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その日、慎介は名古屋に出張していた。日本を代表する大手自動車メーカーの部門売却の件で、本社の経営企画部のスタッフと朝からぶっ通しの会議で疲労困憊であった。会議を終えて、会社を後にしたのは午後7時を回っていた。JR名古屋駅に着くと、次の東京行きの『のぞみ』のチケットを購入した。定刻の午後8時45分に『のぞみ68号』は4番ホームに入線してきた。7号車の5Aの席に腰を下ろすと、慎介は疲れ切った頭を窓に預けた。豊橋を過ぎたあたりで大粒の雨が車窓を叩きつけはじめた。遠くで轟く雷が暗く曇った空を時折、明るく染め上げた。慎介は清水学から打ち明けられた話、飯野由右子がマニラで調査した事、湯川亜実が暴漢に襲われた事、そして市田昭雄が大亜精鋼の担当を慎介に差し戻してきた事、全てのことを遠くを照らす雷の筋を見ながら、自分なりに考えていた。でも、そこに確固たる答えが見つからないでいる自分が車窓に映し出されていた。これから、一体自分は何をしたらいいのだろう。同じ質問を心のなかで繰り返してみたが、それから先の道を教えてくれる様な答えは何も無かった。そんな自分に苛立ちを覚え、慎介はいつのまにか掌が白くなるまで拳を握り締めていた。その時不意に背広の内ポケットの携帯が振動を伝えた。はっとして、携帯電話を取り出して、液晶のディスプレーを見た。飯野由右子の名前が光を放っていた。慎介は通話ボタンを押すと電話に出た。
「慎介さん。由右子です」
「由右子ちゃん、ちょっと待って、今新幹線の中だから」そう言うと慎介は携帯を手に席を立つとデッキへと向かった。自動扉を抜けてデッキにまで来ると電話に向かって話はじめた。
「ごめん、もう大丈夫だから。どうしたの」慎介は訊いた。
「私の方こそごめんなさい。そんなに急ぐ話でもなかったんですけど、まず慎介さんの耳にいれておこうと思って・・・」
「何なのかな?」
「実は私、7月からユナイテッド・リバティーで働く事になりました」
「ええっ、なんだって」驚きで慎介は声を詰まらせた。
「日経新聞で、アナリストのアシスタントを募集していたの、応募してみたら即採用って事になってしまったんです。これで、姉をあんな目にあわせた市田って奴を内部から調査出来ますね」
「由右子ちゃん、君って子は・・・」
「慎介さん、大丈夫ですよ。私、その辺はうまくやっていく自身はありますから。こう見えても業界でそれなりに大波をくぐって生き抜いてきていますから」
「まえにも言ったと思うけど、市田はとても危険な奴なんだよ」
「でも虎穴に入らずんは虎子を得ずって言うでしょう」
新幹線はトンネルに入ってしまったのか急に電波の状態が悪くなり、電話はそのまま切れてしまった。慎介はその場に佇んで切れてしまった携帯の表示を黙って見ていた。死んだ菜緒子も1度言い出すと後に引かない行動力のある女だった。妹の由右子もそんな菜緒子と似たところがあるのかもしれないと思った。でもこれからどうやって市田昭雄に復讐をしかけていったらいいのだろう。慎介はデッキの壁にもたれ掛かると、ドアの窓から遠くの夜空を見つめて思案に耽った。
 
翌日、東京の街には朝から細い針の様な雨が降り続けた。高層ビルのオフィスの窓から見える東京の街には地の底を這うようにガスがたれ込めていた。慎介は何となく拭いきれない憂鬱を心に秘めてそんな街を窓際に立って眺めていた。同僚の西野力が慎介の肩越しに声をかけてきた。
「慎介、どうしたんだ。何だか浮かない顔して…、財布でも落としたか?」
「いや、別に、なんだかうっとおしい天気だなって思って」
「おまえ、最近なんだか元気なくて変だよな」
「そっ、そうかな」慎介は西野力に自分の気持ちを見透かされたような気がして、戸惑いを隠せずに応えた。
「ああ、なんとなく、いつものおまえらしくないよ」
「このところ仕事がたてこんでいて、ちょっと疲れ気味なのかも…」
