TOKYO IPO スマホ版はこちら
TOKYO IPOTOKYO IPOは新規上場企業の情報を個人投資家に提供します。



第1部

第2部
     


なぜ今、コモディティなのか?

女性のライフプランと公的年金

運用を取り巻く環境を考えよう

オンナのマネースタイル

■資産運用ガイド
いまさら聞けない株式投資の基本


意外と知らない?!投資信託の基本


試してみたい!外国株の基本


慣れることから始めよう外貨投資の基本


お金持ちへの第一歩 J−REIT


アパート・マンション経営


IPO最新情報や西堀編集長のIPOレポート、FXストラテジストによる連載コラム、コモディティウィークリーレポートなど、今話題の様々な金融商品をタイムリーにご紹介するほか、資産運用フェア、IRセミナーのご案内など情報満載でお届けしています!
東京IPOメルマガ登録


IPOゲットしたい!口座を開くならどこ?
FX(外国為替証拠金取引)ってなに?
FX人気ランキング
知らないと損しちゃう!企業の開示情報


そんなある日、慎介は飯野由右子から電話をもらった。
「慎介さんですか、飯野由右子です。その後いかがですか」
「ああ、由右子ちゃんか。どうにかこうにかやっているよ。でもこのままここにいたら気が変になりそうだよ」
「まあ、あまり自分を追い詰めないで下さいね」由右子が優しくいたわるように言った。
「ああ、自分じゃ分かっているつもりなんだけどね・・・」
由右子が心配してくれているのが受話器を通してひしひしと伝わって来た。
「あの実は私、湯川亜実さんと連絡をとったの。今度会う事にしたんですけど、慎介さん一緒に来てもらえませんか。彼女、お姉ちゃんの側に最後まで一緒にいた人だから何か聞けるんじゃないかと思って・・・」
「由右子ちゃん、でも今更そんな事してどうするつもりなの」
由右子は悲しそうで今にも泣き出しそうな沈んだ声で応えた。
「それは・・・、慎介さんだってそうでしょう。姉の死の真相を知りたいんです」
慎介はどう答えていいのか分からず固唾を飲んだ。
「彼女に会うのは来週の火曜日のお昼なんです。場所は銀座にある麗華堂パーラーで11時半に会う約束をしています。慎介さん、是非一緒に彼女の話を聞いて下さい」

麗華堂パーラーは銀座に本社を置く老舗の化粧品メーカーが経営するレストランで、お昼の時間は銀座に買い物に来ている有閑マダムの社交の場でもあった。店内を見渡す限り、男性客は慎介と隅の方のテーブルに座ってモデル風のグラマーな女性と話をしているスタイリストと思しき30代前半の長髪で髭面の男ぐらいであった。周囲は綺麗に着飾った買い物途中の女性ばかりで慎介は気恥ずかしく落ち着かなかった。慎介の前には飯野由右子が座っていた。
「亜実さん、来てくれるかしら」由右子は不安そうな目をして慎介を見た。その時、慎介がレストランの入り口付近でキョロキョロと辺りを見まわしている女性に気づいて手を上げて合図を送った。女は慎介の事を確認すると由右子と一緒に座るテーブルの方に近づいて来た。
「お久しぶりです。ご無沙汰しています」亜実は控えめな態度で挨拶した。
「お忙しいのにお呼びたてして申し訳ありません」由右子が簡単に礼を述べた。亜実は由右子の隣の席に座った。そこには以前の陽気な明るい性格の湯川亜実の面影はなかった。亜実は飯野菜緒子が事故死したのは自分の所為だと自責の念で苦しみ続けていたのだった。だから、妹の由右子から電話を貰った時に会いに行くべきかどうかとても悩んだ事を告白した。由右子はそんな湯川亜実もまた市田の悪事の犠牲者なのだと思った。亜実の事を気遣って由右子が言った。
「亜実さん、そんなに自分の事を責めないで下さい」
「でも、あの時、菜緒子が私の事を庇わなければ・・・」
亜実は当時の事を思い出し、その目は痛恨の涙でいまにも溢れそうであった。
「亜実さん、実は今日お話したい事があるんです。姉の事故に関して・・・」
亜実の表情が強張って、体を硬くしていくのが手に取るように分かった。
「あれは仕組まれた事故だった可能性がでてきたんです」由右子がさらりと言った。
「仕組まれた?」亜実の目が怪訝そうな疑惑に満ちた色に見る見るうちに染まっていった。亜実は目の前につきつけられた新事実とどう向き合ったらよいか分からなかった。そんな亜実の様子を見かねて慎介が割って入った。慎介は菜緒子が自宅の個人のコンピューターに残した数通のEメールの詳細について話をした、目の前の亜実の顔がどんどん蒼白に変わっていくのを目の当たりにしながら。話を全て聞き終えた後、亜実が呟くように言った。
「信じられない事だわ」
「私も姉の送ったEメールを読んだ時、自分の目を疑いました。でも姉は何かを予感してこれらのメールを残していたのだと思います」由右子は姉の菜緒子の事を思いだし、涙で声が詰まった。
「亜実ちゃん、どんな些細な事でもいいんだ。あの時の事を話してくれないか。君にとっても十分辛い事は百も承知だ・・・」
亜実はコクリと頷くと、軽く宙に目を向けて当時の事を回想する様に話し始めた。
マニラ出張の話は急に市田昭雄から舞込んで来た物であった。取引相手のドラゴン・ビールは日本では大手のビール会社で、エクィティ部長の本山憲造が大切な顧客が絡む取引を飯野菜緒子と湯川亜実だけに委ねるのは無茶苦茶であると反論していた。本山は最後まで自分自身がマニラに出向いてこの取引を成立させようと奔走していた。マニラでは1度だけ変な車に尾行けられた事があったが、その時2人は特段別に気にもかけなかった。マニラの駐在員事務所のスタッフのホセ・ドアンの車の皮張りのシートがナイフのような物で切り刻まれる事件があった。亜実は当時の事を思いつくままに話した。話しているうちに亜実本人も何かが変であったことに徐々に気付き始めていた。亜実の話を全て聞き終えて、由右子は慎介の顔を見た。
「慎介さんは、今の亜実さんの話をどう思います」
「うん、これだけじゃまだ何とも言えないよ。すべては状況証拠だからね。でも裏に何かがあった事だけは確かだろう」
 
