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その男は菜緒子たちがエレベーターに乗りこむのを確認してから、廊下の柱の陰から出て来た。男の手には菜緒子の写真が数葉握られていた。男はさりげなくエレベーター・ホールまで行って向いあわせに4基づつならんだ計八つのエレベーターのドアを見まわし、先ほど菜緒子たちが乗ったエレベーターの前で立ち止まった。ドアの上にある電光の表示を見上げると45となっていた。45階か、男はその数字を目に焼き付けた。その時、男の丁度背中側のエレベーターのドアが開き、別のボーイが降りてきた。時刻は午前2時をまわっており、エレベーター・ホールに立ちつくす男を不審に思ってボーイは声をかけた。
「お客様、どうかされましたか」
ボーイの声に驚いて振り返った男の右の頬には目尻の横から顎にかけて深い切り傷があった。目は獲物を
狙う鷹のような鋭い光を放っていた。男の容貌に圧倒されてしまいボーイは恐る恐る質問を繰り返した。
「お客さま、お部屋の鍵でも無くされたのでしょうか」
男のほうも予期せぬ事態にやや驚いたが、クールに言った。
「今夜、ここの最上階のバーで取引先と一杯やって、どうもその時に大事な書類を忘れてきてしまったらしいんだ」男は我ながらなかなかうまい嘘をついたと思った。
「さようで、バーのほうは午前1時で閉店しております。宜しければフロントの方でお伺いしますが」
「いや、ひょっとしたら取引先の人が持っていったのかもしれないから、確認してからまた連絡させてもらうよ」
「わかりました。私の方も明朝、係りの者にそのような落し物が無かったどうか確認するように言っておきますので、よろしかったらお電話番号だけでも」
「いや、私のほうから連絡するから大丈夫だ」そう言うと男は足早にホールを横切って正面玄関の方に歩いて行った。ホテルから出て1ブロック北に歩いたところに黒のクーペが1台止まっていた。男は電子ロックをリモート・コントローラーで解除すると運転席に乗り込み、ダッシュ・ボードからノキアの携帯電話を取り出すと短縮ダイアルであるところに電話をかけた。しばらくの呼出音がして相手が出た。
「ボス、ゴメスです。遅くなってすみません」
「大丈夫だ、気にするな。俺の大切なクライアントからの依頼だ」
「ターゲットの女はたった今、パシフィック・グランドホテルにチェック・インしました」
「ひとりか」
「いえ、仕事仲間と思われる同世代の女と2人です」
「そうか、やり方はおまえに任せる。しかし、失敗だけは許されないからな」
「ええ、それは了解しております」
「検討を祈る、ゴメス。今夜はもう休め」
「おやすみなさい、ボス」男は携帯電話を切ると助手席の上に放り投げた。
 
翌日の朝、ユナイテッド・リバティーのフィリピン事務所のホセ・ドアンは約束の時間の9時に2人を迎えにパシフィック・グランド・ホテルのロビーに姿を現した。ホセは長身の体躯にバレンチノのスーツを身に纏い、ファッション・モデルと言われても誰も疑わないような容貌であった。曽祖父はスペイン人の商人でフィリピンに赴任してそのままフィリピン人の女性と結婚してこの地に居着いたのだった。ホセはその為かどこと無く彫りがふかく西洋人の雰囲気を持っていた。ロビーのソファーに座って菜緒子と亜実はホセの到着を待っていた。ホセはソファーに座っているスーツ姿の2人を見つけると近づいていって声をかけた。
「菜緒子、亜実、フィリピン事務所のホセです」
2人はソファーから立ちあがって、ホセにそれぞれ挨拶をした。
「それでは、うちのオフィスに行きましょう」ホセは2人を玄関のほうへ促した。ホセはホテルのドアマンに向って何かタガログ語で話し掛けた。ドア・マンは無線機に向って一言、二言喋った。すると1・2分でホテルのバレットがBMWのオープン・カーを運転して車寄せに着けた。ホセはフィリピン・ペソ紙幣をバレットに手渡すと後部座席を空けて2人を車に乗せた。ホセは運転席に乗りこむとタイヤを軋ませながら表通りに向って走りだした。ホセは眩しい太陽の光を避けるために片手で背広の内ポケットからアルマーニのサングラスを取り出してかけた。
「オフィスまでここから15分ぐらいです」ホセは説明した。
「ねえ、ホセこのオープン・カーあなたのものなの」亜実が興味津々に訊いた。
「ええ、そうですよ。厳密に言えば、私の父のものですが」
「日本でも最高級車なのに、あなたも相当稼いでいるのね」
