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第24章
 
2000年4月東京
 
清水学は人目を避ける為に、新宿にある外資系のホテルの和食レストランの個室を予約していた。学は席に着くと対面に腰をおろした慎介に向かって言った。
「今日はわざわざ新宿まで来てもらって悪いな。あまり会社の近くじゃないほうがいいと思って。ディナーのコースを予約してあるんだ。とりあえずビールでいいかな」
慎介は学の申し出に対して頷くとしっとり落ち着いた内装の個室を見回して言った。
「相変わらず、プライベート・バンカーは派手だな」
「慎介、そうからかわないでくれよ。それに今日は大事な話があるんだ」
「ああ、おまえから電話を貰ったときから何かあるなとは思っていたから。それでその話っていうのは一体何なんだ」慎介は学を急き立てた。
「おいおい、慎介、そう先を急ぐなよ。とりあえず夕食を済ませてから本題に移ろう。ここの懐石は結構いけるんだよ」
2人は運ばれてきた生ビールのグラスで乾杯をして、運ばれてくる料理に舌鼓を打ちながら、近況を話題にした。慎介の方の話はどうしても菜緒子の事故に関連する事に終始した。慎介は飯野菜緒子の妹である由右子がマニラにまで飛んで、事故当時の様子について調査してきた事と湯川亜実が市田にかまをかけようとして接近して、その後暴漢に襲われた事等を学に話した。学は神妙な面持ちで慎介の話に聞き入った。慎介の話が終わると学は真剣な目をして慎介の顔を見据えていった。
「実は、僕が今日話そうと思っている事も、それに関することなんだ」
そこに食後のデザートが運ばれ、玉露が一緒に出された。学は個室を担当していた仲居に大切な話をしたいのでと断って、部屋の扉を閉めてもらった。
「いやに仰々しいな」慎介が言った。
「ちょっとばかり顧客の秘密に関わるやばい話なんでね」そう言うと学は部屋の隅に置いてあったブリーフ・ケースから1枚の無地のマニラ封筒を取り出して席に戻った。学はいつもは見せた事のないこわばった表情で話を始めた。
「昨年末に皆で食事をした時、菜緒子の妹さんからあの残されたEメールの件を話されて、皆一様に市田昭雄の事を疑い始めたよな」学が言った。
「その後、慎介おまえからも市田の事を調べてくれと頼まれて、僕は一体どうしたらいいのかずっと悩んでいたんだ」学はカラカラに乾いた喉を潤わせようと、お茶を一口啜ってから話を続けた。
「前にも言ったけどプライベート・バンカーは顧客の情報をいかなる場合においても死守しなければならないんだ。大袈裟に聞こえるかもしれないけど、それがプライベート・バンカーに課せられた使命なんだよ。但し、顧客の不正な取引を知り得た場合は、守秘義務もその限りではなくなるんだけど…」学は言葉の語尾を濁した。一言も発せずに学の話に聞き入っていた慎介は待ちきれなくなって訊いた。
「つまり市田は何か不正な事をやっていたんだな」
学は黙って肯くとシャツの胸ポケットから4つ折りにされたメモ紙を慎介に手渡した。慎介はそれを受け取ると開いて目を通した。紙には聞きなれたいくつかの会社の名前が学の筆跡で書かれていた。
「これが一体?」慎介は訊いた。
「慎介、この会社の名前を聞いて何か思い当たらないかな?」学が試す様な目で慎介の顔を覗き込んだ。
「ああ、このリストの会社のほとんどがうちがM&Aでアドヴァイザーをやったり、株式の新規公開で関係したところだよな」
慎介の返答に満足した様子で、学が続けた。
「つまり、慎介のいる投資銀行部のスタッフはこれらの会社のインサイダー情報を知る立場にあったって事が言える訳だよな」
「そのインサイダー情報と市田とどう関係があるのかな?」慎介は学にそう訊ねながら、学が言わんとするところをすべて悟ったのであった。
「まさか…!」
「そのまさかなんだよ」学が目尻に意味深な笑いを浮かべた。
「とうとう市田の奴の尻尾を掴んだよ。それも大澤源太郎の太い尻尾と一緒にね。ただ、これはあくまでも僕の立場からすれば顧客の情報なんで大ぴらに表沙汰には出来ないけどね」そう言うと学はマニラ封筒の中のコピー2枚を慎介に手渡した。そこには先程の学のメモ書に書かれた会社の株の売買が記録されていた。その2枚の書類には全く同じ期日で同じ銘柄の株を売買した事実が記されていた。2枚の違いは売買の量で、片方がもう一方の10倍から20倍の株を取引していた。
「これは名前が表に出ない匿名口座の客の最近の取引報告書の写しなんだ。取引金額の大きいほうが大澤源太郎のもので、もう1つが市田昭雄のものなんだ」学が説明した。
「それでこれをどうするつもりなんだ。明らかにインサイダー情報を使った不正取引じゃないか。上司はどう言っているんだ」
「上司にはまだ報告していない」
「どうして?」慎介が憤慨した口調になった。
「たとえ報告しても、ボスは多分この件を穏便に処理してしまうと思う。これが表沙汰になる事はうちの看板にも影響を及ぼすからね…」
「それじゃ不正を見て見ぬふりをするってのか」激昂して知らず知らずのうちに慎介の声は大きくなっていた。
「慎介、誤解しないでくれ。僕は何もそうは言っていないよ。だから、こうしてその証拠を君に見せたんだ。市田昭雄がクロであるという事に繋がる重要な証拠をね」
慎介はこみ上げて来る怒りで肩を震わせていた。
「慎介、僕が今君にしてやれる事はここまでなんだ。これが本当に僕にとって精一杯なんだ。わかって欲しい」学は悲しそうな目をして、懇願するような口調であった。
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