市田昭雄は重苦しい雰囲気に包まれて自分のオフィスでたまった書類に目を通していた。昨晩、忘年会と称して大澤源太郎に呼び出され、さんざん連れまわされたあげくに、低迷する大亜精鋼の株価を何とかするように強要されたのであった。大澤に弱みを握られた市田にとってそれは決して拒否する事の出来ない要求であった。大澤は早くアナリストをつけて大亜精鋼の株価を上げるよう市田に指示したのである。しかしながら、前に大亜精鋼を担当していたアナリストの中西圭太が自殺未遂の騒ぎを起こして会社を去っていった後、巷では悪い噂が流れ、その空いたポジションに応募してくるような奇特な者は誰もいなかった。この状況をどう乗りきったらよいものか市田は途方に暮れていた。やり場のない憤りを誰かにぶつけたかった市田は電話で舎弟の本山を自分の部屋に呼びつけた。
「その後、アナリスト探しはどうなっている」
「中西の事件が尾を引いていて方々に餌は撒いているんですが、かすりもしません」
「何をのんきな事を言っているんだ。俺は大亜精鋼の大澤さんに矢のように催促されているんだぞ」市田は憤慨を露わにした。本山はそんな市田の様子を上目遣いに見て言った。
「市田さん、お言葉ですが、何でそこまで大澤社長に義理立てしなければならないのですか。例の転換社債の発行だけでも十分じゃないですか」
市田は痛い所をつかれて言葉に詰まってしまった。何とかその場を取り繕うようないい訳をした。
「それはだな、あと2年でその転換社債も満期がくるんだ。いまのままじゃ転換されることもなくまた返済の為の金を用意しなくてはならんのだ。今の大亜精鋼の内容からしても銀行が全額金を出してくれるとは思えないだろう」
「まあ、それはおっしゃる通りだと思いますが・・・」
本山は市田と大澤の間に何か特別な取引があった事はうすうす感じていた。しかし、市田の一存で自分がいま手中に収めているエクイティ部の部長の席が危うくなる事を考えると、市田に刃向かうことは出来なかった。本山は子供の頃、いじめられっ子だった。運動が大の苦手で、かけっこはいつもビリっけつだった。『鈍ケン』と周りからからかわれ、辛い思いをしていた。そんな本山にとっての生きる術は自分の正義感を曲げてでも強い者の側につく事であった。今、市田昭雄に取入っているのもそんな本山の子供の頃からの生き方の延長であった。市田に何と罵られようが仕方がない。それが自分が生きていく上で避けられない運命なのだから・・・
「本山、ぼけっとしてないで何とかしろ」市田の罵声が平手打ちの様に本山の左右の頬に浴びせられた。
「でも市田さん、現在大亜精鋼をカバーしているアナリストは他社に全部で4名いるんですが、4人ともここ数ヶ月まともなレポートは書いていませんよ。まさか『売り』とは書けないから、じっとしているんですよ。そんな奴らをうちに引っこ抜いてきたとしても、いきなり『買い』の評価なんかつけませんよ」
「馬鹿野郎、その無理を何とかするのがおまえの仕事だろう」
市田自身、それが無理難題で馬鹿げた事であるのは十分に分かっていた。ただ、何とかして、それがその場しのぎであってもいいから大澤源太郎の呪縛から逃げ出したい一心が市田を駆りたてていた。
「もう、すべてのヘッド・ハンターにも話をしました。もうこれ以上、僕達に打つ手はありません」本山が悲痛な声をあげた。
「中西圭太を呼び戻せないのか、奴は今どうしているんだ」
市田は狂っている。本山は思った。1度自殺にまで追い込んだ張本人のもとに戻ってくるような奴が何処にいるというのだ。
「中西なら最近新しく出来た投資顧問会社で運用の為のリサーチの仕事に就いたと聞いていますが」
「奴と早速連絡をつけるんだ、給料にはいとめをつけるな。破格のオファーを出してやれ」
    <<前へ
次へ>>

Copyright © 1999-2008 Tokyo IPO. All Rights Reserved.