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4人はオフィスのビルの裏にある2階だての昔からの面影を残すレンガと白壁の家屋を改造したイタリアン・レストランに行った。まわりはほとんど開発され高層ビルになっているのに、そこだけが地上げからとり残された一角のようでレストランの敷地内には樹齢百年はゆうに越えるような巨大なガジュマロの樹が外のテラスに心地良い木陰をつくり出していた。4人は外のテラスで昼食を取った。ホセがしきりにワインを勧めたが、菜緒子も亜実も午後の作業を終えてから飲むことにしようとホセの申し出をやんわりと断った。
ゴメスはビルから4人が出て来た時からやや距離を置いて尾行していた。4人がイタリアン・レストランの外のテラスに座ったのを確かめてから、ゴメスはそのレストランに客を装って入った。ウェイターに頼んで菜緒子達が座った外の席から話が聞こえるぐらいのところにあった席を確保すると差し出されたメニューに目もくれず、スパゲッティ・カルボナーラとミネラル・ウォーターを注文した。さりげなく新聞をひろげて読み始めた。
「とりあえず、明日の私達のプレゼンテーションでこのディールがとれるかどうかが決まる訳だから緊張するわよ」菜緒子が言った。
「菜緒子、そんなに気張らないほうがいいよ。出来る時は出来るし、駄目な時は駄目なんだから」ホセは相変わらず呑気に自分の道を行くというタイプのようだ。
「明日のトルネード社とのミーティングは午後2時からでしょう。明日の最終便で東京に戻れるかな」亜実が訊いた。
「無理ですね。東京行きの最終便はフィリピン航空でマニラ発が午後3時10分ですから」
ジュリーが説明した。
「そうか、だめか」亜実はがっかりした顔で肩をおとした。
「ああ、さては明日の夜に合コンがあるんだな」菜緒子が冷やかした。
「そんなんじゃないわよ。ちょっと学生の時の友達と集まる会があるだけよ」
「そこにお目当ての人がいるような感じなのね」
「まあ、なんて言うのか。さっ、食べましょう」亜実は話題を変えるのにやや躍起になっていた。
「それじゃ、金曜日の午後ぐらいの便で帰りましょう。成田についてからオフィスに戻るのなんて嫌でしょう?」
「それじゃ、明日の夜は皆でパーっといきましょう」ホセが言った。
「賛成!」亜実が嬉しそうに言って菜緒子の顔を見た。
「そうね、たまには羽でも伸ばさないとやっていけないわよね」
「ジュリー、君も一緒に行くだろう」
「もちろん、あなたがはめをはずさないよう、監視役がいるでしょう」
「僕は大丈夫だよ。本当に」
「それはあなたがそう思っているだけでしょう」
旗色の悪くなったホセはジュリーの話題からそれるように言った。
「それじゃ、明日の晩はマニラで1番の中華、ホテル・シンハーの「夏宮」で食事をしてから、マニラの繁華街に繰り出しましょう」
「楽しみだわ。その為にも明日のプレゼンは頑張らなきゃ」亜実が言った
近くのテーブルで4人の話を聞いていた男は新聞をたたんで、顔を上げた。その時、男の視線が菜緒子のそれと真っ向からぶつかった。菜緒子は男の右頬の深い傷と何とも言えない陰険な目を見て、急に悪寒がした。男は伏目がちに支払いを済ますと隣のビルの中に姿をくらました。
「菜緒子、どうかしましたか? 誰か知っている人でも見ましたか」ホセが菜緒子の視線の先を突き止めるように目で追ったがそこには既に誰もいなかった。
「ううん、何でもないのよ」
「きっと、東京に残してきたボーイ・フレンドのことを気にしているのよ」亜実が冷やかした。
「茶化さないでよ、亜実」菜緒子が亜実にグラスの水をかけるふりをした。そんな2人の様子をみてホセとジュリーが笑った。
最後にエスプレッソ・コーヒーが運ばれてきた。ホセが食後酒のグラッパでもどうかと提案したが、その案は見事に却下され、4人はオフィスに戻った。
 
その時、ゴメスが乗った黒のクーペが静かに駐車スペースを探すようなそぶりでゆっくりとオフィスに戻る途中の4人の後方で動いていた事に誰も気付かなかった。4人がオフィスビルの中に姿を消したのを確かめてから、ゴメスは車を路肩に駐車すると、携帯電話を取ってボスに連絡を入れた。
「ボス、ゴメスです」
「状況はどうなっている」男はゴメスに先を急がせた。ゴメスは手短に今レストランで盗み聞きした事を説明した。電話の向こうの男はくわえていたフィリピン産の葉巻を灰皿の淵で軽く叩いて3センチ・メートルほどになった灰を振り落とした。
「金曜日の昼までとなると、あまり時間が無いな。どうするつもりなんだ、ゴメス」
「ボス、前回と同じやり方で片付けますよ。先週の内に盗難車を1台用意してますから」
「おう、守備良くやってくれよ。これは東京の上等の客からの依頼だからな」
