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春の訪れを高らかに宣言するかのような陽気のいい午後であった。慎介はオフィスのあるシティ・スクエアのテラスにあるカフェで手持ち無沙汰にコーヒーを啜っていた。最後の一口を飲み干した時、息をきらせながら小走りにやってくる飯野由右子の姿が目に入った。
「ごめんなさい。遅くなってしまって。クライアントとの会議が予定より長引いてしまって・・・」
「大丈夫だよ。今日の午後は僕は何も予定が入ってないからね」
由右子は、走って来た為に額に滲み出た汗をハンカチで押さえながら、注文を取りに来たウェイターにアイス・ティーを頼んだ。由右子は出された水を一口飲んでから、息を整えると話始めた。
「いままで連絡しなくてごめんなさい」由右子はマニラから帰国してから、慎介への報告が遅れ遅れになってしまっていたことを詫びた。
「まとめて休んだ分のつけがまわってきて、なかなか時間が取れなかったんです」
「そんな事気にしないで。それで、マニラはどうだった」慎介が訊いた。
「これといった収穫があったわけではないんですけど、でも、やはり姉が狙われていたって事は確信出来ました・・・」
由右子は出されたアイス・ティーで喉を潤すと、マニラで調査した事を包み隠さず全て慎介に話した。慎介は真剣な面持ちで由右子の報告に耳を傾けた。話を聞いているうちに菜緒子のイメージが慎介の脳裏を過ぎり、慎介は胸を締め付けられるような痛みを覚えた。由右子の話が終わると、慎介が口を開いた。
「由右子ちゃんは、それで菜緒子の、お姉さんの事故が仕組まれたものであったと確信するに足るものがあったと言うんだね」慎介が確認するように訊いた。由右子は黙ったまま頷いた。慎介が続けた。
「事故の数日前にその黒のクーペが菜緒子達を尾行していた可能性があるというんだね?」
「もちろん、今となってはそれは憶測の域は出ませんけど・・・」
「うちのフィリピン事務所の連中はどう言っていたの?」
「ホセさんなんかは、最初は半信半疑だったんだけど、姉の残したEメールの話や、その尾行をしていたと思われる黒のクーペが事故現場の近くに止まっていたのを確認してから、姉の事故が故意だったのかもしれないって思いなおしたみたいでした。でも、彼にとっても、同僚のジュリーさんにとってもあの事故の事は早く忘れたいみたいで、あまり私から調査を強要する事は出来ませんでした。もちろん2人とも私にはとても協力的で親切にして下さったんですけど・・・」由右子は涙を堪えながら辛そうに話をしてくれたジュリーの姿を思い出した。
「その後、フィリピンの警察からはその現場写真に写っていたクーペについて何か連絡はあったの?」
「いいえ」由右子は虚しく首を横に振った。
「マニラの街では毎日いろいろな事件が起きていて、警察も迷宮入りした様な事件をいまさら追っかけている暇なんてないんでしょう」由右子はその後何の音沙汰もないマニラの警察当局に腹を立てながらも、半ば諦め顔で言った。
「でも、慎介さん」由右子が思い直した様に言葉を続けた。
「私、マニラまで行って来てよかったと思っています。姉の他殺を証明するような決定的な物的証拠は見つかりませんでしたけど、事故の時その場に居合わせたホセさんやジュリーさんと話が出来て、姉の事故に対する疑惑は一層強いものになりました。私、絶対にあの市田昭雄だけは許せません・・・」
由右子の言葉は何かを決心した確固たる響きを持っていた。
「由右子ちゃん、市田はとても危険な男なんだよ。決して無茶な事はしないでくれよ。もし、君にまで何かあったら僕は死んだ菜緒子になんて言えばいいんだい」慎介は由右子を諭すように言った。1度決めたら一途なところは姉の菜緒子に共通するものがあった。慎介はいつの間にか、目の前に座る由右子と死んだ菜緒子を重ねて見ている自分にはっとした。
「わかってます。今後は何でも慎介さんに前もって相談しますから、心配しないで下さい」
 
慎介は由右子と別れてから会社に戻ると、デスクの電話のメッセージ・ランプが点滅していた。慎介はメッセージを再生する為に、自分の内線番号と続いてパス・ワードをプッシュした。メッセージは2件録音されていた。1件目は湯川亜実からであった。
『慎介さん、湯川亜実です。戻られたら連絡下さい。今日は9時ぐらいまで会社にいます・・・』
亜実にしては元気のない低いトーンの声でメッセージは録音されていた。慎介は続いて2件目のメッセージを再生した。
『よう慎介、久しぶり。学です。話したい事があるので来週あたりの夜時間空けてもらえないかな。連絡待っています』
慎介は受話器を戻すとため息をついて天井を見上げた。2人からの連絡は一体何だったのだろう。慎介は背広の上着の内ポケットから携帯電話を取り出すとボタンを操作して湯川亜実のオフィスの電話番号を呼び出した。青白く光る携帯電話のモニターに映し出された電話番号を見ながら、デスクの受話器を取ってダイヤルした。数回の呼出音の後で回線が繋がった。
「はい、湯川です」亜実が電話に出た。
「朝岡です。電話もらったみたいで・・・、返すのが遅くなってしまってごめん」
「ううん、別にいいのよ」
「久しぶりだね。どうしてた?」慎介は何気なしに訊いた。その後、しばらく沈黙があった。慎介は急に不安に駆られた。
「亜実ちゃん、どうしたの?」
亜実の心の中では慎介の問いかけが何処か遠いところで響いている様であった。突然、亜実は暴漢に襲われたあの時の光景と恐怖が甦った。
「亜実ちゃん」慎介はもう1度呼びかけてみた。亜実はそんな慎介の声ではっと我に返った。
「ごめんなさい。ちょっと私・・・」亜実は言葉が最後まで出てこなかった。
「どうしたの? 何かあったんだね」慎介が訊いた。
亜実は一息ついてから気持ちを落ち着けるとぽつりぽつりと話始めた。
「前に慎介さんと菜緒子の妹さんと銀座であったでしょう。実はあの後、私思いきって市田昭雄に電話をいれたの。私なりに事の真相を確かめようと思ってネ・・・」
「何だって・・・」慎介は驚きを露わにした。
亜実は話を続けた。市田に電話をした事、その後、会社からの帰宅途中に暴漢に襲われた事を詳細に説明した。
「その男は私を後ろから羽交い締めにするとナイフを私の頬に突きつけて、マニラでの事は一切忘れろって脅迫してきたの」
「それで、けがはなかったんだね」亜実は慎介の心配を受話器を通して感じた。
「ええ、最後に地面に叩き付けられるように後ろから押されて、軽い脳震盪と手足に擦り傷をつくった程度だったわ。慎介さんにはもっと早く連絡したかったんだけど、その後ちょっと精神的にもまいってしまって。でも、何とか自分自身の中でもケリがついたんで、こうして電話をしたわけ。いつまでも逃げ回っているっていうのも私の性分に合わないしね」
「亜実ちゃん、君って人は・・・」
「慎介さん、とにかく市田の奴はクロよ。間違いないわ。私、確信したの」亜実の口調は確信に満ちていた。そんな亜実を心配して、慎介が懇願するように言った。
「もうこれ以上無茶な事はしないでくれよ」
「ええ、わかっているわ。また近いうちに菜緒子の妹さんも交えてランチでもしましょうよ」亜実はいつもの陽気なトーンに戻っていた。
「うん、それじゃまた連絡するよ」そう言って、慎介は電話を切った。

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