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第19章
 
1998年10月マニラ
 
菜緒子と亜実が搭乗する予定であったノース・ウエスト航空27便はサンフランシスコ発東京経由マニラ行きであった。サンフランシスコでの出発が遅れた為、成田到着も1時間ほどおくれ、成田発の時間も予定の午後6時10分から約2時間後の午後8時となった。亜実はここぞとばかりに成田空港の免税店であれこれと化粧品を買いこんだ。そのあと二人はビジネスクラス客専用のラウンジでワインを飲んで時間を潰した。今回はじっくり時間をかけて免税店で買い物が出来た亜実は上機嫌だった。
「たまに飛行機が遅れるってのもいいわね」亜実はワインを啜りながら言った。
「そうね。いつもバタバタで余裕がないからね」
「でも、今回本当に本山が一緒じゃなくてよかったわ。考えたでも反吐が出そう」亜美は嘔吐する真似をした。
「やあね、亜実ったら。お行儀悪い」
「すみません。でもそれだけ嫌だってことが言いたかったのよ」
2人のグラスが空になっているのに気付くと亜実がもう1杯やりましょうと菜緒子のグラスも取ってバー・カウンターの方へ行った。その隙に菜緒子は携帯電話をバッグから取り出すと急いで慎介の会社の番号に電話した。しばらく呼出音がして留守番電話のボイス・メールのシステムが作動し始めた。手短に出張に発つ事をメッセージに残して電話を切った。
「おまたせ、今度はカリフォルニア、ナパ・バレーの白でございます」亜実が茶目っ気たっぷり振舞った。
「あらいいんじゃない」菜緒子は亜実の片方の手からグラスを取った。
「それじゃ、仕事の成功を祈って乾杯しましょう」
2人は黄金色に光る液体の入ったグラスを軽く持ち上げて、その淵を軽くぶつけ合って乾杯した。
しばらく2人は座っているソファーとバー・カウンターを交互に行き来した。ワインの酔いが程よくまわってまぶたが重くなった頃、搭乗の案内があった。
 
成田からフィリピンのマニラまで4時間45分のフライト時間であった。慢性化している睡眠不足と成田空港のラウンジで飲んだワインの酔いのおかげで2人は飛行中貪るように寝てしまった。
「すみません」誰かが自分の肩を軽く叩いていた。菜緒子は自分が今飛行機に乗っている事を思い出すのにしばらくかかった。重い瞼を押し上げると、フライト・アテンダントが菜緒子の横の通路に立って自分のことを見下ろしていた。
「お客様、まもなく到着でございます。シートをもとの位置にもどしていただけますか。お隣の方も、お願いします」
「あっ、わかりました」我に返って菜緒子は言った。自分のシートを元の位置にもどすと、菜緒子は隣の窓側の席で寝ている亜実の頬をかるく叩いて起こした。
「亜実、起きて。そろそろ着くわよ」
「えっ、もうマニラなの、さっき成田を発ったばかりじゃない」眠そうに目を擦りながら、亜実も自分のシートを元の位置にもどした。
 
