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菜緒子たちは明日に控えたトルネード社とのミーティングの為、お昼から戻ってからぶっ通しで提案書の最終確認の作業とプレゼンテーションのリハーサルをした。全員が納得する形になった時には午後9時をまわっていた。
「これで明日のミーティングはばっちりだよね」ホセが嬉しそうな顔をした。
「もうこれ以上の訂正、添付は無いわね」
「それじゃ、今夜はこの辺で切り上げよう。帰る前に一杯どう」ホセが提案した。
「有り難う、でも今日はもうホテルに帰って熱いシャワーを浴びて寝たいわ」菜緒子が疲れた表情で言った。
「そうね、ホセ、それは明日にとっておきましょう」亜実が続いた。
「色男も美人2人に振られて形無しね」ジュリーが皮肉を込めた笑いを浮かべた。
「それじゃ皆僕が車で送っていくよ」
「ありがとう、たすかるわ」
「でも、安全運転でお願ね、ホセ。この前みたいなマッド・ドライブは勘弁してよ」ジュリーが目配せをした。
ジュリーはギリシャ人の父とフィリピン人の母を持つハーフで、とてもエキゾチックな顔立ちの美人だ。スタンフォード大学で金融工学を専攻し、その頭のシャープさは双肩する者がおらず、いつもホセは議論になると話題が何であれ言い負かされていた。
「相変わらず厳しいな。判りましたよ。セニョリータ・ジュリー」
「2人とも疲れているでしょうから、明日は11時ぐらいに来ればいいわよ」ジュリーは菜緒子と亜実を労った。
「そうね、お言葉に甘えようかしら」菜緒子が戸惑いながら言うと、
「そうしよう。それじゃ明日は少しばかり遅く来ますが宜しくお願いしますね」亜実が嬉しそうに言った。
「それじゃ、帰ろう」ホセが三人を促して、オフィスを後にした。1階でエレベーターを乗り換えて、地下二階にある駐車場に向った。エレベーターから降りたところの車寄せに三人を残して、ホセは車を出しに行った。しばらく待ったがホセが現れる様子が無かった。不思議に思った3人はホセの車が止めてあるほうに歩いて行った。暗がりの中でホセが車の横に立ち尽くしているのが見えた。
「ホセ、どうしたの大丈夫」ジュリーが声をかけた。ホセは返事もせずにただ車の運転席のシートを指さしていた。3人は運転席と助手席のシートを見て、息を呑んだ。そこには滅茶苦茶に切り刻まれた無残な姿のシートがあった。
「セキュリティーに連絡しましょう」ジュリーが言うと、
「ああ、頼むよ」とホセが憔悴した声で答えた。
「それから、菜緒子と亜実は私がタクシーでホテルまで送ってくるわ」
ホセは黙って頷くだけだった。3人は1階のホールに一旦上がった。ジュリーが宿直のセキュリティー・ガードに駐車場の件を伝えると、男は警察に連絡してからエレベーターで下に降りて行った。それからジュリーは自分のバッグから携帯電話を取り出すとタクシーを呼んだ。ジュリーはホテルまで2人を送っていくと言い張ったが、菜緒子と亜実は逆にホセの側にいるようにジュリーに頼んだ。迎車のタクシーがビルの前に着くと菜緒子と亜実の2人だけが乗りこんだ。ジュリーがタガログ語でタクシーの運転手に行き先を指示して後部座席のドアを閉めた。
「それじゃ、また明日ね」
「おやすみ、ジュリー、ホセの事頼んだわよ」
ジュリーは大丈夫と言うジェスチャーに右手の親指を突き立てて、軽くウインクをした。
タクシーは今朝ホセが運転してきた路を逆にホテルの方に向って走った。ホセの車の件が頭から離れず、2人は車のなかでお互いに黙りこくっていた。最初に沈黙を破ったのは亜実だった。
「やっぱり、マニラって物騒なところなのね」
「昨日、空港から街までの途中で老婆の物乞いを見たでしょう。あれもこの国の現実なのよ。貧富の差が激しすぎるのよ」
「でも、なんで、ホセの車にあんな悪戯をしなければいけないの。やはりそれも貧困からくる妬みなの」
「その辺は私にも良くわからないわ」
「犯人って、今朝会社に来る時に後ろを走っていた黒のクーペかな」
「まさか、それに何の目的があって」
2人を乗せたタクシーが大通りの赤信号で止まった時、亜実が座っている方の隣の車線に黒のクーペが横に並ぶように信号待ちをしていた。
