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第25章
 
2000年5月東京・香港
 
「市田さん、顔色が優れませんね」腹心の本山憲造が市田を気遣って言った。
「いやちょっとばかり疲れているんだ」
「2・3日休まれてはどうですか」
「馬鹿野郎、俺達は鮫と一緒なんだ、動いてないと死んじまうぞ」
「す、すみません」本山は詫びた。
「いや、実はな、ちょっとばかり大亜精鋼の大澤さんに振り回されっぱなしでな…」市田らしくもなく部下に愚痴をこぼした。
「大澤社長も押しの強い方ですからね。でも市田さんとは入魂の仲じゃないんですか?」
「普通は親しき仲にも礼儀ありって事なんだが、あの人の場合はそんなもんはこれっぽっちもねえんだ」市田は吐き捨てるように言った。
「市田さん、そうであれば暫く誰か他の者を大亜精鋼の担当でつけたらどうですか」本山は市田の顔色を覗いながら提案した。
「おう、そうだな、それはいい考えだ」
市田は大澤源太郎との間にワン・クッション置く事で大澤からの呪縛から多少でも逃れられるであろうと思った。
「もともと大亜精鋼を担当していたのは朝岡だったよな」市田が訊いた。
「そうです。もともと、大亜精工は旧スイス・インダストリアル・バンクの顧客でしたから、朝岡がずっと担当していた様に記憶しています」
市田はガラス張りの自分のオフィスの外のデスクに座って仕事をしている秘書の川辺真樹に向かって声を張り上げた。
「川辺、朝岡はどうした。ちょっと呼んでくれ」
コンピューターで急ぎのプレゼンテーションの資料を作っていた真樹は傍若無人な市田の命令に苛立ちを覚えながら、席を立つこともせずに大声で返答した。
「今、外出中です」真樹の声はオフィス中に響いた。
「戻って来たら俺のところに来るように言っておけ」
「わかりました」真樹はぶっきらぼうに返答するとコンピューターに向かってやりかけの仕事を再開した。市田は再び本山の方に向かって言った。
「本山、おまえうちのアセット・マネジメントで運用にかかわっている奴を誰か知っているか」
「いえ、直接には誰も知りませんが・・・、ただ、山川証券で投信企画部長をやっていた長谷川さんがうちのアセット・マネジメントに転職されていますよ。ご存知ですか」
「ああ、あの東大出の良家の坊ちゃんだろう。俺は山川にいる時からあいつとはウマが合わなかったからな。いけすかないインテリ野郎って奴だよな。おまえは奴のことは知っているのか」
「いえ、特に親しい訳ではないのですが、会えば挨拶位はしますけど・・・」
「本山、おまえさん何とか長谷川のボンクラとあたりをつけてうちのアセット・マネジメントが今後どの日本株に投資をしようとしているのか情報を引き出してきてくれ」
「そんな事彼らが僕達に教えてくれる訳ないじゃないですか。インサイダー情報ですよ」本山があきれた顔で言った。
「そんな事はおまえに言われなくてもわかっているよ。だからこそ、そこんところをおまえさんにうまくやってもらいたいんだ」
「そんな無茶な」本山が弱音を吐いた。そんな弱腰の本山を睨みつけると市田が牙を剥いた。
「本山、何で俺がおまえを腹心として手元に置いてやっているのかわかっているんだろうな。酒でもたらふく飲ませて、女あてがってでも情報を仕入れてくるんだ。その経費は一切俺がもつから。わかったか」
本山にとって市田の命令は絶対服従であった。
「わかりました」本山は渋々市田の指示を承諾したのであった。
 
朝岡慎介は、仕掛り中の案件の為にその日の午後中、弁護士事務所に缶詰になっていた。オフィスに戻って来たのは午後8時をまわった頃であった。慎介の姿を見て川辺真樹がやって来て言った。
「市田さんが用があるって言っていたから伝えておくわ」
「あっそう、それで市田さんは今いるのかな?」慎介が訊いた。
「いるわけないでしょう。今日は赤坂でどこぞの会社の役員の接待と称して飲んでいるわよ。9時半位に戻って来るんじゃないかしら」
「何の件だろう」慎介は首を傾げた。
「さあ、何も聞いていないから私にはわからないわ。とにかく言伝は伝えたからね」真樹は用件を伝えるとそそくさと自分の席に戻って行った。
一体何の用があるんだろう。慎介は市田のメッセージが不審に思えてならなかった。気を取り直すと、午後の弁護士との会議で議論したポイントをまとめてロンドンとニューヨークのオフィスの関係者全員にEメールで送った。時計の針がもうすぐ午後10時に到達しようとした時に部屋の入口のドアを激しく叩く音がした。川辺真樹が不快な顔を露わにして「ボスのご帰還よ」と皆に聞こえるように言うと、大股で入り口の方に歩いて行ってドアを開けた。ドアの外側には程よく酔っ払った市田が廊下の壁に寄り掛かる様に立っていた。川辺真樹の顔を見ると市田はろれつが回らない様でたどたどしく言った。
「おお、真樹ちゃん。今夜はまた一段と美しい」
「それはどうも有り難うございます。さあどうぞ」真樹は無愛想に返答すると、市田を部屋の中に招き入れた。市田は酒気をオフィス中に撒き散らしながら
「よっ、皆さん遅くまでご苦労さんです」と言って、ガラス張りの自分の部屋に戻って行った。デスクの本革張りの椅子に腰を下ろして、コンピューターのEメールをチェックしようとしたが、酔いがまわった市田は思うようにコンピューターのキー・ボードを操作できなかったらしく、癇癪を起こしてコンピューターの主電源を切ってしまった。その後、市田は椅子にふんぞり返るような格好で鼾をかき始めた。
慎介は頃合を見計らって市田の部屋に行った。部屋の扉は大きく開かれていて、部屋中にすえた酒の匂いが充満していた。
「市田さん」慎介は声をかけたが、いっこうに反応がなく、市田は鼾をかき続けていた。
「市田さん」慎介が更に大きな声で呼ぶと、市田は重そうな瞼を押し上げて、慎介の方を虚ろな目で見た。
「何だ?」
「市田さんが私の事をお呼びだと川辺さんから聞きましたので参りました」
市田は酒が回っていて頭痛のする頭を振った。
「えーっと、何の件だったかな」市田は何とか思い出そう頭を左右に振っていろいろと思案した。
「それでは思い出されたら、またご連絡下さい」
慎介がそう言って、踵を返して市田の部屋から出ていこうとした時
「おっ、そうだそうだちょっと待ってくれ。思い出したよ」市田が言った。
「何でしょうか」慎介が訊いた。
「いや、実は大亜精鋼の件なんだが、また今後君に担当してもらおうと思って」
「でも、大亜精鋼は市田さんご自身が大澤社長さんと大変親しくされていて、市田さんご本人が担当されるということではありませんでしたでしょうか」慎介は不審に思った点を口にした。
「うん、まあな。ただこの前のファイナンスの時はおかれていた状況が状況だけに慎重に対応しなければならなかったからな。でも、その後は会社のビジネスも順調に推移していて、また君に担当してもらいたいんだ。私自身も、大亜精鋼ばかりにかかっているわけにもいかんしね」
「そうですか」慎介は納得のいかないという目をして事務的に答えた。
「何か不満でもあるのかね」市田の口調が攻撃的なトーンに変化した。
「いえ、別に。わかりました」
「それじゃまた宜しく頼むよ。朝岡君」
「了解しました。それでは僕はこれで失礼します」慎介は挨拶をすると、軽く会釈をして市田の部屋を後にした。
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