬢さんだ。本来ならエリート社員の見合いの相手に、と言って渡されるべき写真だ。市田さん、あなたさえあんなへまをしなければねえ」
「大澤さん・・・」市田は次の言葉が出てこなかった。
「それで、このお嬢さんはいつマニラに向けて発たれるのかね」
「来週の火曜日の夜に成田から発つ予定です」
「ほう、それでマニラでの滞在先はどちらですか」
「いえ、それは聞いておりませんので、ただ、私どもの事務所はオフィスが密集するマカティ地区ですので、多分その近くのホテルに宿泊すると思います。オフィスに戻って確認してから連絡しますよ」
「マニラは治安も悪く物騒な街です。くれぐれも夜の1人歩きなどされないようにお嬢さんには注意されたほうが宜しいですよ」大澤は意味深な笑みを浮かべた。その時、市田は大澤の真意を悟り、冷たいものが体を駆け抜けて行くのを感じた。
 
火曜日の出発のぎりぎりまで菜緒子と亜実はいつものように時間に追われながら仕事をしていた。その日の朝、2人がプレゼンテーション用の資料の最終チェックをしているところに市田が顔をのぞかせて労いの言葉をかけて行った。菜緒子はそんな市田の態度を不気味に思い、裏に何かあるという気がしてならなかった。2人は東京駅4時発の成田エクスプレスに乗る予定になっていた。時計は午後3時20分をまわろうとしていた。
「亜実そろそろ出ないと飛行機に乗り遅れるわよ」
「そうね、それじゃこの辺で区切りをつけて出ましょう」
プレゼンテーション用の資料をカバンに詰め込むと2人はオフィスを飛び出し、ビルの車寄せで客待ちをしているタクシーに飛乗った。
「東京駅の丸の内口までお願い」菜緒子が叫ぶように言った。
「運転手さん、急いでください。飛行機に乗り遅れそうなの」亜実は懇願するような口調であった。
「頑張ってみますけど、保証は出来ませんよ」
幸いにも道路は混んでおらず、約25分でタクシーはレンガ造りの東京駅の丸の内口に滑りこんだ。支払いを済ますと2人はエレベーターとエスカレーターを乗り継いで地下深いところにある成田エクスプレスの発着するホームに向った。ホームに着いた時に駅の時計はまさに午後4時にならんとしていた。発車のアナウンスとベルが鳴り始めた。2人は最も近くの車両のドアから列車に乗り込んだ。その直後にドアが閉まり列車はゆっくりと動き出した。
「ぎりぎりセーフだったわね。毎度の事だけどハラハラするわ」
「もうちょっと優雅にいきたいものね」2人は顔を見合わせると不意に可笑しさがこみ上げてきて笑った。
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