「亜実、それっ・・・」菜緒子が窓の外を指指した。亜実はその指が示す先の方を見た。黒のクーペだ。2人にはそれが今朝の車なのかどうかはわからなかった。ただ、菜緒子は心の中でここ数週間引っかかっている何かが再びガン細胞のように増殖するのを覚えた。信号が青に変わると2人の乗ったタクシーは右折して、隣の車線にいたクーペは直進して行ってしまった。
「ちょっと考えすぎじゃない。ちょっと私達お疲れ気味なのよ。今日はぐっすり寝ましょう。明日は10時半にロビー集合でいいわよね。朝食はお互いにルーム・サービスでとりましょう」亜実が淡々と言った。
「ええ、わかったわ」
間もなく2人を乗せたタクシーはパシフィック・グランド・ホテルの車寄せに入っていった。
翌日、菜緒子と亜実がオフィスに顔を出すとホセはいつもの陽気な顔で2人を迎えた。
「おはよう」
「ホセ、昨日は災難だったわね。どうしたの」
「セキュリティーに警察呼んでもらって、事情聴取が終わったのが夜中の12時よ。おかげで私の睡眠時間は僅か3時間、お肌にどれだけの負担がかかった事か。シャネルの高い乳液でも買って貰わないと割に合わないわ」ジュリーが面白可笑しく茶々を入れてきた。
「ジュリー、君には感謝しているよ。今度その埋め合わせはするから」
「セニョール・ホセ、ここ3年分のあなたが埋め合わせをしなければならない穴と足し合わせると多分地球を着き抜けちゃうかもね」ジュリーは意地悪そうにウインクをした。
「ジュリー、頼むよ」
「それでホセったらね、警察の人がいろいろ聞いているのに、おろおろしちゃってさ、何一つまともに答えられないのよ」
「ジュリー、ほら話はその位にしてくれよ」色男のホセもこの時ばかりはかたなしだった。
「それで、車の方はどうしたの」
「警察からの証明を取ったので、保険で全てカバーできます」
「それはよかったわ」菜緒子が同情して言った。
「そう言えば、ホセ、昨日ホテルからここに来るときに尾行ているんじゃないかっていった黒のクーペがいたでしょう、あいつがまた昨日の夜ここからホテルに戻る時に私達の乗ったタクシーの横を走っていたの」
亜実が思わせぶりな口調で言った。
「亜実、黒のクーペなんて結構走っているわよ。同じ車かなんてわからないじゃない」菜緒子が諌めた。
4人は作業場となった会議室に入って、プレゼンテーションの資料をラップ・トップ・コンピューターから正面のホワイト・ボードに映しだして、1枚づつ確認していった。些細な変更はその場で亜実が手際よく処理していった。大幅な変更はなく、全部で54ページからなるプレゼンテーションの資料は完成した。
「それじゃ、これをカラー・コピーで何部作りましょう」菜緒子が聞くと、
「そうだな、僕らが4人、トルネードの役員と担当者が多分6人ぐらいなので、全部で10部かな」
「亜実、その資料をこのディスクに落として、私のデスクのコンピューターからカラー・プリンターで印刷するから」ジュリーはディスクを亜実から受け取ると会議室を出て行った。時計は正午を回っていた。お昼を食べている時間は無かった。ジュリーが戻ってきて言った。
「今、印刷しているわ。マリアが向こうにサンドウィッチとコーヒーを用意しているから軽くつまみましょう。1時半に出れば大丈夫でしょう」
四人は別室の小会議室に行った。そこではマリアがカップにコーヒーを注いでいた。
「マリア、有り難う」ホセが言った。
「どういたしまして」マリアが恥ずかしそうに、手を払うふりをした。
コーヒーを飲みながら菜緒子は昨夜から気にかかる一連の事を思い返していた。何かはわからないが何かが自分に警鐘を鳴らしていた。亜実が声をかけてくるまでどのぐらいの時間が経過したのだろう、菜緒子は自分の感覚が遥か遠い彼方に液体となって流れ出していくような錯覚に捕らわれていた。
トルネード社とのミーティングは成功裏に終わった。ミーティングでは主に菜緒子が中心にドラゴン・ビールの株式の売却価格と流動性の点からの話をした。2時間に及ぶ会議が終わった時にはトルネード社の最高財務責任者のフランシスコ・エストラーダは賞賛の拍手を菜緒子に送った。
「ミス・イイノ、あなたの考え方は明快です、私には反論の余地はありません。本件についてはおたくをアドヴァイザーとしてお願いします」
「ありがとうございます。ご期待にそえる様、全力を尽くします」菜緒子は言った。
隣に座っていたホセとジュリーが入れ替わり菜緒子と握手をした。
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