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湯川亜実は年末に慎介と菜緒子の妹の由右子に会ってから、何となく落ち着かない日々を送っていた。あのひき逃げ事故が仕組まれたものであったかもしれないという新事実が脳裏に去来しては亜実の心を悩ませ続けていた。さんざん考えた末に亜実は自分の手で真実を確かめようと決心した。1月の第2週の月曜日に亜実は意を決してユナイテッド・リバティーの市田昭雄に電話を入れてみた。
「市田さんですか、前にそちらでお世話になっていた湯川です」
市田は予期せぬ亜実からの電話に驚きつつも、平静を装って電話に出た。
「おお、湯川、久しぶりじゃないか。元気でやっているのか」
「ええ、お蔭様で、相変わらず同業の畑で働いています」
「飯野君があんな事故にあって、おまえさんのショックも相当の物だった様だが、元気そうな声を聞いて安心したよ」
亜実の真意が掴めず、市田は亜実の事を気遣う様な振りをしていた。
「その事故の件で、私は市田さんに是非お聞きしたいことがあるんです」亜実は単刀直入に切り出した。市田の心の中で警戒の赤信号が点滅し始めた。
「ほう、何かな。飯野君の事故は大変残念な事だと思っている。俺達にとっても大きな損失だった」
「市田さん・・・」亜実は思わせぶりに間をおいた。
「実はあの菜緒子の事故は仕組まれたものだったと言う人が出てきたんですよ」
「いっ一体誰がそんな事を・・・」
「それは私の口からは申し上げられません。もう少し事の真相がはっきりしてからではないと」
市田は喉の奥深くまで焼け火箸を差し込まれた様な激しい喉の乾きを覚えた。
「市田さん、私この件をもう1度自分が納得出来るまで調べてみるつもりです」亜実は挑むような口調で言った。
「湯川君、今更そんな事をしても死んだ飯野菜緒子が戻ってくる訳でもないだろう」
「ええ、それは分かっています。でも菜緒子は私を助けようとして身代わりで死んだのです。せめて真実だけでも明らかにしてあげないと、彼女も浮かばれないと思うんです」
市田は湯川亜実の決意が固いものである事を確信した。同時にそれが自分に火の粉となって降りかかってくる危険をはらんでいる事をひしひしと感じていた。
「市田さん、1つお尋ねしてもよろしいですか」
「ああ、何かね」
「何故、あの時マニラの案件を飯野菜緒子に任せられたのですか。本山さん本人が出向くと言われていたのを差し置いてまで彼女を指名された理由は何だったんですか」
市田は亜実に自分の企みのからくりを全て見ぬかれてしまっている様な脅迫観念に襲われた。
「いや、あの時は君達2人にとってもいい経験になると思ったし、本山には別にやってもらわなければならない重要な取引があったんだよ」
市田は言葉を慎重に選びながら応えた。亜実は遠い昔の記憶を辿った。あの時、エクイティ部が抱えていた案件はたしか例のビール会社の取引しかなかったはずだ。だから、本山は自分でそれを担当する事にこだわったのではないか。
「湯川君、今度お昼でもどうかね。もし君にその気さえあるのならまたここに席を用意しても構わんよ。もちろん、その時は給料もポジションもそれなりに考えさせてもらうよ」
「お気持ちだけは有り難く思いますが、でもそこには菜緒子との思い出があまりにも多すぎて・・・」 
「まあ、時間はたっぷりあるからそう先を急がなくていいよ。またこの件は別の機会にでも話そう」
その後、しばらくの沈黙が流れた。亜実は突然早く電話を切りたい衝動に駆られた。
「市田さん、どうもお忙しいところ失礼しました」簡単に礼を述べると市田が何かを言い出す前に亜実は一方的に電話を切った。受話器を戻した手が小刻みに震えていた。心臓の鼓動が加速していくのを感じた。亜実は心を落ち着けようとオフィスの窓越しに見える皇居の森を遠い目をしてしばらく眺めた。受話器の向こう側で動揺している市田の様子が伝わってくる様であった。思った通り市田は何かを隠している。亜実は確信した。菜緒子は慎介達が言ったように市田の企みの犠牲になったのだろうか。自分のまいた餌にどう市田が食いついてくるのか亜実はいろいろと思いを巡らせた。
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