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<第2部>

第20章
 
1999年12月東京
 
「市田にはこの代償を払ってもらう、きっと・・・」
慎介の声が中華レストランの個室に響いた。慎介は由右子から受け取った印刷されたEメールの束をいつのまにか手が白くなるほど固く握りしめていた。物的証拠は何もないにしても菜緒子の交通事故があの市田昭雄によって仕組まれたものであったと慎介は確信した。当時、マニラの警察は盗難車を使った引ったくりが過って菜緒子をはねてしまったひき逃げだと片付けた。現に、事故現場はマニラでも一流ホテルが密集している地域で夜道を歩く女性のハンドバッグを狙った引ったくり事件が多発していたからだ。その後、菜緒子を轢いた盗難車はマニラの郊外で乗り捨てられているのが発見されたが、犯人はいまだに特定出来ていなかった。湯川亜実は自分を助ける為に犠牲になった菜緒子のことを思うといたたまれなくてその後会社を辞めていった。市田に対する憎悪の念が慎介の心の中に沸々と湧き出していた。慎介は決心した。きっと市田の尻尾をつかんでやる。奴にきっと償いをさせてやるんだ。
「おい、慎介」呆然としていた慎介に槙原が声をかけた。槙原の声に我に返った慎介は由右子の方を見て言った。
「由右子ちゃん、このアウト・プット貸してもらっていいかな」
「どうぞ、持って行って下さい。オリジナルは姉が残したパソコンの中にとってありますから」
「有り難う」
「慎介さん」由右子が心配そうな顔をして言った。
「あまり無茶なことはしないで下さいね」
「慎介、俺で力になれることがあったら何でも言ってくれ。俺も市田には大きな貸しがあるからな」
「槙原さん、有り難うございます。その時がきたらまた相談させてもらいますよ」
四人の間にしばらく沈黙が流れた。それぞれが何かを深く考えているようであった。一同を包み込む重苦しい雰囲気に耐えられなかったのか由右子が腕時計を見た。
「あら、もう10時だわ。そろそろお開きにしませんか」
「そうだな」槙原が由右子に続いた。勘定を済ませて4人はホテルの正面玄関のタクシー乗り場で別れた。由右子と槙原は帰る方向が同じだったので2人で同じタクシーに乗った。
「由右子ちゃん。連絡するよ」慎介は分かれ間際に言った。
「ええそうして下さい」
2人を乗せたタクシーを見送った後、慎介は急に菜緒子の思い出が心に蘇ってきた。それは何ともやるせない思いに変っていった。横にいた清水学を見て慎介は言った。
「学、俺このまま家に帰っても寝れそうにないよ。一杯付き合ってくれよ」
「ああ、いいよ」学は慎介を気遣って誘いを快く受けた。
 
慎介と学が立ち寄ったバーは六本木の雑居ビルの最上階にあった。ドアを開けるとピアノの音とハスキーヴォイスの女性ジャズシンガーのせつなく悲しげな歌声が聞こえてきた。2人は黒服のバトラーに案内されて長いバーカウンターの高いスツールの椅子に腰を下ろした。カウンターには2人の他には1組のカップルが座っているだけで、店内の客も疎らであった。慎介はシングル・モルトのウイスキーをロックで2人分注文した。慎介は先程からの憤りが依然収まらない様であった。ウイスキーを啜ると出し抜けに慎介が切出した。
「学、市田昭雄はうちのプライベート・バンクに口座を開設したんだったな」
「ああ、大澤さんの紹介でな。あれはいわく付きの話だよ。その後上司のグートが直接管理しているから、僕はその内容についてはよく知らないんだ」市田といえども、プライベート・バンクの客である事には変わりなかった。プライベート・バンカーにとって顧客の情報を漏洩する事は死刑にも匹敵するご法度であった。学はモンテカルロでの1億円の送金の件がどうしても慎介に話せなかった。
「市田と大澤社長は一体どう言う関係なんだ?」
「慎介、ごめん。俺は本当に正直言ってその辺の関係については何も知らされてないし、第一に知っていたとしても、何も教えられないんだよ。立場上ね」学は慎介の側に立ってやりたいという気持ちを何とか押し殺した。
「学、一生のお願いだ。2人の関係について調べてくれないか。あの時、モンテカルロに一緒に行っただろう。何かがあったんだよな」容疑者を詰問する刑事の様に慎介は学に詰め寄った。
「慎介すまない、僕の口からは今は何も言えない。ただ市田と大澤社長との関係がクリーンなものでないと周囲の人達が思っているのも事実だ。これについては僕も否定はしない・・・」
学は慎介から目をそらすと自分のグラスの中の丸く削られた氷の塊に目を落とし、軽く回してカラカラと音を鳴らした。
「しばらく時間をくれないか。自分なりに考えてみる時間が欲しいんだ。どんな形であれ慎介には事実を話すよ。ただその前に幾つか調べてみたいことがあるんだ」
「学、無理を言ってすまない。ただ俺は・・・」
「ああ、わかっているよ」
学は元気づけるように慎介の肩を軽く叩いた。
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