「ちょっとガス抜きが要るんじゃないかな。今度六本木のラン・パブにでも行って、パァーっとやろうよ。ちょっといける店見つけたんだ。俺とおまえだったらなかなかのイケMENで、結構モテルと思うからさ」西野力はどこまでも体育会系の明るさとおおらかさで勝負するタイプだった。遊び方も体の限界に挑戦するところがあった。疲れている時に西野力の言うガス抜きなんかされたら2・3日は体調不良で苦しむことになる。
その時、慎介のデスクの電話が鳴った。慎介は西野力に向かって、
「そん時は宜しく頼むよ」と言い残すと素早くデスクに駆け寄って受話器取った。
「ユナイテッド・リバティー、朝岡です」
「よお慎介、久しぶり」槙原理一の明るい声が受話器を通して聞こえてきた。
「槙原さん、こちらこそご無沙汰してます。どうしたんですか、槙原さんから電話してくるなんて珍しいじゃないですか」
「いや、その後どうしているかなって思って。年末に会って以来、ろくに話もしてなかったからな。来週あたりお昼でもどうだ」
「ええ、是非お願します」
「それじゃ、来週の火曜日はどうかな」
慎介はスケジュール帳を捲って火曜日のお昼に何も入っていないのを確認すると
「OKですよ」
「それじゃ、場所は適当に決めてからメールで連絡するよ」
「わかりました」
電話を切ると慎介はスケジュール帳の火曜日のお昼の欄に槙原とのランチ・アポイントメントを記入した。
 
東京の丸の内といえば、日本でも一流大手企業の本社が集中するビジネスの中心である。さしずめニューヨークでいうミッド・タウンに匹敵するエリアである。この一体を統括する財閥系の大手ディベロッパーが老朽化したビルの再開発を契機に丸の内の仲通りを一流ブランドのショップの集中する一大商業地区に転換しようとしていた。ニューヨークの五番街、ロンドンのニュー・ボンド・ストリート、そして、ミラノのモンテナポレオーネ通りに次ぐファッションの中心地にする計画であった。安いつるしのスーツを着た疲弊した日本のサラリーマンと華やかなブティックの並ぶストリート、何ともちぐはぐなコンビネーションであった。ニューヨークの洗練されたビジネス・マンとは雲泥の差であった。そんな仲通りの中央に新しく出来たアジア風のモダンなレストランで慎介は槙原理一と会っていた。
「この辺も随分様変わりしましたね」慎介が言った。
「ああ、全くな。でも所詮まわりは日本の汚い親爺サラリー・マン達が徘徊しているんだぜ。なんだかコンセプトが根本から間違っているような気がするんだけどな」槙原がシニカルに意見を述べた。
「でも、何となく街が華やかになっていいじゃないですか」
「でも、問題は華やかになった分だけ経済に貢献するかどうかって点だよ」
2人はランチのメニューを暫く見てから、お互いに注文を済ませた。槙原から切り出した。
「ところで、慎介その後どうしていた」
慎介は暫く間を置いて、話始めた。
「その後、いろんな事がありましてね…」慎介は昨年の年末に菜緒子の妹の由右子から例のEメールの件を聞いてから市田昭雄に対する疑惑を解明する為にいろいろと調査をした事とその過程で知り得た事を順序だてて説明した。話を聞き終えると槙原は深刻な表情で訊いた。
「慎介、それでおまえはどうするつもりなんだ」
「もう少し、市田の奴の様子を見守るつもりです。決定的な証拠を掴むまでね」
「勝算はあるのか」槙原が心配そうに言った。
「いまは何とも言えません。でも、僕も菜緒子の妹さんも、湯川亜実も同じ気持ちなんです。奴に償わせてやりたいって事は…」
「慎介、前にも言ったけど奴は一筋縄ではいかない野郎だ。やるからには細心の注意を怠るなよ。俺に出来る事があったら何でも言ってくれ」
「槙原さん、有り難うございます」慎介は礼を言った。槙原は出されたジャスミン茶を一口喉に流しこんで言った。
「そう言えば、来週、香港でM&Aのアジア地区国際会議があるんだけど、多分市田は子分の番場を連れて参加するんじゃないかな」
「ああ確か、来週海外出張が入っていたと思います」
「それじゃ、多分、香港で久々にご対面する訳だな」槙原は皮肉っぽく唇の右端を歪ませて言った。
「それじゃ、俺もちょっとばかり市田の奴をいじめてみるかな」槙原の顔に憎悪の笑みが走った。
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