「亜実さん、それは誤解ですよ。僕の給料は皆さんと同じくらいですよ。実は私の祖父はフィリピンでサトウキビのプランテーションで大儲けしましてね、その後精糖事業は衰退したのですが、その後、祖父が蓄えた資本を投入して父がエビやウナギの養殖をはじめまして、それが日本の商社に目をつけられて事業は急速に拡大し、いつの間にかフィリピンで最大手の水産養殖・加工会社になったんですよ。今は一番上の兄が社長を継いでますがね」ホセは事も無げに言った。
「と言うことは、ホセって大富豪のお坊ちゃまてわけね。きゃー、そういう展開って大好きよ。宜しくね」亜実は両手を組んでお祈りをするようなポーズで言った。
「からかわないで下さいよ、亜実さん。僕はそんなんじゃありませんから」
ホセは突然車のスピードを上げたかと思うと次の瞬間思いきり減速した。ホセはバック・ミラーをちらちらと見ながら2人に言った。
「お2人はここマニラにどなたか知り合いでもいらっしゃるのですか」
「まさか、私も亜実もマニラに来たのは今回がはじめてなのよ。でもどうしてそんな事訊くの」
「いや、私の思い過ごしかも知れませんが、ホテルを出た時から後ろを走っている黒のクーペがぴったりくっついて来るんです」
菜緒子はその時今まで抱えてきた不安が急に大波となって押し寄せて来るのを感じた。
「何かの間違いじゃないの」
「ええ多分そうだと思いますが、念の為にちょっと止まってみます」そう言うとホセは車を道路脇に寄せてとめた。後ろから走ってきていた黒のクーペはホセのBMWの横を通り抜けて菜緒子たちからどんどん遠ざかっていった。流石に運転席の人間の顔は見えなかった。
「どうも僕の勘違いだったようですね」そう言ってホセは再び車を走らせた。オフィスの入居するビルに到着するとホセは地下の駐車場に車をいれた。車を降りると地下のエレベーターから1階のエントランス・ホールにあがった。
「1階でエレベーターを乗り換えなければならないんですよ。セキュリティーがうるさくてね」ホセは2人にいい訳する様に説明した。1階のエントランス・ホールの中央にある大理石のカウンターの中に座っている年配のセキュリティー・ガードにホセは手を上げて挨拶をした。男が手を上げて、ホセの挨拶に応じるとどうぞというしぐさで3人を通した。ホセ達はエレベーターに乗るとオフィスのある25階まで上がった。オフィスはモダンなインテリアで統一されていた。フィリピン事務所は小所帯で、従業員は事務所長のドミンゲス・アルメロ、秘書のマリア・コルデス、アシスタントのジュリー・オルテガとホセの計四人だった。ホセはカード・キーをパネルにあててドアを解錠すると2人を中に通した。オフィスではマリアとジュリーがデスクに座って仕事をしていた。その向こう側に所長のドミンゲスの部屋とその隣にホセの部屋があった。ホセは菜緒子と亜実を2人に紹介した。
「マリア、今日は所長は」
「アルメロさんは今日は朝からアジア開発銀行の幹部の方とのミーティングで、その足で日本の商社と米国の電力会社の方たちとミンダナオ島のあたらしい発電所の建設現場の視察に行かれる予定です」
「そうすると戻りは金曜日かな」
「ええ、多分そのくらいになると思います。現地のホテルをとりあえず2泊分とってますから」
「わかった」ホセはそう言ってからジュリーの方を向いた。
「ジュリー、2人が作業できるように会議室を1つ使わせてもらってもいいかな」
「ええ、そのつもりで昨日のうちからすべて準備してあります」
「君は本当に偉大だよ」ホセが最上級の美辞麗句で誉めた。
「まったくいつものようにお上手だこと」ジュリーは言ってから菜緒子と亜実の方を向いた。
「2人ともこの男には気をつけなさいよ。奥さんに2歳と4歳の男の子がいるんだからね」
「えっ、嘘でしょう」亜実は失望の色を隠せなかった。
「ジュリー、何もそんな事は言わなくてもいいでしょう」
「ただ、私は純粋な日本の女性を悲しませないように言っているだけよ」
「そいつは親切な事で・・・。菜緒子、亜実さあ会議室へ行きましょう。早速打ち合わせをしましょう。ジュリーも一緒に出てよ」
「O.K」ジュリーは会議用のノートを脇に抱えて3人の後に続いて会議室に入ってきた。会議室からはマニラの町全体が見渡せた。町の端を縫うようにマリン・ドライブが走っていて、その向こうには鏡のように太陽の光を受けて反射するマニラ湾が横たわっていて、数多くの外国籍の船が行き来していた。
3時間ほどぶっ通しで4人はミーティングをしてから、明日のトルネード社へのプレゼンテーションの内容を吟味した。資料は菜緒子と亜実が東京で作ったものをほぼそのままの形で使うことで全員が同意し、ミーティングの締めくくりとなるまとめの部分を午後に話し合うことにして4人は昼食をとるために外に出た。

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