飛行機は午前1時にマニラの国際空港に到着した。お決まりの入国審査を終え、手荷物を受け取ると、税関を抜け外の到着ホールに出た。空港の到着ホールは出迎えの人でごったがえしていた。 そのほとんどが日本で働いていて、久しぶりに帰省する兄弟・姉妹、息子、知人等を待っている人達のようであった。2人は日本円3万円をフィリピン・ペソに両替し、タクシー乗り場に向った。乗り場に辿り着くまでの間、しろタクと思しきローカルの男たちに『タクシー』『タクシー』としつこく勧誘された。マニラの治安の悪さは有名で菜緒子は断固として正規のタクシーにしか乗らないと決めていたので、しろタクの勧誘を果敢にくぐり抜けてターミナル・ビルの外でタクシー待ちをする人の列の最後尾に並んだ。ターミナルのビルから外に出た瞬間、熱帯アジアのむっとする湿気と独特の匂いを感じた。5分ぐらいで2人の番が来た。かなり古い型のトヨタ車のタクシーから運転手が降りてきて、2人から荷物を引き取ると後部のトランクに積み込んだ。
タクシーの後部座席に乗り込むと菜緒子は行き先を運転手に告げた。
「マニラ・パシフィック・グランド・ホテルまで」
タクシーの運転手は頷くと車を発信させた。しばらく走ってから運転手が片言の日本語で二人に話しかけてきた。
「ニッポンジン? マニラはじめて、カンコー」
男は知っている日本語の単語を並べて、早口に喋った。最初、亜実は何か訳がわからず、無視していたが、菜緒子が話し相手役をかって出た。
「そうよ。日本人よ。今回仕事できたの。観光はしないわ」
男はあまりわかっていない様子だったので、菜緒子は英語で答えてあげた。
「ビジネスでマニラに来たの。観光じゃないの」
「ビジネス? オーグッド、マネーメイキング」男は親指を上にむけて一本だけ突き出して菜緒子に向って言った。男は悪い奴ではなさそうで、単に自分の事を親日家としてアピールしたいようであった。2人は少しばかりリラックスして肩の力を抜いて、男の話相手をした。
「私の名前、ロドリゲス、あなた名前、何」
「私はナ・オ。コ、彼女はア・ミ」
男は嬉しそうに頷いた。
「あなた、どこで日本語を勉強しましたか?」菜緒子は英語で訊いた。
「私、日本にいたことある。スガモ、コマゴメ、オオツカ、イケブクロ」
男は日本に出稼ぎに行っていたそうである。その時によく乗った山手線の駅名を順に言った。
「この人面白い」亜実が笑って言った。
途中の信号待ちで車が止まった時、亜実が突然悲鳴をあげた。
「キャー」
「どうしたの」菜緒子はびっくりして亜実のほうを見た。亜実は驚愕の顔色で窓の方を指差していた。その指先にはボロを纏った老婆が手を出して、物乞いをしていたのである。片道2車線の両方向で計4車線の交通料の多い道路に突然、老婆が現れて物乞いをしているのである。信号が青に変わると老婆は路肩に戻って行った。多分、また次の赤信号までまって施しを乞うのであろう。
「ダイジョウブ?」運転手が2人に向って言った。
「フィリピン、ビンボー。お金ない人いっぱい、いっぱい」
テレビなどのメディアを通じて、貧富の格差の事情などについてはある程度は聞いていたが、現実を目の当たりにして2人は大きなショックを受けた。
いつの間にか2人を乗せたタクシーは近代的なビルの立ち並ぶ地区に入っていた。街角には東京でも見なれた『スターバックス・コーヒー』や『マクドナルド』等の看板が目に飛びこんできた。見なれた風景を見て2人はほっとした。
「パシフィック・グランド・ホテル、あれです」運転手は3ブロックほど先にある一際目立つ高層ビルを指さした。ビルの壁面に電飾の文字でMANILA PACIFIC GRAND HOTELと記されているのが見えた。まもなくタクシーはホテルの車寄せに止まった。夜勤のドア・マンが運転手から2人の荷物を受け取るとワゴンに乗せた。亜実がタクシー代を払ってレシートを受け取って言った。
「ロドリゲス、楽しかったわ」
「ありがとございます」男は伏目正しく頭を下げると運転席に姿を消した。
「さあ、チェック・インしましょう。もう2時よ」菜緒子は亜実を急かした。
パシフィック・グランド・ホテルは華僑系の資本が主にアジア地区で経営している新興のホテル・チェーンで、その内装の豪華さで話題になっている。マニラは2年前にオープンしたてのまだ新しいホテルで、内装はマラカニアン宮殿をモチーフにしており、白い壁と柱、大理石の床がその荘厳さを物語っている。ロビー・ホールは3階分が吹き抜けになっていて、2階と3階はホールを囲むような形で廊下が配されていた。二階部分の廊下の半分にはコーヒー・ショップのテーブルと椅子が出されていて、あたかも屋外のテラスで寛ぐような気分を演出してくれる。3階部分はぐるりと一周が廊下で、廊下に面して数多くのブランド・ショップが店を構えていた。
菜緒子と亜実はフロントで手早くチェック・インを済ませ、カード・キーを受け取った。2人を部屋に案内する為にベル・ボーイが呼ばれた。ボーイは2人をエレベーターまで案内すると中に乗りこんで菜緒子にチェック・インの時に受け取ったカード・キーを50個あるボタンの下にある指しこみ口に入れるよう指示した。午後10時から翌朝の6時まではカード・キーが無いとエレベーターで客室まで上がる事が出来ないようなセキュリティのシステムになっているようであった。菜緒子がカードを指しこむとボーイは45階のボタンを押した、エレベーターのドアは静かに閉まりやや鈍い音を立てながら上っていった。
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