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4人がオフィスに戻った時は既に午後4時半を回ったところであった。ホセが1人オフィスにいたマリアに向かって言った。
「マリア、やったよ。200万ドルのディールを勝ち取ったよ」
「おめでとうございます」マリアは伏目がちに言った。
「さあ、今夜はお祝いだ」ホセが言った。
「ホテル・シンハーの『夏宮』を予約しておきました」マリアがホセに言った。
「マリアも一緒に来るだろう」ホセはマリアを誘った。
「有り難うございます。ただ私は主人の世話がありますから、お気持ちだけ頂戴します。皆さんで楽しんできて下さい」
マリアの主人は病気で長いあいだ床に付しており、マリアは5時には会社を出て夫の世話をしているのを思い出してホセはマリアに詫びた。
「ごめん、マリア」
「いいんですよ、気になさらないで下さい」
ホセは菜緒子と亜実の方を向いて言った。
「2人はどうされますか。ディナーは午後7時に予約してます」
「私は一旦ホテルに帰ってシャワーを浴びたいわ。朝から緊張のしっぱなしでずいぶん冷や汗かいてるから。亜実はどうする」
「菜緒子がホテルに戻るんなら私もそうする」
「ホセ、それじゃ私達一度ホテルに戻るわ」
「タクシーよんであげるわ」ジュリーが受話器を取って電話をし始めた。
「それじゃ、僕とジュリーは2人を迎えにホテルに行きますよ。6時半にホテルのロビーで会いましょう」
「タクシーは5分ぐらいで下の玄関先にくるわよ」ジュリーが言った。
「じゃ、またあとでね」2人はオフィスを後にした。
 
ゴメスは用意した盗難車の日産の白いサニーに乗って目的の場所に行った。その区画を2周ほど走って問題がないのを確かめると目的の場所から約100メートルほど手前の路肩に車を止めた。その足で大通りまで2ブロック歩いて右に曲がってパシフィック・グランド・ホテルの玄関先でタクシーに乗った。ゴメスは運転手に行き先を告げた。タクシーは大通りを抜けて東西に伸びる高速道路に入ると西に向って疾走した。15分ほど走って、マニラの郊外のランプで高速を降りると煙突が連なる工場地帯に入って行った。目的の場所はその通りの一番先にあった。錆付いたトタン張りの壁に覆われたその建物にはTRINITY MOTORという今にも落ちそうな看板がかかっていた。ゴメスはタクシーを降りると大きなトタンで出来た引き戸についている蝶番の鍵をあけて中に入った。中は大きな露天の敷地で方々にスクラップとなった廃車が3・4段に積み上げられていた。その脇にはゴメスの車である黒いクーペが止まっていた。ゴメスは事務所のようなプレハブの建物の方へ歩いていき、入り口の戸を別の鍵であけて中に入った。なかは薄暗く埃の匂いが立ち込めていた。天井からぶら下げられた裸電球のスイッチをいれると、中の様子がはっきりと浮かびあがった。スチール製の事務デスクと背もたれの壊れた椅子が1台あるだけだった。デスクの上には電話が1台置いてあった。ゴメスは椅子に腰をおろすと受話器を取り上げて使いなれば番号をダイヤルした。しばらくして電話がつながった。
「ボス、ゴメスです。例の件は今夜決行します」
「大丈夫だろうな。東京のクライアントも落ち着かないようで何度も電話をよこしてきている」
「大丈夫です。全て準備は完了です。あとは獲物が網にかかるのを待つだけです。今夜中に決着はつきますよ」ゴメスは自信満々に言った。
「おまえの腕は俺が誰よりも知っているよ。とにかく早く朗報を聞かせてくれ」
「わかりました。今夜12時ぐらいに連絡します」
電話を切るとゴメスはプレハブの事務所を出て、敷地に止めてあったクーペを外に出すと再びトタンの引き戸に錠前をかけて、クーペに乗ってその場を立ち去った。
 
菜緒子はホテルのロビーで亜実とわかれて自分の部屋に戻って熱いシャワーを浴びた。バスローブを着てカウチに座ってしばらく寛いだ。約束の6時半まで後1時間はある。そう思って瞼を閉じたのが間違いだった。目をあけるとベッド・サイドの時計は6時10分であった。あっ寝過ごした。菜緒子は慌てて髪をドライヤーで乾かして、軽く化粧をすると着替えてホセ達の待つロビーへ急いだ。エレベーターが1階のロビーに着くと慌ててロビーに駆け出した。その時、目の前を陰が横切ったと思うと激しい衝撃が続いた。誰かにぶつかったんだ。
「すみません。急いでいたので」
「私は大丈夫ですよ。逆にお怪我はありませんか」男が顔を上げて菜緒子を覗き込むような格好で見た。男の右頬には斜めに走る刃物で深く切りつけられた傷があった。男の目は獲物をしとめた蛇にような邪悪な光を放っていた。菜緒子は一瞬ひるんだ。何とかその場を取り繕って立ち去った。ロビーの正面玄関の近くでホセ、ジュリー、亜実が菜緒子を待っていた。
「菜緒子、遅いわよ」
「ごめんなさい。お待たせしてしまって・・・」
「大丈夫よ。さあ、行きましょう」ジュリーが笑顔で皆を外に誘導した。
「ここからすぐだから歩いていくよ」ホセが先頭を歩いきながら言った。
ゴメスは正面玄関のガラス扉の内側から4人が歩いていくのを見て、あの色男が車で来てない事を確信した。気付かれないようにゴメスはホテルの玄関を出て表の歩道に出た。その時、ちょうど4人が角を左に曲がろうとしていた。ゴメスは満足そうに4人の姿が角に消えていくのを見送った。やはりここからホテル・シンハーまではそのコースを通って行くのが妥当であった。ゴメスは口笛を吹きながらホテルの前に止めたクーペに乗って、街区を何度も右折しながらホテル・シンハーの正面玄関の見える場所に車を止めた。これで準備は完了だ。あとは4人が食事を終えて出てくるのを待つだけだ。
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