「ええ、それは心得ております」
「それならいいがな。失敗すればおまえさんがマニラ湾に浮かぶことになるぞ」
そう言うと男は一方的に電話を切った。
 
ゴメスは計画の実行は夜しか出来ないと考えていた。盗難車でターゲットをひき逃げして、そのまま車を乗り捨てて都会の闇に姿をくらまそうと考えていた。但し、昼間から盗難車に乗ってターゲットを尾行する訳にはいかない。いつ何時警察の目に触れるかも知れない。奴らが夜マニラ市内で食事をしてその後ホテルに帰るまでにけりをつけるんだ。レストランで盗み聞きした時、明日の夜、ホテル・シンハーの『夏宮』と言っていたのをゴメスは思いだした。ホテル・シンハーからターゲットの飯野菜緒子の宿泊するパシフィック・グランド・ホテルまでは約500メートルぐらいの距離で、雨さえ降ってなければたぶん2人は歩いて帰るだろう。ゴメスは市街の拡大地図を広げて、いろいろと考えた。ホテル・シンハーの位置する区画とパシフィック・グランド・ホテルのある区画は両方とも南北に伸びる幹線道路の東側に位置し、その2つの区画の間には別の2つの区画がありその1つは公園になっていた。パシフィック・グランドの方がシンハーよりも北側に位置し、西側の幹線道路に面し建てられていた。ホテル・シンハーは1本内側の通り、つまり東側に面して建てられていた。多分、歩いて帰るとなるとシンハーの玄関を出て幹線道路より一本内側の通りをまず北上するであろう。次のブロックはオフィスと一階部分がレストランとブティックという複合施設で、夜でも人通りはまあまああるであろう。その次のブロックが公園で、公園の右側のブロックはオフィス・ビルである。そのままさらに北にあるいていって、公園の区画からパシフィック・グランドのある区画に渡る路を超える時がチャンスだ。東西に走る道路は1つおきに一方通行になっていて、その通りは西方向に走っていた。ここだとゴメスは思った。ここだ、ここしかないゴメスは確信を持って、その地点に赤字で×印を書いた。いや、まてよあの西洋風の面持ちの色男が例のBMWのオープン・カーで彼女をホテルに送っていったらどうなる。そのシナリオは何としても阻止しなければならない。ゴメスはいろいろと考えて、車のトランクから工具箱を取り出して中からカッター・ナイフ手にとって刃を確かめてからシャツのポケットにしまいこんだ。 
次にユナイテッド・リバティーのフィリピン事務所の入居するビルにどうやってもぐり込むかだ。
ふっと見るとパーキングのサインがビルの一階の脇に出ていた。ゴメスは戸惑いながらも車を駐車場にいれた。そこは来客用の有料駐車スペースのようで目当てのBMWの姿は無かった。ゴメスは車を空いているところに止めて、ビルに通じるエレベーターのところまで行った。エレベーターは1階のホールと地下1階、2階をつないでいた。ドアの横の電光表示番にはL・B一、B二と書かれていた。ゴメスはエレベーターに乗りこむとB2を押したが、B2のランプは全く反応しなかった。その時エレベーターが不意に上に昇りはじめた。1階でドアが開くと、ゴメスは怪しまれないようにホールに出た。入れ替わりにスーツ姿のビジネス・マンがエレベーターに乗りこんだ。いったんホールに出たゴメスは急に何かを思い出したように踵を返すと閉まりかけたエレベーターのドアに手を入れてた。再びドアが開いたところでエレベーターに乗りこんだ。先ほどすれ違ったスーツ姿の男が不審そうにゴメスを一瞥して、手にした鍵をB2のボタンの下の鍵穴に指しこんでボタンを押した。するとB2のボタンに明かりがともった。ゴメスははじめてその時エレベーターのカラクリが判った。スーツ姿の男はゴメスを見ておたくもB2なのかという顔をした。機転を利かせてゴメスはズボンのポケットから自分のアパートの鍵や事務所の鍵などが取り付けられたキーホルダーを取り出してちらりと男に見せた。男は納得した様子で2人を乗せたエレベーターはB2まで降りていった。
スーツ姿の男を先に下ろすとゴメスは注意深く辺りを見まわしながら駐車上にでた。スーツの男は近くに止まっていたボルボのセダンに乗り込むとエンジンをかけるとゆっくりと出口に向けて車を運転した。男の車が視界から消えるのを待って、ゴメスは品定めをするように駐車場を見てまわった。お目当てのBMWは駐車場の一番隅のA3に止まっていた。ほろは被せないままであった。ゴメスはシャツの胸ポケットからカッター・ナイフを取り出すと中から刃を1センチほど出した。もう一度まわりに人がいないのを確かめるとBMWの運転席と助手席の本皮のシートをカッター・ナイフで滅茶苦茶に切り刻んだ。ゴメスは結果に満足するとエレベーターに戻りB1のボタンを押した。
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